教員を辞めたい初任・新任へ|1年目で辞めた885人のデータと5つの選択肢【元教員監修】

新任教員が辞めたいと思ったら|1年目・2年目の悩みと選択肢

教員を辞めたいと思っている初任・新任の先生へ。1年目で正式採用にならずに学校を離れた人は、令和6年度に全国で897人(うち依願退職885人)います。文部科学省が毎年公表している実数です。この記事では、その数字の中身と、条件付採用・初任者研修という1年目だけにあるルール、1年未満で辞めたときにお金がどうなるか、そして辞める以外の選択肢までを、元教員の立場で整理しました。

「まだ1年目なのに、もう辞めたいなんて甘えだろうか」
「2年目になっても慣れない。自分には向いていないのでは」
——4月からの数か月で、こんな気持ちを抱えている先生は、あなただけではありません。

私自身、公立中学校の教員1年目は、毎日「明日が来なければいい」と思いながら帰宅していました。いま教員のキャリア支援を仕事にして、延べ1,000名以上の相談を受けていますが、相談で最も多いのは実は40代ではなく、採用されて1〜3年目の先生です。

新川紗世 Re-Career代表

この記事の著者

新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役

公立中学校で11年、私立高校で1年、あわせて12年、英語教員として勤務。教員時代に病休を経験し退職。その後、教員専門のキャリア支援会社を設立。著書『「やめたいかも」と一度でも思ったら読む 教員の転職思考法』。スタッフ全員が元教員のキャリア支援会社を率い、自身も延べ1,000名以上のキャリア支援に携わる。

⏱️ 30秒でわかる結論

「初任で辞めたい」は珍しくない。まず制度とお金を知ってから決めても、間に合います。

実数令和6年度、1年目に正式採用とならなかった教員は897人(採用者の2.56%)。3年連続で増加

内訳885人が依願退職。分限免職は2人、懲戒免職7人。「クビ」で辞めている人はほぼいない

制度教員の1年目は条件付採用期間が1年(教育公務員特例法12条)。ここだけ他の公務員と違う

お金多くの自治体で、勤続12か月未満だと「失業者の退職手当」の対象外。辞める時期でお金が変わる

順番①休む ②制度を確認する ③選択肢を並べる。辞める・辞めないを決めるのは最後でいい

📋 目次

  1. 教員を辞めたい初任・新任の先生へ|まず知ってほしい3つのこと
  2. 1年目で辞めた新任教員は885人|「辞めたい」の前に見ておきたい文部科学省データ
  3. 「初任なのに辞めたい」は甘えではない|1年目に負荷が集中する3つの構造
  4. 知っておきたい「条件付採用」と初任者研修|1年目だけにある特別ルール
  5. 新任教員が辞めたいと感じる7つの原因|1年目・2年目・3年目で中身が変わる
  6. お金の話|教員が一年で辞めると退職金・失業手当・住民税はどうなるか
  7. 辞める前に試せる7つの手|初任のうちからできる制度と交渉
  8. 教員1年目で辞めたいと決めたら|年度途中・年度末それぞれの進め方
  9. 初任で辞めた人・残った人|3つの実例と、その後
  10. 初任・新任教員の「辞めたい」によくある質問
  11. まとめ|1年目のあなたには、思っているより多くの選択肢がある
  12. 合わせて読みたい|Re-Careerの3大ガイド

教員を辞めたい初任・新任の先生へ|まず知ってほしい3つのこと

初任・新任教員のキャリアの選択肢

いま「辞めたい」で検索してここに来た先生に、最初に3つだけお伝えします。順番に読める状態でなければ、この章だけで大丈夫です。

1. 1年目・2年目で辞めたいと思う人は、統計上まったく少数派ではない

後の章で詳しく見ますが、令和6年度に採用された教員のうち、1年間の条件付採用期間を終える前に学校を離れた人は全国で897人います。採用された人の2.56%、およそ39人に1人です。しかも令和4年度は637人(1.94%)、令和5年度は791人(2.29%)と、3年連続で増えています(文部科学省「令和6年度公立学校教職員の人事行政状況調査」)。

「自分だけが弱い」と思っている先生がとても多いのですが、数字はそう言っていません。

2. 1年目は、制度の面でも他の年次と違う

公立学校の教諭は、条件付採用の期間が1年間と法律で決まっています(教育公務員特例法第12条)。一般の地方公務員は6か月なので、教員だけが倍の長さです。同時に、法律で定められた初任者研修が1年間続きます(同法第23条)。

つまり1年目は、いちばん仕事に慣れていない時期に、いちばん見られていて、いちばん研修が多いという設計になっています。しんどいのは、あなたの能力の問題というより、この設計の問題です。

3. 決めるのは最後でいい。先にやることが3つある

「辞めたい」と思ったときの、おすすめの順番

  • ① 休む:年次有給休暇でも、病気休暇でもいい。判断力が落ちた状態で人生の決断をしない
  • ② 制度を確認する:条件付採用・病気休暇・分限休職・退職手当。知らずに損をする人が本当に多い
  • ③ 選択肢を並べる:続ける/異動する/休む/校種を変える/辞める。並べてから選ぶ

「辞めるか、辞めないか」の二択で考えているうちは、どちらを選んでも後悔しやすくなります。まず選択肢を増やしてください。

この記事は採用1〜3年目に特化しています。年代を問わない一般的な判断基準や、辞めない選択肢の全体像は教員・教師を辞めたいと思ったら|辞める前の12の判断基準と辞めない選択肢にまとめてありますので、そちらと行き来しながら読んでみてください。

1年目で辞めた新任教員は885人|「辞めたい」の前に見ておきたい文部科学省データ

文部科学省の調査データ

「新任教員の離職は増えている」という文章は、ネット上にたくさんあります。ただ、その多くが出典を示していません。ここでは、文部科学省が毎年12月に公表している「公立学校教職員の人事行政状況調査」の実数だけを使います。

1年目に「正式採用にならなかった」人の実数

令和6年4月1日から6月1日までに採用された教員のうち、条件付採用期間を経て正式採用にならなかった人は、令和6年度で897人でした。

年度 正式採用とならなかった人数 採用者数に対する割合
令和4年度 637人 1.94%
令和5年度 791人 2.29%
令和6年度 897人 2.56%

出典:文部科学省「令和6年度公立学校教職員の人事行政状況調査」3-2 条件付採用(PDF)/調査結果ページ

897人の内訳を見ると、印象が変わります

この897人の中身が、実はいちばん大事なところです。

区分 令和6年度の人数
依願退職(自分から申し出て辞めた) 885人
 うち 病気を理由とするもの 358人(うち精神疾患 321人)
 うち その他・自己都合 505人
 うち 不採用の見込みを受けての依願退職 22人
死亡退職 2人
分限免職 2人
懲戒免職 7人
教育公務員特例法12条による不採用 1人
欠格条項による失職 0人

897人のうち885人、98.7%が依願退職です。分限免職はわずか2人、教特法12条による不採用は1人。「1年目でクビになった」と言えるケースは、全国でも数人しかいないということです。

「条件付採用だから、失敗したら切られる」と怯えている初任の先生に、私はいつもこの数字を見せます。実際に起きているのは「切られる」ことではなく「自分から辞めている」ことです。だからこそ、その決断を追い詰められた状態でしてほしくない、と思っています。

「20代の精神疾患休職が増えている」の正しい中身

同じ調査には、精神疾患による病気休職者の年代別データがあります。ネット上では「20代の割合がいちばん高い」と書かれていることがありますが、これは正確ではありません。

年代 令和2年度 令和6年度 令和6年度の在職者に占める割合
20代 844人 1,310人 0.86%
30代 1,435人 2,118人 0.95%
40代 1,351人 1,767人 0.94%
50代以上 1,573人 1,892人 0.64%
全体 5,203人 7,087人 0.83%

出典:文部科学省「令和6年度公立学校教職員の人事行政状況調査」1-1-4 精神疾患による病気休職者の学校種別・性別・職種別・年代別状況(過去5年間)(PDF)。割合は同表(4)年代別の値です。学校種別・性別・職種別の表とは分母が異なるため、それらの計(0.77%)とは一致しません。

実数でも割合でも、いちばん高いのは30代です。ただし増え方がいちばん急なのは20代で、5年間で844人→1,310人、率にして0.57%→0.86%まで上がっています。

「20代がいちばん多い」は誤りですが、「20代の負荷がこの5年で急に重くなった」は事実です。あなたが感じているしんどさは、この5年で全国的に強まっているものと同じ種類のものかもしれません。

「4月から夏休みまでが本当に長かった。同期のLINEグループが、9月には半分になっていて、自分が続いていることのほうが不思議でした」
——24歳・公立中学校教諭・女性

教員全体の精神疾患による休職の実態は教員の病気休職率28%・うち36%が1年以上の長期休職でも詳しく扱っています。数字で自分の位置を確認したい方はどうぞ。

「初任なのに辞めたい」は甘えではない|1年目に負荷が集中する3つの構造

誰もいない教室

「初任なのに辞めたいなんて、甘えだ」と言われた、あるいは自分でそう思っている——この記事にたどり着く先生の多くがそうです。私は、それは甘えではなく1年目に負荷が集中する構造の問題だと考えています。理由を3つに分けて説明します。

構造1:業務量は2年目以降と同じなのに、蓄積がゼロ

教員の仕事は、去年の自分の蓄積で回る割合が非常に大きい職業です。授業のスライド、ワークシート、学級通信のひな形、行事の段取りメモ、保護者対応の記録。ベテランがこれらを持っている一方で、1年目はすべてゼロから作ります。

それなのに、担任の持ち時数も、校務分掌も、部活動の顧問も、2年目以降とほとんど変わりません。同じ量の仕事を、蓄積ゼロでやっているのが1年目です。遅くなって当然だし、疲れて当然です。

構造2:初任者研修が「働く時間」の上に乗る

初任者研修は、教育公務員特例法第23条で研修実施者(原則は任命権者である都道府県・指定都市の教育委員会)に実施が義務づけられた法定研修です(文部科学省「教育公務員特例法(抄)」)。校内研修と校外研修があり、自治体によって回数は違いますが、校外研修に出た日の授業は、誰かに代わってもらうか、自分が後で取り戻すかのどちらかになります。

研修そのものに価値がないという話ではありません。ただ、研修は「余っている時間」に入るのではなく、いちばん時間がない人の時間の上に乗る——この設計が、1年目の消耗を大きくしています。

構造3:評価される立場と、助けを求める立場が同じ人に向く

1年目は条件付採用期間で、勤務状況が評定される立場にあります。その評定に関わるのは、多くの場合、管理職と指導教員です。ところが「困っています」「助けてください」と言う相手も、同じ管理職と指導教員です。

評価者と相談相手が同一人物である以上、弱音を出しにくいのは当然です。「相談すればいいのに」というアドバイスが刺さらないのは、あなたの性格の問題ではなく、この構造のせいです。

「指導教員に「まだ授業が成立していない」と言われた日から、質問ができなくなりました。質問すること自体が減点だと思ってしまって」
——23歳・公立小学校教諭・男性

だからこそ、この記事のあとの章では校外に相談先を置くことを繰り返しおすすめしています。職員室の外に一人でも話せる人がいるだけで、1年目の見え方はかなり変わります。職員室の人間関係そのものがしんどいときは教員の人間関係がつらい4つの構造的理由と、限界時の4選択肢も参考にしてください。

また、指導の名を借りた叱責が続いている場合は、それは「指導」の範囲を超えているかもしれません。線引きの考え方と記録の残し方は教員のパワハラはどこに相談する?記録テンプレート付きにまとめています。

知っておきたい「条件付採用」と初任者研修|1年目だけにある特別ルール

教員に関する法令の資料

ここが、この記事でいちばん読んでほしい章です。1年目の教員にだけ適用されるルールがあり、それを知らないまま不安になっている先生がとても多いからです。

条件付採用期間は、教員だけ「1年」

地方公務員の採用は原則としてすべて条件付で、6か月良好な成績で勤務すると正式採用になります(地方公務員法第22条)。ところが公立学校の教諭・助教諭・講師については、教育公務員特例法第12条が「6月」を「1年」と読み替えると定めています。

条件付採用に関する条文(要点)

  • 地方公務員法第22条:職員の採用はすべて条件付。6か月良好に勤務すれば正式採用
  • 教育公務員特例法第12条:公立小中高等の教諭等は、上記の「6月」を「1年」として適用
  • 教育公務員特例法第23条:研修実施者(原則は任命権者。中核市の県費負担教職員は中核市教育委員会)は、採用の日から1年間の初任者研修を実施しなければならない
  • 地方公務員法第29条の2第1項:条件附採用期間中の職員には、分限の身分保障や不利益処分の審査請求に関する規定が適用されない(分限については条例で定める)

条文は e-Gov の地方公務員法、文部科学省の教育公務員特例法(抄)で確認できます。

「身分保障が及ばない」の、正しい怖がり方

地方公務員法第29条の2を読むと、たしかに条件付採用期間中は身分保障が弱いと書いてあります。ここだけを切り取って「1年目はいつでもクビにできる」と書いているサイトもあります。

ですが、前の章の実数を思い出してください。令和6年度に分限免職になった条件付採用の教員は、全国で2人です。教特法12条による不採用は1人。一方で依願退職は885人。

つまり現実に起きているのは、「切られる」ことではなく「自分から辞める」ことがほぼすべてです。制度上の身分保障が弱いのは事実ですが、それを理由に日々おびえる必要は、統計的にはほとんどありません。むしろ怖がるべきは、追い詰められた状態で自分から辞表を出してしまうことのほうだと思います。

初任者研修は「1年間」。2年目からは景色が変わる

初任者研修は採用の日から1年間です。これは法定なので、2年目には自動的に終わります(自治体によっては2年目・3年目のフォローアップ研修がありますが、初任者研修そのものとは別物です)。

1年目に「この生活が定年まで続くのか」と絶望する先生は多いのですが、初任者研修と条件付採用という1年目固有の負荷は、1年で終わります。ここを分けて考えるだけで、判断の材料が変わります。

臨時的任用(講師)の場合はルールが違う

ここは混同されがちなので分けておきます。臨時的任用の講師は、そもそも条件付採用の対象ではありません。任用期間そのものが年度単位などで区切られており、初任者研修の対象からも除かれます(教育公務員特例法第23条は臨時的に任用された者を除いています)。

「講師として働きながら採用試験を受けている」という立場の方は、正規採用者とは考えるべき論点がかなり違います。詳しくは臨時的任用教員(臨任)のキャリア戦略|正規登用か転職かを読んでみてください。

新任教員が辞めたいと感じる7つの原因|1年目・2年目・3年目で中身が変わる

新任教員のモヤモヤ

相談を受けていて感じるのは、1年目・2年目・3年目で「辞めたい」の中身が違うということです。同じ言葉でも、理由が変わると打ち手が変わります。原因を7つに分け、どの年次に多いかも添えました。

# 原因 多い年次 効きやすい打ち手
1 理想と現実のギャップ(授業がしたくて教員になったのに、授業準備ができない) 1年目 業務の優先順位を管理職と明文化する
2 指導力への不安(授業が成立しない・学級が落ち着かない) 1年目〜2年目 指導教員以外の相談先を校内外に作る
3 職員室の人間関係・孤立 全年次 校外に相談先を置く/異動希望
4 長時間労働と休めない文化 全年次 時数・分掌の軽減交渉、年休の分割取得
5 部活動主顧問の負担 1年目〜3年目 顧問配置の見直し要望、地域移行の状況確認
6 保護者対応への恐怖 1年目〜2年目 複数対応の原則化、記録を残す
7 「この仕事を定年まで」への疑問(キャリア観の問題) 2年目〜3年目 転職ありきでなく選択肢を棚卸しする

1年目に多いのは「業務が回らない」こと

1年目の「辞めたい」は、ほぼ物理的な問題です。時間が足りない、寝ていない、準備が間に合わない。この段階で必要なのは自己分析でもキャリア設計でもなく、睡眠と、仕事を減らす具体策です。

私自身も、公立中学校の1年目は英語の授業準備がまったく追いつかず、部活動から帰って22時から教材研究を始める生活でした。「授業がしたくて教員になったのに、授業準備ができない」という矛盾に、何度も心が折れそうになりました。あのとき必要だったのは励ましではなく、誰かに「その掲示物は作らなくていい」と言ってもらうことだったと思います。

2年目に多いのは「同じ1年をもう1回やるのか」

2年目は、1年目より確実に仕事が回るようになります。それなのに辞めたくなる先生が一定数いるのは、「この1年がこれから35年続く」という見通しが立ってしまうからです。1年目のしんどさは「慣れれば終わる」と思えますが、2年目のしんどさには終わりが見えません。

この段階の「辞めたい」は、物理的な問題ではなくキャリア観の問題です。休んでも眠っても消えません。必要なのは、教員以外の働き方を具体的に知ることです。

3年目に多いのは「石の上にも三年」を過ぎたあとの空白

「最低3年」と言われて走ってきた先生が、3年を過ぎた瞬間に力が抜けることがあります。3年目は初任のくくりから外れ、校務分掌も重くなり、後輩の面倒も見る立場になります。いちばん動きやすい年次でもあるので、ここでキャリアを考え直す方は多いです。

「2年目の10月に「あと33年これをやるのか」と思った瞬間に、涙が止まらなくなりました。1年目より仕事はできるようになっていたのに」
——25歳・公立高校教諭・女性

3年目のお金の実像(手取り・ボーナス・貯金)は3年目教員の家計の全て|手取り24万円の貯金・ボーナス・落とし穴に、20代のうちに動く場合の転職市場は教員の転職は20代がベスト?第二新卒として有利に転職する方法にまとめています。

お金の話|教員が一年で辞めると退職金・失業手当・住民税はどうなるか

教員のお金と年収

ここは、初任・新任の先生がいちばん情報を持っていないところです。そして辞める時期によって手元に残るお金がはっきり変わるところでもあります。煽るためではなく、知らずに損をしないために書きます。

落とし穴1:勤続12か月未満だと「失業者の退職手当」が出ない自治体が多い

まず前提として、公立学校の教員は雇用保険の適用除外です。辞めても、民間企業のような失業手当(基本手当)は出ません。

その代わりに「失業者の退職手当」という制度があります。退職手当の額が雇用保険の基本手当相当額に満たない場合に、その差額が支給される仕組みです。ただし要件があります。

「失業者の退職手当」の支給要件(埼玉県教育委員会の例)

  • 勤続期間が12か月以上(常勤)で退職した職員であること(退職時65歳以上の場合は6か月)
  • 退職の日の翌日から起算して1年の期間内に「失業」していること
  • 退職手当の額が、雇用保険法の基本手当相当額に満たないこと

出典:埼玉県教育委員会「教職員の失業者の退職手当」/同様の説明は鹿児島県教育委員会にもあります。要件と手続きは自治体によって異なるため、必ずご自身の県市の教職員課で確認してください。

ここが初任固有の崖です。4月採用の人が翌年3月末より前に辞めると、勤続12か月に届きません。失業手当も出ない、失業者の退職手当も出ない、という状態になり得ます。

「もう限界だから今日にでも辞めたい」という状態のときに、この差は現実的にとても重いです。年度末まで在職できるかどうかは、健康と相談したうえで検討する価値があります。逆に言えば、年度末まで持たせるために病気休暇・休職という制度がある、という考え方もできます。

落とし穴2:住民税は「辞めた翌年」に来る

住民税は前年の所得に対して翌年課税されます。在職中は給与から天引き(特別徴収)されていますが、辞めると自分で払う(普通徴収)ことになります。新任1年目は前年の所得が少ないので初年度の負担は軽いのですが、2年目・3年目に辞める場合は、収入がゼロの時期に前年分の請求が来ます。

ここを知らずに辞めて焦る方は本当に多いです。退職後のお金の全体像は30代教員の退職お金完全ガイド|退職金・失業保険・住民税・国保の落とし穴や教員が辞めたら失業保険はもらえる?公立は対象外でも届く5つのお金制度で、年代を問わず使える形で整理しています。

落とし穴3:退職手当は自治体の条例で決まる。1年ではほとんど出ない

公立学校教員の退職手当は、各自治体の条例で定められています。勤続年数が短いほど支給率は低く、1〜2年で辞めた場合に受け取れる額は、生活費の足しになるような金額ではありません。具体的な支給率は自治体ごとに違うので、この記事では一律の数字を書きません。ご自身の県市の「職員の退職手当に関する条例」または教職員課で確認してください。

勤続年数別の考え方や、退職手当そのものの仕組みは教員の退職金はいくら?勤続年数別の手取り早見表にまとめています。

落とし穴4:健康保険は「切れ目」を作らない

公立学校共済組合の組合員資格は、退職と同時に失われます。次のいずれかを、退職前に決めておいてください。

  • 国民健康保険に加入する(市区町村の窓口。前年所得で保険料が決まる)
  • 共済組合の任意継続組合員になる(原則として退職日から一定期間内に申し出が必要)
  • 家族の被扶養者になる(収入要件あり)

共済組合で使える制度は公立学校共済組合で使える制度5つ|医療・貸付・共済貯金と退職時の手続きにまとめています。

落とし穴5:奨学金の「教職に就いたら返還免除」は、もうない

「教員を続けないと奨学金の返還免除がなくなる」と思っている方がいますが、教育・研究の職に就いたことによる返還免除制度はすでに廃止されています。日本学生支援機構によると、大学院第一種奨学金の教育・研究職免除の対象は平成15年度(2004年3月31日)以前に採用された方までです。

出典:日本学生支援機構「教育又は研究の職に係る返還免除(廃止)」

つまり、いま20代の先生が「奨学金の免除のために教員を続けなければ」と考える必要は、基本的にありません。ここを勘違いしたまま身動きが取れなくなっている方に、これまで何人もお会いしました。返還が苦しい場合は、減額返還や返還期限猶予といった別の制度を検討するほうが現実的です。

辞める前に試せる7つの手|初任のうちからできる制度と交渉

相談できる人に話す

「辞める」以外の手を、実際に効いた順に7つ並べます。全部やる必要はありません。上から2つだけでも状況が変わる方がいます。

1. 眠る。まずそれだけ

判断力は睡眠で決まります。睡眠が5時間を切る日が2週間続いたら、その状態で人生の決断をしない——これは私が相談で必ず最初に言うことです。年次有給休暇は初任者にも付与されています。1日だけでも取ってください。

2. 病気休暇を「使える制度」として知っておく

眠れない・食べられない・涙が止まらないという状態なら、それは根性の問題ではありません。多くの自治体で、病気休暇は一定期間まで給与が支給される制度として設計されています(期間や取り扱いは自治体の条例・規則によって異なります)。

条件付採用期間中でも、診断書があれば病気休暇を取ること自体はできます。「1年目で休んだら正式採用にならないのでは」という不安はよく聞きますが、前の章で見たとおり、分限免職は全国で年間2人です。まずは受診してください。手続きの流れは教員の休職制度を徹底解説|休職中にできるキャリアの見直し方に、実際に休んだ人の話は「一度休むといけなくなる」は本当か|病休から復帰・退職を経験してにあります。

適応障害と診断された場合にやることの順番は適応障害になった教員が最初にやること|症状チェックから休職・回復までにまとめました。診断が出る前でも読める内容にしています。

3. 「やらないこと」を管理職と一緒に決める

1年目に自分の判断で仕事を減らすのは、かなり勇気が要ります。だから減らす判断を管理職に持ってもらうのがおすすめです。

管理職への切り出し方の例

  • 「いま抱えている業務を一覧にしました。優先順位をつけていただけませんか」
  • 「今学期は◯◯まで手が回りません。落としてよいものを一緒に決めていただけると助かります」
  • 「初任者研修の校外研修と行事が重なる週があります。授業の代替をご相談させてください」

「できません」ではなく「優先順位を決めてください」という言い方にすると、管理職も動きやすくなります。

4. 校外に相談先を1つ作る

職員室の中だけで完結させないでください。同じ自治体の同期、大学時代の友人、教育委員会の相談窓口、外部のカウンセリング。評価に関係しない相手を1人持つだけで、抱え込みはかなり減ります。

親に話しにくい、という相談も多いです。その場合の伝え方は教員を辞めたいけど親に言えない|家族の反対を乗り越えるヒントを参考にしてみてください。

5. 異動希望を出す(1年目でも書けます)

異動の内示は学校が決めるものではなく、教育委員会が決めるものです。多くの自治体で、初任者も含めて年に一度の意向調査(自己申告)が実施されます。1年目で希望が通ることは多くありませんが、「出しておく」ことに意味があります。記録が残るからです。

6. 校種変更・特別支援への異動という道

小学校から中学校へ、あるいは中学校から特別支援学校へ。持っている免許の範囲で、働く場所を変えられるのが教員という仕事の強みです。合わない理由が「子どもが嫌い」ではなく「いまの校種のリズムが合わない」だけなら、これで解決することがあります。

7. 「辞めない前提」でキャリアの棚卸しをしてみる

最後は少し意外かもしれません。辞めないと決めた状態で、教員以外の選択肢を調べてみることをおすすめしています。

「他にも道がある」と分かるだけで、いまの職場の見え方が変わることが本当に多いんです。逃げ道があると人は強くなります。逆に、逃げ道がないと思っているうちは、小さなことでも致命傷に感じます。選択肢の全体像は教員のキャリアプラン完全ガイド|5つの選択肢×年代別戦略にまとめました。

教員1年目で辞めたいと決めたら|年度途中・年度末それぞれの進め方

退職までの3ステップ

上の7つを試しても状況が変わらない、あるいは健康を明確に損なっている——そのときに辞めることは、逃げではありません。ここでは年度途中に辞める場合と年度末に辞める場合を分けて整理します。

年度末(3月31日)に辞める場合

もっとも一般的で、学校側の負担も自分の負担も小さい辞め方です。目安の流れは次のとおりです。

時期 やること
9〜10月 意向調査・自己申告のタイミング。この時点で管理職に相談しておくと後が楽
10〜12月 校長に退職の意向を伝える。次年度の人事配置が動き始める前が望ましい
12〜1月 退職願の提出(様式は自治体で異なる)。共済・退職手当の手続きを確認
1〜3月 転職活動。在職中に進めるほうが選択肢は広い
3月 引き継ぎ、私物の整理、退職辞令の受領、健康保険の切り替え準備

切り出す時期と言い方は教員が退職を「いつ言う」ベスト?年度末3ヶ月前ルールと切り出し方に詳しくまとめています。1年目でも考え方は同じです。

年度途中に辞める場合

「3月まで持たない」という相談も少なくありません。実際、令和6年度に依願退職した885人の中には、年度途中で辞めた方が含まれています。制度として不可能なわけではありません。

ただし現実には、後任の確保が必要なため、校長・教育委員会との調整に時間がかかります。次の順番で進めるのが現実的です。

  1. まず受診する。診断書が出る状態なら、退職ではなく病気休暇・休職から入れる場合があります
  2. 勤続12か月に届くかを確認する。失業者の退職手当の要件に関わります(前章参照)
  3. 校長に伝える。「辞めます」ではなく「続けられる方法がないか含めて相談したい」から入ると、選択肢が残ります
  4. 退職日を交渉する。学期末・年度末に合わせられないかは、必ず一度は検討してください

健康が明確に損なわれている場合は、順番を変えてください

  • 「勤続12か月まで頑張る」を優先してはいけないケースがあります
  • 希死念慮がある、眠れない日が続いている、食事が摂れない——このときは受診が最優先です
  • お金の最適化より、あなたが無事であることのほうが、どう考えても価値があります

1〜3年目の転職市場は、思われているより悪くない

「1〜2年で辞めたら経歴に傷がつく」と心配される方が多いのですが、20代であれば第二新卒として採用枠が設けられている企業が多くあります。教員経験で身についた「人前で話す力」「複数の相手と同時に調整する力」「記録を残す力」は、業界を問わず評価される要素です。

一方で、転職後の最初の3か月にリアリティショックを感じる方も多いです。ここを事前に知っておくと定着しやすくなります。詳しくは教員の転職、後悔する人としない人の違い|最初の3ヶ月のリアリティショックをどうぞ。

具体的な転職先の選択肢は教員・教師からの転職先おすすめ15選|経験が活かせる業界・職種と年収に、職務経歴書の書き方は教員・教師の職務経歴書テンプレート|そのまま使える例文と書き方3ステップにあります。教員経験しかなくて何を書けばいいか分からない、という段階の方でも進められる形にしてあります。

初任で辞めた人・残った人|3つの実例と、その後

前を向いて歩き出す

相談を受けてきた中から、初任〜3年目の3つのケースを紹介します。個人が特定されないよう、状況は一部変えています。共通しているのは「辞めた/辞めない」より先に、いったん止まったことです。

実例1|Aさん(20代・公立中学校1年目→2年目も継続)

4月から部活動の副顧問と学級担任を持ち、6月には睡眠が4時間を切っていました。「辞めたい」と相談に来られたとき、私が最初に聞いたのは志望動機ではなく、直近1週間の睡眠時間でした。

やったことは3つだけです。①年休を1日取って寝る、②抱えている業務を一覧化して管理職に優先順位をつけてもらう、③同期のLINEグループとは別に、評価に関係しない相談相手を1人つくる。夏休みを挟んで、Aさんは「辞める話は年明けにもう一度考えます」と言い、そのまま2年目に進みました。

Aさんが後で話してくれたのは、「辞めてもいいと思えた瞬間に、辞めなくてよくなった」ということでした。

実例2|Bさん(20代・小学校1年目の冬に退職→EdTech企業)

1年目の冬に体調を崩し、病気休暇を経て退職を決めた方です。退職前に、勤続12か月の要件と共済の切り替えを一緒に確認し、退職日を3月31日に設定しました。手続き上、これで受けられる制度が変わりました。

転職活動は在職中に始め、第二新卒枠でEdTech企業に入社。いまは教育に関わりながら、自分のペースで働いています。「教員を辞めたけれど、教育を辞めたわけじゃない」というのがBさんの言葉です。

実例3|Cさん(20代・高校2年目→特別支援学校へ校種変更)

集団を相手にする授業のリズムがどうしても合わず、2年目に限界を感じていた方です。ただ、話を聞いていくと、生徒一人ひとりと向き合う場面ではまったく疲れていないことが分かりました。

「辞める」ではなく「働く場所を変える」という選択肢を並べ、意向調査で特別支援学校を希望。3年目に異動が実現しました。免許の追加取得という課題は残りましたが、Cさんは「教員という仕事が嫌いだったわけじゃなかった」と話しています。

「辞めるつもりで相談に行ったのに、帰り道に「もう少しだけやってみよう」と思っていました。選択肢が3つあると分かっただけで、呼吸ができるようになった感じでした」
——26歳・公立中学校教諭・男性

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初任・新任教員の「辞めたい」によくある質問

初任・新任教員のよくある質問

Q1. 初任なのに辞めたいと思うのは、甘えですか?

甘えではないと考えています。令和6年度に条件付採用期間を終える前に学校を離れた教員は全国で897人(採用者の2.56%)、しかも3年連続で増えています。また、1年目は「蓄積ゼロで2年目以降と同じ量の仕事をする」「法定の初任者研修が上乗せされる」「評価者と相談相手が同じ人」という3つの構造的な負荷が重なる年です。個人の資質の問題として片づけるには、条件が厳しすぎます。

Q2. 教員1年目・2年目で辞めたら、その後の転職に不利になりますか?

20代であれば第二新卒として採用枠を設けている企業が多く、「1〜2年で辞めた=詰み」ということはありません。ただし、面接で必ず「なぜ短期間で辞めたのか」は聞かれます。感情ではなく事実(業務量・健康状態・やりたいこと)で説明できるよう準備しておくと通りやすくなります。職務経歴書の書き方は当サイトのテンプレート記事を参考にしてください。

Q3. 条件付採用期間中に病気休暇を取ると、正式採用にならないのでしょうか?

診断書があれば、条件付採用期間中でも病気休暇を取ること自体はできます。「休んだら正式採用にならないのでは」という不安はよく聞きますが、令和6年度に分限免職となった条件付採用の教員は全国で2人、教育公務員特例法12条による不採用は1人です。一方で依願退職は885人。実際に起きているのは「切られる」ことより「自分から辞める」ことです。まず受診してください。

Q4. 教員1年目に「クビ」になることはありますか?

制度上は、条件付採用期間中は分限の身分保障や不利益処分の審査請求に関する規定が適用されません(地方公務員法第29条の2第1項)。その意味で身分保障は弱いのは事実です。ただし令和6年度の実数では、分限免職2人・懲戒免職7人・教特法12条による不採用1人にとどまります。統計的には、日々おびえ続ける必要のある確率ではありません。

Q5. 年度途中で辞めることはできますか?

制度として不可能ではありません。実際、依願退職885人の中には年度途中の退職も含まれます。ただし後任の確保が必要なため、校長・教育委員会との調整に時間がかかります。おすすめの順番は、①受診する(休暇・休職で足りるかを確認)②勤続12か月に届くかを確認する ③校長に相談する ④退職日を交渉する、です。ただし健康が明確に損なわれている場合は、①だけを優先してください。

Q6. 教員を一年で辞めると、退職金や失業手当はもらえますか?

公立学校の教員は雇用保険の適用除外なので、民間のような失業手当は出ません。代わりに「失業者の退職手当」がありますが、多くの自治体で勤続期間12か月以上という要件があります(退職時65歳以上は6か月)。4月採用の方が翌年3月末より前に辞めると、この要件に届かない可能性があります。退職手当そのものは自治体の条例で決まり、勤続1〜2年ではごくわずかです。金額は必ずご自身の県市の教職員課で確認してください。

Q7. 講師(臨時的任用)でも、条件付採用や初任者研修の対象になりますか?

臨時的任用の職員は条件付採用とは別の区分で、教育公務員特例法第23条の初任者研修の対象からも除かれています。任用期間も年度単位などで区切られるため、正規採用者とは考えるべき論点がかなり違います。当サイトの臨時的任用教員のキャリア戦略の記事をご覧ください。

Q8. 辞めずに続けるという選択は、ただ我慢しているだけになりませんか?

なりません。私たちは「辞めるが正解」だとは考えていません。大事なのは、選択肢を知ったうえで自分で選んだかどうかです。他に道があると分かった状態で「それでも続ける」と決めた先生は、同じ職場にいても表情が変わります。逆に、選択肢を知らないまま続けている状態は、選んだのではなく閉じ込められている状態です。まず選択肢を並べてみてください。

まとめ|1年目のあなたには、思っているより多くの選択肢がある

最後に、この記事でお伝えしたことを整理します。

  • 令和6年度、1年目に正式採用とならなかった教員は897人(採用者の2.56%)。3年連続で増えている
  • そのうち885人は依願退職。分限免職2人・懲戒免職7人で、「クビ」はほとんど起きていない
  • 教員の条件付採用期間は1年(教育公務員特例法12条)。初任者研修も1年。この負荷は1年で終わる
  • 精神疾患による休職は20代で1,310人。5年で844人から増え、増加率は全年代で最大
  • 多くの自治体で勤続12か月未満だと「失業者の退職手当」の対象外(埼玉県教委の例)。辞める時期でお金が変わる
  • 奨学金の「教職に就いたら返還免除」はすでに廃止。それを理由に続ける必要はない
  • 辞める前に試せる手は7つある。眠る/病気休暇/優先順位を管理職に決めてもらう/校外の相談先/異動希望/校種変更/選択肢の棚卸し
  • それでも辞めるなら、年度末が基本。年度途中なら受診→勤続12か月の確認→校長へ相談→退職日の交渉の順で

1年目・2年目の「辞めたい」は、能力ではなく構造から来ていることがほとんどです。そして、いまのあなたには続ける・休む・異動する・校種を変える・辞めるという、少なくとも5つの選択肢があります。

どれを選んでも、私たちはあなたを否定しません。辞めるが正解じゃない。選択肢を持つことが正解だと思っています。まずは眠って、制度を確認して、それから選んでください。

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Re-Career代表 新川紗世
元教員が運営するキャリア支援

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