教員が受けるパワハラの実態と対処法|管理職・同僚からのハラスメントに負けない
この記事の著者
新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役
元公立中学校英語教員(10年以上)。教員時代に病休を経験し退職。その後、教員専門のキャリア支援会社を設立。著書『「やめたいかも」と一度でも思ったら読む 教員の転職思考法』。スタッフ全員が元教員のプロフェッショナル集団として、延べ1000名以上のキャリア支援に携わる。
教員が受けるパワハラの実態と対処法|管理職・同僚からのハラスメントに負けない
「指導」という名のもとに行われる理不尽な叱責。職員室で無視される日々。あなたが今感じている苦しさは、決して「気のせい」ではありません。
学校現場におけるパワーハラスメントは、閉鎖的な環境ゆえに表面化しにくく、多くの教員が一人で抱え込んでいます。この記事では、教員が受けるパワハラの実態データから具体的な対処法、法的手段まで、元教員の立場から徹底的に解説します。
教員のパワハラ被害の実態|データで見る深刻さ
教員の3人に1人がパワハラを経験
教職員の労働環境に関する調査によると、教員の約32%が職場でパワーハラスメントを受けた経験があると回答しています。これは一般企業の調査結果と比較しても決して低い数字ではなく、学校現場におけるハラスメントが日常的に存在していることを示しています。
さらに深刻なのは、加害者の内訳です。パワハラの加害者として挙げられた割合は、管理職(校長・教頭)が43.5%、同僚教員が65.2%(複数回答)となっています。つまり、上からの圧力だけでなく、横の関係からも日常的にハラスメントが生じているのです。
なぜ学校はパワハラが起きやすいのか
学校という職場には、パワハラが発生しやすい構造的な要因があります。
- 閉鎖的な職場環境:外部の目が入りにくく、問題が可視化されにくい
- 強い上下関係:管理職の権限が大きく、人事評価に直結する
- 「子どものため」という大義名分:理不尽な要求も「教育のため」と正当化される
- 異動の少なさ:加害者と長期間同じ職場で過ごさなければならない
- 相談先の不透明さ:民間企業のようなコンプライアンス窓口が整備されていない
「学校現場のパワハラが深刻なのは、「指導」と「ハラスメント」の境界が曖昧にされやすい点にあります。教育的指導であっても、人格を否定する言動は明確にパワハラです。」
——教育法務の専門家

教員が受けるパワハラの具体例
管理職からのパワハラ
管理職から受けるパワハラには、以下のようなパターンがあります。
- 精神的な攻撃:職員会議で名指しで叱責する、他の教員の前で能力を否定する
- 過大な要求:特定の教員にだけ校務分掌を過剰に割り振る、休日出勤を強要する
- 過小な要求:担任を外す、授業を持たせないなどの実質的な排除
- 人間関係からの切り離し:会議に呼ばない、情報を共有しない
- 個の侵害:プライベートな事情をしつこく聞く、病歴を職員室で話題にする
Re-Careerに相談に来られた元教員の方からは、「校長から毎日のように『教師に向いていない』と言われ続けた」「教頭に授業参観で粗探しをされ、毎回2時間以上のダメ出しがあった」といった声が寄せられています。
同僚からのパワハラ
同僚間のパワハラは、より見えにくい形で行われることが特徴です。
- 集団での無視:職員室で話しかけても返事をしない、情報を回さない
- 陰口・噂の流布:生徒や保護者の前で悪口を言う
- 仕事の妨害:教材を隠す、共有物を使わせない
- 暗黙の圧力:「あの人のやり方は間違っている」と周囲に吹き込む
- 年功序列による支配:経験年数を盾に理不尽な要求をする
パワハラの証拠の残し方|自分を守るために
パワハラに対処するためには、客観的な証拠を残すことが極めて重要です。「言った・言わない」の水掛け論にならないために、以下の方法で記録を蓄積していきましょう。
記録すべき5つの要素
- 日時:いつ発生したか(年月日・時間)
- 場所:どこで起きたか(職員室、校長室、廊下など)
- 加害者:誰からの行為か
- 具体的な言動:できるだけ正確な言葉や行為の内容
- 目撃者:その場に誰がいたか
証拠として有効なもの
- ハラスメント日記:毎日の出来事を時系列で記録する。手書きのノートでもスマートフォンのメモアプリでも構いません
- メール・メッセージの保存:業務連絡メールやチャットのスクリーンショットを保存する
- 録音:自分が当事者である会話の録音は、多くの場合法的に有効です(ただし自治体の規定を確認)
- 診断書:心身に不調が出た場合は、医師の診断書を取得しておく
- 同僚の証言:信頼できる同僚がいれば、目撃証言を依頼する
「証拠は「量」が重要です。1回の記録だけでは偶発的な出来事と判断されかねません。継続的に記録を残すことで、組織的・反復的なハラスメントであることを立証できます。」
——労働問題に詳しい弁護士

パワハラの相談窓口一覧|一人で抱え込まないで
校内での相談
まずは校内での解決を試みることが一般的ですが、加害者が管理職の場合は難しいケースも多いです。
- ハラスメント相談員:学校に設置されている場合は活用する
- 学年主任・教務主任:管理職以外の信頼できる上位者に相談する
- 養護教諭:心身の不調がある場合は健康面からのアプローチも有効
校外の相談窓口
- 教育委員会の相談窓口:各自治体の教育委員会にはハラスメント相談窓口が設置されています。匿名での相談が可能な場合もあります
- 総合労働相談コーナー(労働局):全国の労働局・労働基準監督署内に設置。無料で相談でき、必要に応じてあっせん制度も利用可能です
- 法テラス(日本司法支援センター):法的手段を検討する場合、まずは無料法律相談を利用できます
- 教職員組合:組合に加入している場合、団体として対応してもらえる場合があります
- みんなの人権110番(法務局):0570-003-110。人権侵害に関する相談を受け付けています
法的対処法|パワハラを許さないために
パワハラ防止法の適用
2020年6月に施行されたパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)は、公立学校の教員にも適用されます。この法律により、事業主(教育委員会・学校設置者)にはパワハラ防止のための措置義務が課されています。
具体的には以下の措置が義務づけられています。
- パワハラに関する方針の明確化と周知
- 相談体制の整備
- パワハラ発生時の迅速かつ適切な対応
- 相談者のプライバシー保護と不利益取扱いの禁止
具体的な法的手段
- 行政への申告:労働基準監督署への申告により、行政指導を求めることができます
- あっせん制度:都道府県労働局による紛争解決のあっせん(無料)
- 公務災害認定:パワハラにより精神疾患を発症した場合、公務災害として認定を申請できます
- 損害賠償請求:裁判所に訴えを起こし、慰謝料や逸失利益の賠償を求めることも可能です
- 人事院・人事委員会への申立て:公務員としての救済制度を利用する方法もあります
法的手段を取る際の注意点
法的手段は最終手段です。まずは校内や行政の相談窓口を活用し、段階的に対応していくことをお勧めします。ただし、心身の健康が著しく損なわれている場合は、迷わず専門家に相談してください。

筆者からのメッセージ|あなたの苦しみは本物です
私自身、教員時代に理不尽な対応を受け、体調を崩した経験があります。当時は「自分が弱いからだ」「もっと頑張らなければ」と自分を追い込んでいました。
でも、今だからはっきり言えます。パワハラを受けて苦しいと感じるのは、あなたが弱いからではありません。理不尽な環境に置かれれば、誰でも心身に影響が出ます。それは人間として当然の反応です。
Re-Careerには「もう限界だけど、辞めたら逃げたことになるのでは」と相談に来られる方が多くいます。しかし、自分を守るための決断は「逃げ」ではなく「戦略的撤退」です。心身の健康は、どんなキャリアよりも大切な土台です。
「環境を変えることは、自分の人生を守るための勇気ある選択です。私たちは、その一歩を踏み出すあなたを全力でサポートします。」
——新川紗世(Re-Career代表)
パワハラのタイプ別|教員現場で起こる5パターン
「パワハラ」と一括りにされがちですが、教員の現場では大きく5つのタイプに分かれます。自分が受けているのがどのタイプかを見極めることで、対処法も変わってきます。
① 威圧型パワハラ
大声での叱責、机を叩く、長時間にわたる説教など、恐怖や萎縮を引き起こすタイプです。管理職や年配教員から若手に対して行われることが多く、職員室全体の空気が凍りつくような場面が日常化しているケースも珍しくありません。
② 排除型パワハラ
会議や情報共有の場から外す、必要な連絡を回さない、行事の役割から意図的に外すなど、「集団から孤立させる」タイプです。表面的には穏やかに見えるため、本人も「気のせいかも」と感じてしまい、被害が長期化しやすい特徴があります。
③ 過大要求型パワハラ
明らかに一人で抱えきれない量の校務分掌、無理な期日設定、新人にいきなり困難なクラスを任せるなど、業務量や難易度で潰しにかかるタイプです。「教育のため」「成長のため」という名目で正当化されやすく、外部からは見えにくい傾向があります。
④ 過小要求型パワハラ
逆に、能力に見合わない簡単な仕事しか与えない、担任から外す、行事の中心から外すといったタイプです。本人のキャリア形成を妨げ、「自分は必要とされていない」と感じさせる狙いがあります。
⑤ 個の侵害型パワハラ
家庭の事情、恋愛、宗教、政治信条などプライベートな領域に踏み込む、SNSをチェックして指摘する、休日の行動を詮索するなど、「教員らしさ」を口実に私生活までコントロールしようとするタイプです。
自分が受けているパワハラがどのタイプかを言語化できると、相談窓口で説明する際にも伝わりやすくなります。
パワハラ被害を受けた教員の実体験|3つのケース
ケース1:30代女性・小学校教員(威圧型)
「担任を持って2年目の頃、新しく赴任してきた管理職から毎日のように『君のクラスは騒がしい』『指導力がない』と職員室の真ん中で大声で叱責されました。最初は『自分が悪いんだ』と思っていましたが、ある日、別の先輩教員が『あなたのクラス、本当に普通だよ。あの人がおかしいんだから』と声をかけてくれて、初めて『これはパワハラだ』と気づけたんです。」
このケースでは、第三者の客観的な一言が「自分は悪くない」という気づきにつながりました。パワハラを受けている本人は、自分を責める思考に陥りやすいものです。
ケース2:40代男性・中学校教員(過大要求型)
「学年主任、生徒指導主任、部活動顧問、研究主任を一人で兼任させられました。当然、土日もすべて潰れる状態。『君なら大丈夫』『君に期待している』という言葉に縛られて、断ることができませんでした。半年後、過労で倒れて入院し、初めて『これは異常な業務量だった』と気づきました。」
ケース3:20代女性・高校教員(個の侵害型)
「結婚予定の話を職員会議で『若いのに結婚するなら教員辞めるんだろ』と冗談めかして言われました。一度ならまだしも、職員室で何度も繰り返されたんです。プライベートを詮索する発言が積み重なり、精神的に追い詰められて転職を決めました。」
パワハラに遭った時にやってはいけない3つのこと
① 一人で抱え込む
「自分が悪い」「相談しても変わらない」と一人で抱え込むことが、最も危険な選択です。パワハラ加害者は「孤立した相手」を選んで攻撃する傾向があり、孤立すればするほど被害は深刻化します。家族、友人、元同僚など、職場の外の誰か一人でいいので、必ず話してください。
② 感情的に反論する
その場で感情的に反論したくなる気持ちはわかります。しかし、相手はそれを「逆ギレされた」「指導に従わない」と曲解し、さらなる攻撃の口実にしてくることがあります。事実を冷静に記録することに集中し、感情的な対峙は避けましょう。
③ 退職を急ぐ
追い詰められると「もう辞めるしかない」と思いがちですが、まずは休職という選択肢を検討してください。心身の不調がある場合、診断書をもらえば休職制度を利用でき、給与の一部も保障されます。冷静に判断できる状態に戻ってから、退職か復職かを決めても遅くはありません。
よくある質問(Q&A)
Q1. パワハラの証拠が手元にありません。今からでも間に合いますか?
はい、今からでも記録は始められます。日付・時刻・場所・発言内容・在席者を箇条書きでメモするだけでも証拠になります。録音アプリを使う場合は、会話の中で自分が一方的に話していない自然な状態で記録することがポイントです。
Q2. 校長や教頭に相談しても揉み消されそうで怖いです
その場合は、教育委員会の相談窓口や、学校外の労働相談窓口を最初から使ってください。校内のルートで解決しないケースも多く、外部の窓口から動く方が結果的に早いこともあります。Re-Careerでも経験のある相談員が一緒に整理できます。
Q3. パワハラで休職や退職した場合、次の転職先に不利になりますか?
結論から言えば、多くの企業では不利になりません。むしろ「困難な環境で苦しみながらも誠実に対応した経験」として評価されるケースもあります。ただし、伝え方には工夫が必要です。「被害者であること」ではなく「そこで何を学んだか」に焦点を当てた語り方を準備しておきましょう。
Q4. パワハラを受けている同僚を助けたいのですが、何ができますか?
「あなたは悪くない」という言葉を、ためらわずに伝えてください。それだけでも被害者の心は救われます。可能であれば、その同僚と一緒に相談窓口に行く、目撃した出来事を記録しておく、などのサポートも有効です。
パワハラを生み出す教員社会の構造的背景
「教員の世界は閉鎖的だ」とよく言われますが、それが実際にパワハラを生む土壌になっています。学校という組織の特殊な構造を理解することで、自分が置かれている状況を冷静に見つめ直せるはずです。
第一に、教員社会には「異動でしか人が入れ替わらない」という特徴があります。一般企業のような中途採用や転職が少なく、同じメンバーで長期間運営される。そのため、一度形成された人間関係や上下関係が固定化しやすく、加害者が長く居座る構造になりやすいのです。
第二に、「教育のため」という大義名分が、あらゆる行為を正当化する魔法の言葉として使われがちです。「君のためを思って言っている」「子どもたちのために我慢しろ」――こうした言葉が、ハラスメントを「指導」にすり替えてしまうのです。
第三に、外部の目が届きにくい職場環境です。職員室の中で起きていることは、外部からはほとんど見えません。だからこそ、勇気を出して外部の窓口や第三者に話すことが、自分を救う最初の一歩になります。
Re-Careerが提供できるサポート
パワハラに悩む教員の方に対して、Re-Careerでは以下のサポートを行っています。一人で抱え込まず、まずは話を聴かせてください。
① 状況整理のための個別カウンセリング:何がパワハラに該当するのか、自分の状況をどう言語化すればいいのか、元教員のスタッフが一緒に整理します。
② 休職・退職判断のサポート:「休むべきか」「辞めるべきか」を客観的な視点で一緒に考えます。
③ 転職を視野に入れたキャリア設計:もし退職を選ぶなら、その後のキャリアまで含めて伴走します。
大切なのは、「あなたが悪いのではない」という事実を、信頼できる誰かと共有することです。それだけでも、心の重さは大きく変わります。
今日、あなたにできる最初の一歩
ここまで読んでくれた方の中には、「何から始めればいいか分からない」という方もいるかもしれません。最後に、今日からできる3つの小さな一歩を紹介します。
① 自分の気持ちを紙に書き出す:今、何が起きていて、自分がどう感じているかを、誰にも見せない前提で書き出してみてください。言語化するだけで、心は少し軽くなります。
② 信頼できる誰か一人に話す:家族、友人、元同僚、誰でも構いません。「ちょっと聞いてほしいことがあって」と切り出すだけでいいのです。
③ 明日の自分のために、早く寝る:パワハラに耐えている方ほど、睡眠を犠牲にしがちです。今日だけでもいい、早めに布団に入ってください。あなたを守る一番の味方は、あなた自身の体です。
まとめ|パワハラに負けない教員であるために
教員のパワハラ問題は、個人の努力だけでは解決できない構造的な問題です。しかし、証拠を残し、適切な窓口に相談し、必要に応じて法的手段を活用することで、あなた自身を守ることは可能です。
- 教員の約32%がパワハラを経験しており、あなたは一人ではない
- 「指導」と「パワハラ」の違いを理解し、曖昧にさせない
- 日時・場所・内容を具体的に記録し、証拠を蓄積する
- 校内で解決が難しい場合は、教育委員会・労働局・弁護士に相談する
- 心身の健康を最優先に、環境を変える選択肢も視野に入れる
もし今の職場環境に限界を感じているなら、転職という選択肢も含めて、あなたの未来を一緒に考えませんか。