教員不足対策の限界|「呼び戻し」より「辞めない環境づくり」を優先せよ【独自調査】

教員不足対策議論への、Re-Career独自調査(元教員107名)からの提言。退職者の80.4%が「後悔なし」・75.7%が「もう一度退職」を選ぶ現実は、「呼び戻し」型対策の限界を示唆。処遇改善だけで退職を防げるのかという問い、本質的優先課題(業務量削減・長時間労働是正・柔軟な働き方)、退職者の知見活用まで提言します。

新川紗世 Re-Career代表

この記事の著者

新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役

公立中学校で11年、私立高校で1年、あわせて12年、英語教員として勤務。教員時代に病休を経験し退職。その後、教員専門のキャリア支援会社を設立。著書『「やめたいかも」と一度でも思ったら読む 教員の転職思考法』。スタッフ全員が元教員のキャリア支援会社を率い、自身も延べ1,000名以上のキャリア支援に携わる。

📋 目次

  1. 現在の教員不足対策の限界|「呼び戻し」は機能するか
  2. 処遇改善(給与引き上げ)だけで退職は防げるか
  3. 本質的に必要な対策|「辞めない環境づくり」の優先性
  4. 「教員という職業を、新卒・社会人転身者が選びたくなる職業にする」
  5. もう一つの優先課題|退職者の知見を社会に活かす仕組み
  6. 教育政策担当者・自治体・メディアへの提言
  7. 退職者と現職教員、双方が前を向くために
  8. シリーズ全9本のまとめ|教員のキャリアの新しい議論基盤
  9. シリーズ全9本へのリンク(最終)
  10. まとめ|本質的な教員不足対策は「辞めない環境」と「退職者の知見活用」
  11. 合わせて読みたい|Re-Careerの3大ガイド

教員不足が深刻化する中、政府・自治体は「退職教員の呼び戻し」「ペーパーティーチャー(教員免許保持者)の掘り起こし」などの対策を進めています。しかし、その有効性は本当にあるのでしょうか。

Re-Career独自調査(全国35都道府県・元教員107名)のデータは、現在進行している教員不足対策議論に対して、重要な示唆を提示しています。退職者の80.4%が「後悔していない」、75.7%が「もう一度選んでも退職する」と回答──「呼び戻し」型の対策だけでは限界がある可能性が、データから示唆されます。

本記事では、教員不足対策の現状と限界、本質的に必要な対策、本調査が示す優先順位を整理します。教育政策担当者・自治体関係者・教育系メディアに向けた、政策提言型の最終章です。

⏱️ 30秒でわかる結論

「離職した教員を呼び戻す」アプローチには限界。「現職が辞めない環境づくり」が本質的優先課題。

呼び戻しの限界退職者の75.7%が「もう一度選んでも退職する」

処遇改善の限界退職理由のうち給与は14%にとどまる

本質的優先課題業務量・労働時間の構造改革

政策パッケージ35人学級・部活地域移行・給特法改正の同時推進

もう一つの優先退職者の知見を社会に活かす仕組み

現在の教員不足対策の限界|「呼び戻し」は機能するか

呼び戻しの限界

文部科学省・自治体が進めている主な教員不足対策は以下の通りです。

現在の対策一覧

  • 退職教員の再雇用呼びかけ
  • ペーパーティーチャー(教員免許保持者)の掘り起こし
  • 社会人特別選考の拡大
  • 給特法改正(教職調整額の引き上げ)
  • 教員採用試験の共同実施・前倒し
  • 支援員(スクールサポートスタッフ等)の配置拡充

「呼び戻し」型対策の限界

本調査は復帰の意向そのものは尋ねていませんが、退職時期に戻れるとしても、退職者の大多数が再び退職を選ぶと答えています。

  • 退職を「後悔していない」:80.4%
  • 「もう一度選んでも退職する」:75.7%
  • 「教員を続ける」を選ぶ人:わずか4.7%
  • 正規教員として復帰した人:107名中4名のみ

「呼び戻し」アプローチで取り戻せる人材は、ペーパーティーチャー・退職教員合わせても、絶対数の貢献は否定できないものの、構造的な不足を埋めることは難しいと考えられます。

処遇改善(給与引き上げ)だけで退職は防げるか

処遇改善の限界

2025年6月11日に成立した給特法改正(6月18日公布・令和7年法律第68号)で、教職調整額は2026年1月の5%を起点に毎年1%ずつ上がり、2031年1月に10%になります。率は改正法附則第2項に年ごとに書き込まれており、自治体の判断で前後するものではありません。給料月額35万円の人なら、4%(14,000円)から10%(35,000円)へ月21,000円、12か月分で252,000円の増加です。期末手当・勤勉手当の算定基礎にも加わりますが、支給月数は各自治体の条例で決まるため、賞与込みの年額を全国一律の数字で示すことはできません。(出典:e-Gov法令検索「給特法」/文部科学省「給特法等の一部を改正する法律の概要」)

処遇改善は重要、でも本質ではない

処遇改善は教員の士気・生活の質を上げる重要な施策です。ただ、本調査で「給与待遇」を退職理由に選んだ人は14.0%にとどまり、給与改善だけで退職が止まるとは限らないことがうかがえます。

  • 退職理由「給与待遇」:14%にとどまる
  • 退職理由TOP3:仕事量57%・長時間労働54%・家庭両立45%

多く選ばれた退職理由は「給料の額」よりも、仕事量・労働時間・家庭との両立といった働き方の問題でした。処遇改善は重要ですが、それと並んで働き方の見直しが欠かせません。

本質的に必要な対策|「辞めない環境づくり」の優先性

辞めない環境づくり

本調査の結果から、私たちは次のように考えます。「離職した教員を呼び戻す」より、「これから辞める人を防ぐ=現職教員が辞めない環境をつくる」ことが、教員不足対策の本質的優先課題。

必要な施策の優先順位

第1優先|業務量そのものの削減

退職理由TOP1の「仕事量57%」に対する直接的対策。

  • 不要業務の廃止(書類・会議・行事の見直し)
  • 支援員(スクールサポートスタッフ等)の全校配置
  • 業務のIT・AI化推進
  • 給食指導・清掃指導の見直し

第2優先|長時間労働の構造的是正

退職理由TOP2「長時間労働54%」への対策。

  • 35人学級の確実な完了と次の段階(30人学級など)
  • 部活動の地域移行加速
  • 「平日19時には全教員退勤」を実現する組織改革
  • 夏休み・冬休みの実効性ある勤務時間管理

第3優先|柔軟な働き方の制度設計

退職理由TOP3「家庭との両立45%」への対策。

  • 時短勤務制度の拡充
  • 在宅勤務の選択肢(事務系業務のみ)
  • 育児・介護期の柔軟な勤務形態
  • 男性教員の育休取得促進

関連:35人学級は教員の負担を減らすのか / 部活動の地域移行 / 給特法改正

「教員という職業を、新卒・社会人転身者が選びたくなる職業にする」

魅力ある職業へ

教員不足の根本的な対策は、「教員という職業を、新卒・社会人転身者が選びたくなる職業にする」ことです。

現状の課題

「魅力ある職業」への再設計に必要なこと

  • 働き方の構造改革:残業削減・休日確保・在宅勤務
  • 処遇改善の継続:給特法改正のさらなる進展
  • キャリアパスの多様化:管理職・専門職・研究職など
  • 社会的地位の再構築:教員へのリスペクトの回復
  • 教員養成課程の改革:実践的・柔軟な養成

「「教員は大変だ」「ブラックだ」と言われ続けると、ますますなり手がいなくなる。職業の魅力を取り戻すには、構造改革しかない。」
——新川紗世

もう一つの優先課題|退職者の知見を社会に活かす仕組み

退職者の知見活用

退職者を「呼び戻す」ことが難しい以上、もう一つの優先課題が見えてきます。それは、「退職者の知見を、教員以外の形で教育に還元する仕組み」の構築です。

退職者の社会参画の可能性

本調査では、教育に関わり続けたいかどうかまでは尋ねていません。ただ、現在の主たる就業状況を見ると、民間企業(教育業界)の正社員10名・契約や業務委託3名、非常勤講師・臨時的任用8名のほか、大学教員・教育系NPO職員・スクールサポートスタッフなど、学校の教員以外の立場で教育に関わる人もいます。

退職者を活かす具体的な仕組み

  • 外部支援員制度:退職教員が学校をサポート(授業観察・助言)
  • キャリア相談窓口:現役教員へのメンター
  • 調査研究への協力:教員のキャリア研究への参画
  • 政策提言の場:退職者の声を制度設計に反映
  • 教育系スタートアップとの連携:現場知をEdTech製品に

退職者と現役教員の双方向対話

本調査の自由記述に見られた「学校外との繋がりを持って」というメッセージは、退職者と現役教員の双方向対話の重要性を示しています。退職者が外側から、現役教員に寄り添う仕組みが必要です。

教育政策担当者・自治体・メディアへの提言

政策提言

本調査データから、政策・自治体・メディアそれぞれに向けた具体的な提言を整理します。

政策担当者(文科省・厚労省など)への提言

  • 「呼び戻し」型対策の比重を見直す:効果検証+他施策へのリソース配分
  • 業務量削減の制度化:教員業務の標準化・上限設定
  • 長時間労働の実効的規制:給特法のさらなる見直し
  • 退職者調査の継続実施:政策の根拠データを蓄積

自治体・教育委員会への提言

  • 校内業務の見直しを各学校レベルで実施
  • 退職を考える教員への早期介入:相談窓口・キャリア支援
  • 柔軟な働き方の選択肢提供:時短・在宅・配置転換
  • 退職者との連携:外部支援員・メンター制度

教育系メディア・研究者への提言

  • 「教員はブラック」の単純化を避ける:構造的問題を丁寧に
  • 退職者の声を発信する:批判ではなく寄り添う視点で
  • 政策議論の前提となるデータの提供

退職者と現職教員、双方が前を向くために

双方が前を向く

本調査の自由記述からは、退職者が現職教員を対立相手ではなく、「より良い教員のキャリアと教育環境」を共に願う相手として見ていることがうかがえます。

退職者の願い

自由記述には、現職の先生に「自分を大切に」「無理をしないで」と呼びかける声や、教員という仕事への敬意を示す声が寄せられています。

現職教員の願い

本調査は退職者を対象としたもので、現職教員の考えは尋ねていません。現職の先生にとっても、「辞めるかどうか」だけでなく「どう続けられるか」を考えることが、選択肢を広げる一歩になります。

共通の願いを実現するために

退職者の知見と現職教員の現場感覚を組み合わせ、「教員のキャリアと教育環境を、両方とも良くする」方向に動いていく必要があります。Re-Careerは、その橋渡しを続けます。

「退職した自分にできることは、後輩の先生たちが少しでも楽になる仕組みを、外側から作ること。」
——40代・元中学校教諭→教育NPO・男性(自由記述より要約)

シリーズ全9本のまとめ|教員のキャリアの新しい議論基盤

シリーズまとめ

「元教員キャリア実態調査2026」シリーズ全9本を通じて、107名のリアルから見えた教員のキャリアの実態を整理してきました。

シリーズで明らかになった主要な事実

  • 退職を「後悔していない」80.4% / 「もう一度退職」75.7%
  • 働き方満足度4.5→7.2へ約1.6倍上昇
  • 退職検討期間1年以上が55.1% / どの検討期間でも7割以上が「後悔していない」
  • 退職理由TOP3は仕事量・長時間労働・家庭両立
  • 病気休職経験27% / うち41%は休職・休業の合計が1年以上
  • 退職後の進路はフリーランス最多 / 多様化が進行
  • 週30時間未満43.9%(現在無職の19名を含む) / 在宅勤務(週1以上)37.4%
  • 男女・校種別に見た退職理由 / 個別の自己理解が大切
  • 退職者からのメッセージは批判ではなく温度感のあるエール

これらが示す結論

教員のキャリアは「辞める/続ける」の二択ではなく、「自分にとって持続可能な働き方を選ぶ」多元的な選択になっています。Re-Careerが掲げる「辞めるが正解じゃない、選択肢を持つ」スタンスにも通じる結果となりました。

シリーズ全9本へのリンク(最終)

シリーズ全9本へのリンク(最終)

📊 元教員キャリア実態調査2026|シリーズ全9本(完結)

📥 調査レポート全文:https://re-career.net/report/teacher-career-2026

まとめ|本質的な教員不足対策は「辞めない環境」と「退職者の知見活用」

教員不足対策は、「呼び戻し」より「辞めない環境づくり」が本質的優先課題。さらに、退職者の知見を社会に活かす仕組みづくりが、もう一つの優先課題です。

本記事のポイント:

  • 「退職者の呼び戻し」型対策だけでは限界がある可能性(退職時期に戻れても再び退職を選ぶと答えた人が75.7%)
  • 処遇改善(給特法改正)だけで退職が防げるとは限らない
  • 本質的優先課題は業務量削減・長時間労働是正・柔軟な働き方
  • 「教員という職業」を選びたくなる魅力ある仕事に再設計
  • 退職者の知見を社会に活かす仕組みの構築
  • 退職者と現職教員は対立ではなく共闘の関係

本調査が、教育政策の議論・自治体の施策・メディアの発信、そして個々の教員のキャリア意思決定の、確かな基盤となることを願っています。Re-Careerは、教員のキャリアに伴走し続けます。

合わせて読みたい|Re-Careerの3大ガイド

本記事の内容と関連する、当サイトの総合ガイド3本もぜひご覧ください。


Re-Career代表 新川紗世
元教員が運営するキャリア支援

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