35人学級は教員の負担を減らすのか|現役教員が知っておくべきメリット・デメリットとキャリアへの影響
この記事の著者
新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役
元公立中学校英語教員(10年以上)。教員時代に病休を経験し退職。その後、教員専門のキャリア支援会社を設立。著書『「やめたいかも」と一度でも思ったら読む 教員の転職思考法』。スタッフ全員が元教員のプロフェッショナル集団として、延べ1,000名以上のキャリア支援に携わる。
「35人学級になれば、教員の負担は減るはず」
2025年度に小学校で完全実施される35人学級。クラスの人数が40人から35人に減ることで、教員の業務量が軽くなることを期待する声は多くあります。一方で現場からは、「実感として楽になっていない」「むしろ大変になった」という声も少なくありません。
結論からお伝えすると、35人学級は確かに一部の業務(採点・保護者対応・個別指導)を軽減しますが、同時に「教員不足」「専科の減少」「異動の固定化」という新しい課題を生んでいます。制度変動の真っ只中にいる教員ほど、メリットとデメリットを正確に理解した上で、自分のキャリアをどう守るかを考える必要があります。
この記事では、35人学級制度の全体像、教員視点でのメリット・デメリット、キャリアへの3つの実際的影響、そして今取れる選択肢を、元公立中学校教員でキャリア支援1,000名以上の私が整理します。
この記事でわかること
- 35人学級制度の全体像と2025年度完了に向けたスケジュール
- 教員視点でのメリット3つとデメリット3つ
- 専科・少人数指導の機会減少/教員不足の深刻化/異動の固定化というキャリア影響
- 制度変動の中で教員がいま取れる3つの行動
35人学級とは何か|2025年度完了に向けた制度の全体像
35人学級とは、1クラスの児童数の上限を従来の40人から35人に引き下げる制度。2021年に「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(義務標準法)が改正され、小学校では2021年度の小1からスタートして2025年度に小6まで段階的に拡大される予定です。
段階的な実施スケジュール
小学校での35人学級は、以下のように学年ごとに順次拡大されてきました。
- 2021年度:小学校1年生
- 2022年度:小学校2年生
- 2023年度:小学校3年生
- 2024年度:小学校4年生
- 2025年度:小学校5・6年生(完全実施)
中学校については、文部科学省が2024年度から段階的な検討を開始。一部自治体では先行的に中学校でも35人学級を実施するところが出始めています。
制度の目的
制度の本来の狙いは、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実現するため、教員1人あたりの児童数を減らして、よりきめ細かい指導を可能にすること。GIGAスクール構想によるICT活用と組み合わせ、児童一人ひとりの理解度に応じた指導が期待されています。
給特法改正との連動も進行中
35人学級と並行して、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の改正議論も進んでいます。2024年度には教職調整額の段階的引き上げ(4%→将来的に10%目安)が示されました。「人数を減らす(35人学級)」と「処遇を改善する(給特法)」という2つの制度変動が、ここ数年で一気に進んでいることを把握しておきましょう。
「人数が減れば楽になるって言われてたけど、実態としては教員数が足りなくて、結局担任の数が減ってもクラス数が増えてるだけ。トントンだよ。」
——42歳・小学校教諭・女性
世界の中で見る日本の35人学級|OECD平均と比較した立ち位置
日本の35人学級は、世界的に見るとどの位置にあるのでしょうか。OECDの教育インディケーター(Education at a Glance)から比較してみましょう。
OECD平均は1クラス21人
OECD加盟国の初等教育のクラスサイズ平均は21人(2022年データ)。日本の35人は、加盟国の中でも韓国(22人)・チリ(30人)と並び、上位の大規模クラス国です。フィンランド(19人)・ドイツ(21人)・フランス(22人)と比べると、依然として日本のクラスサイズは大きいことがわかります。
「35人学級=先進的」ではない現実
日本では「40人→35人」という変化を「画期的な制度改革」と捉える論調が主流ですが、国際比較では「ようやくOECD加盟国の上位グループから抜け出す程度」という見方もできます。本来であれば、20人台前半まで下げてはじめて「個別最適な学び」が現実的になるという指摘もあります。
教員1人あたりの児童数も依然として多い
クラスサイズだけでなく、教員1人あたりの児童数(生徒-教員比)でも日本は16人で、OECD平均の14人を上回る水準。35人学級が完了しても、教員不足が続く限りこの数値は劇的には改善しません。
35人学級のメリット|教員の業務はどう変わるか
35人学級にはたしかにメリットがあります。Re-Careerに寄せられる声から、特に実感されている3つを整理します。
① 採点・成績処理の負担が軽減される
40人から35人へ、5人減ることでテスト採点・通知表作成・所見記述の総量が約12%減少。1学期で考えると、テスト10種類×35人×3学期=1,050枚の採点が、950枚に。年間の累積では結構な時間削減になります。
② 個別指導・面談の時間が確保しやすくなる
個別の声かけ・面談・保護者対応の総量が減るため、1人の児童により深く向き合える時間が増えたという声は多い。「子どもの変化に気づきやすくなった」「保護者対応が丁寧にできるようになった」という肯定的な報告も。
③ 学級内のトラブル対応が減りやすい
密度が下がることで、児童同士のトラブル発生率も下がる傾向。問題が起きても、教員の目が届きやすくなるため早期対応が可能。担任の精神的負担が一定程度軽減される効果があります。
中学校での先行事例も増えている
中学校での35人学級は国全体ではまだ未確定ですが、東京都・神奈川県・福岡市などでは段階的な先行実施が始まっています。中学校教員の業務(5教科の教科担任制+部活動+生徒指導)は小学校以上に多忙化が指摘されているため、中学校での35人学級拡大は中学校教員にとって特に注目すべき制度変動です。
35人学級のデメリット|「楽になる」と言い切れない3つの構造
一方で、35人学級が「期待ほど楽にならない」「むしろ別の課題が増えた」という声も同じくらい強くあります。3つの構造的なデメリットを正直に整理します。
① 教員不足の深刻化|「クラス増=教員増」が間に合わない
35人学級になると、たとえば1学年140人の学校では、従来の4クラス(35人×4=140人)から実際には5クラス必要になる場合があります(端数調整)。クラス数が増えるということは、それだけ多くの教員が必要になるということ。
文部科学省の調査では、2024年度の教員不足は約2,500人と前年比で増加しています。35人学級の進行と教員不足が同時に進んでおり、現場では「担任を持てる人材の取り合い」「臨時的任用講師での穴埋め」が常態化しつつあります。
OECDの調査(TALIS)によれば、日本の教員の週当たり労働時間は56時間と参加国中最長。35人学級になっても、授業準備・行事運営・保護者対応・部活動などの総量は変わらないため、「クラスサイズが小さくなったぶん、業務密度が上がった」という現場感覚も無視できません。
② 専科・少人数指導の機会が減る
担任が増えるということは、専科教員(音楽・図工・理科の高学年など)や少人数指導の加配教員が削られるということ。「担任を続けるのがしんどいから専科に異動希望を出していたが、ここ数年はずっと叶わない」という声は急増しています。
「いつかは専科で」とキャリアプランを描いていた教員にとっては、キャリアの選択肢が事実上狭まる制度変動でもあるのです。
③ 異動の固定化|「動きたくても動けない」
担任の数が増えると、自治体の人事異動も組みにくくなり、同じ学校に長く据え置かれる傾向が出ます。「環境を変えてリセットしたいのに異動が叶わない」「合わない学校に縛り付けられる」という新しい悩みが生まれています。
「制度の趣旨はわかるけど、現場が回らない。専科に異動できると思ってたから続けられたのに、その希望も消えてしまった。」
——46歳・小学校教諭・女性
35人学級が教員のキャリアに与える3つの影響
制度変動が教員のキャリア選択に与える影響を、3つの観点で整理します。あなた自身の状況に照らして読んでみてください。
① 「担任のまま定年まで」が現実的なキャリアパスになる
専科や少人数指導の枠が減るため、多くの教員が「ずっと担任」を前提にキャリアを描く必要が出てきます。「数年がんばれば専科で働ける」というセーフティネットが薄くなるため、担任のしんどさを乗り切れる人と、そうでない人で進路が大きく分かれる状況に。
② 中堅教員の転職市場での価値が上がっている
教員不足の深刻化に伴い、民間教育業界・自治体の社会人採用枠でも「経験ある教員」の評価が上がっています。学習塾チェーン、EdTech企業、教育委員会の指導主事ポジション、教育系コンサルティングなど、30〜40代教員の異業種転職は2020年代前半より明確に決まりやすくなっています。
関連:小学校教諭からの転職|退職前に知っておきたい選択肢と進め方
③ 「制度に振り回される働き方」を見直す機会
制度変動は、自分のキャリアを「学校の都合」だけで決めてきた人にとって、「自分は何を大事にして働きたいのか」を見つめ直すきっかけにもなります。Re-Careerに来る30〜50代の相談者の中には、「35人学級で人事が動かなくなったのを機に、キャリア全体を見直し始めた」という人が増えています。
特に注意が必要な3つの層
- 「専科への異動」を心の支えにしてきた30〜40代担任:希望が叶いにくい状況。代替プランが必要
- 復帰後に少人数指導や加配を希望していた育休明け教員:時短勤務できる枠が減少傾向
- 異動希望で環境を変えたかった40〜50代:人事の固定化で動けない期間が長引く可能性
これらに該当する場合は、転職を含めた選択肢を早めに整理しておくのが安全です。
自治体ごとの取り組み事例|先行県・先行市の工夫
同じ35人学級でも、自治体によって運用や周辺環境が大きく異なります。教員のキャリア選択にも影響する代表的な事例を紹介します。
独自加配で30人学級を実施する自治体
山形県・秋田県・新潟県の一部地域は、国の基準を超えて独自に30人前後の学級規模を維持。地域人口減少と教員確保の両面から、ベテラン教員が働きやすい環境づくりに成功している例として注目されています。
専科の枠を維持する政令市
横浜市・さいたま市など一部の政令市は、35人学級下でも専科教員の枠を意図的に維持。担任を続けたくない教員の異動希望にも応えやすい体制を保っています。逆に、専科枠を大幅縮小した自治体では、担任以外のキャリアパスがほぼ消えている状況も。
少人数指導加配の多い自治体
東京都・大阪府は、少人数指導加配(ティームティーチング担当・少人数算数指導など)の枠を多く保持。担任以外のポジションで働ける選択肢が多い分、教員の精神的余裕が確保されている傾向があります。
「同じ35人学級でも、自治体次第で『楽になった先生』と『さらにきつくなった先生』に分かれてる。所属自治体の運用が運命を分けます。」
——40歳・キャリア支援者
私(新川)の静岡県公立中学校での体験|35人学級は本当に違う
ここで少しだけ私自身の体験をお伝えします。私は静岡県の公立中学校に11年勤務しました。実は静岡県は、私が教員になった頃からすでに独自の少人数学級(いわゆる「静岡式35人学級」)を実施していた先行県です。だからこそ、35人学級が現場に与える違いを、当事者として実感してきました。
「34人学級」でも、生徒一人ひとりの顔がよく見えた
私が担任を持っていたクラスで一番多かったのは34人。それでも、40人学級と比べたら全然違うと感じます。生徒一人ひとりの様子に気づける、提出物のチェックが追いつく、面談時間に余裕が生まれる──こうした小さな違いが積み重なって、教員としての精神的な余裕につながります。逆に、もし40人学級だったらと考えると、本当にぞっとします。
英語の加配でTT(ティームティーチング)の授業も経験
静岡県では英語に加配がつく学校もあり、私はTT(ティームティーチング)で別の英語教員と一緒に授業をしたこともあります。1人で34人を見るのとは比較にならないほど、生徒の発話量・理解度の確認に時間を割けました。
少人数クラスで「17人」で授業をしたときの衝撃
もう一つ印象に残っているのが、クラスを半分に分けて17人前後で英語の授業をしたときのこと。教室の空気が違いました。発言が自然に出る、一人ひとりに目が行き届く、苦手な生徒へのフォローも丁寧にできる──「これが本来あるべき教育の形なんじゃないか」と感じたほどです。
私の体験から言えるのは、クラスサイズが小さくなることは、確実に教育の質と教員の働きやすさを向上させるということ。35人学級の制度趣旨は本物です。だからこそ、教員不足や専科減少といった「副作用」を抑えて、本来の効果を最大化していく自治体の運用力が問われています。
「教員になって最初から少人数で教えられたのは、本当にラッキーだった。40人学級時代を知っている先輩の話を聞くと、よく続けられたなと思います。」
——新川紗世
制度変動の中で教員が今できる3つの行動
制度はコントロールできませんが、自分の働き方とキャリアの選択肢はコントロールできます。今できる3つの具体的アクションを提案します。
① 自分のキャリアの選択肢を「3パターン」に整理する
「このまま担任を続ける」「異動・働き方を変える(非常勤・私学・特支など)」「教員を離れる(教育業界/民間/公務員)」の3パターンで、それぞれメリット・デメリット・収入見込みを書き出してみる。選択肢を持つこと自体が、心のセーフティネットになります。
② 自分の市場価値を一度確認しておく
転職するつもりがなくても、「自分が今、教員以外でいくらの価値があるか」を知っておくのは有益。転職エージェント・キャリア相談で1度面談するだけで、選択肢の幅が一気に広がります。
③ 信頼できる第三者に相談する習慣を持つ
同僚・管理職には相談できないことを、外部の第三者(元教員のキャリア支援者など)に話す機会を持つのがおすすめ。学校の中だけでは、「制度に振り回されている自分」が見えにくいものです。
関連:教員のキャリアプラン5つの選択肢|管理職・教委・民間・独立・学び直し
35人学級下でキャリアを再設計した3人の実例
Re-Careerに相談に来た教員のうち、35人学級の進行をきっかけにキャリアを再設計した3人の事例を紹介します(個人特定を避けるため一部内容を改変)。
事例①|45歳・小学校教諭・専科希望が叶わず非常勤に転換
「専科に異動してあと10年勤め上げる」を目指していたが、35人学級でクラス数増・専科枠減により希望が4年連続で却下。家庭事情も重なり、常勤から非常勤講師に切り替えて週3日勤務に移行。給与は減ったが、心身の負担が大幅に減り、別の私塾講師の副業も始めて総収入はほぼ同水準を維持。
事例②|38歳・小学校教諭・転職してEdTech企業へ
担任業務の重さ+専科の見込みなしで限界感。共同実施前提で他県採用試験も検討したが、EdTechベンチャーの教育コンテンツ企画職に転職。年収はほぼ横ばいだが、リモート併用・残業30時間程度で家庭との両立が可能に。
事例③|52歳・中学校教諭・教育委員会の指導主事に異動
担任業務よりも教員育成に関心があったため、教育委員会の指導主事ポジションに異動。35人学級の下での教員研修・支援を担当する立場に。現場目線でのアドバイスができる中堅教員のニーズは高まっています。
3人に共通するのは、「制度を待つ」のではなく「自分から動いた」こと。35人学級は受け身では何も変わりません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 中学校でも35人学級は実施されますか?
A. 文部科学省は2024年度から中学校への段階的拡大を検討中。一部自治体では先行実施が始まっています。中学校での完全実施時期は未定ですが、方向性としては中学校への拡大はほぼ確実と見られています。
Q2. 35人学級によって教員の給与は変わりますか?
A. 給与体系自体は変わりません。ただし、教員不足を背景に、2024年度からは給特法見直しの議論(残業代の扱い・調整額引き上げなど)も並行して進んでいます。今後数年で待遇面の変更が出る可能性があります。
Q3. 専科に異動したいのですが、いつ頃から枠が広がりそうですか?
A. 35人学級の完全実施が終わる2025年度以降、自治体の教員採用が安定化すれば徐々に専科枠も戻る可能性があります。ただし少なくとも2027年度頃までは厳しいと見るのが現実的。「専科に異動できる前提」で続けるよりは、転職を含めた選択肢を持っておく方が安全です。
Q4. 制度変動を理由に転職するのは「逃げ」ではありませんか?
A. 逃げではなく、合理的なキャリア選択です。制度変動で自分のキャリアプランが崩れるなら、別の道を検討するのは当然のこと。Re-Careerでは「辞める前提」ではなく「選択肢を整理する」相談を多く受けています。
📚 教員のキャリアを変える「制度変動」シリーズ
2024〜2026年に動いている教員制度改革を全7本で徹底解説。あなたのキャリアに関わる制度を一通り押さえておきましょう。
まとめ|制度変動を「自分のキャリアを見直す機会」に変える
35人学級は、教員の業務を一部軽減する一方で、教員不足・専科減少・異動固定化という新しい課題を生んでいます。「楽になる制度」と単純に評価するのではなく、自分のキャリアにどう影響するかを冷静に見極めることが大切です。
本記事のポイントを再確認しましょう。
- 35人学級は2025年度に小学校で完全実施。中学校は段階的検討中
- メリットは採点減・個別指導時間増・トラブル減の3つ
- デメリットは教員不足深刻化・専科減・異動固定化の3つ
- キャリアへの影響は「担任継続前提化」「中堅教員の市場価値上昇」「働き方の見直し機会」
- 今できるのは「3パターン整理」「市場価値確認」「第三者相談」の3つ
制度はコントロールできませんが、選択肢を持つことはあなた自身ができることです。Re-Careerでは「辞める/続ける/変える」のどの選択でも、お金とキャリアの両面で伴走します。
