給特法改正で教員の給料は本当に上がるのか|2026年スタートの段階引き上げと残業代の真実
この記事の著者
新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役
元公立中学校英語教員(10年以上)。教員時代に病休を経験し退職。その後、教員専門のキャリア支援会社を設立。著書『「やめたいかも」と一度でも思ったら読む 教員の転職思考法』。スタッフ全員が元教員のプロフェッショナル集団として、延べ1,000名以上のキャリア支援に携わる。
「給特法が改正されて、教員の給料が上がるって本当?」
2024年通常国会で給特法(公立義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の改正法が成立し、2026年4月から教職調整額の段階的引き上げがスタートしました。教員の長年の悩みだった「働いても残業代が出ない」構造に、ようやく動きが見え始めています。
結論からお伝えすると、改正によって教員の給与は段階的に上がりますが、「残業代が出るようになる」訳ではなく、「教職調整額(基本給に上乗せされる定額手当)」が4%から最大10%程度まで上がる仕組み。月給ベースで数千〜数万円の改善が見込まれます。ただし、長時間労働の根本問題が解消されたわけではなく、現場の働き方が劇的に変わるわけではないのも事実です。
この記事では、給特法の基本、2024年改正のポイント、教職調整額の引き上げスケジュール、月給・年収への具体的影響、働き方改革との関係、キャリアへの影響まで、元公立中学校教員でキャリア支援1,000名以上の私が解説します。
⏱️ 30秒でわかる結論
給特法改正で教職調整額は4%→最大10%へ段階引き上げ。2026年4月から始動。
2026年4月〜教職調整額が段階的に引き上げ開始(最初は5%目処)
月給への影響月給35万円なら月14,000円〜35,000円の増加(最終形)
残業代残業代は引き続き出ない仕組み。「定額働かせ放題」批判は残る
根本問題長時間労働そのものの是正は別途の働き方改革に依存
給特法とは何か|「教員の残業代が出ない」のはこの法律のため
「教員は残業代が出ない」と言われる理由は、給特法という1971年に制定された特別法にあります。教員の働き方とお金の関係を理解する上で、最も重要な制度です。
正式名称と制定の経緯
給特法の正式名称は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」。1971年に制定され、教員の職務の特殊性(自発的・創造的に勤務する性質)を踏まえて、「時間外勤務手当(残業代)を支給しない代わりに、給料月額の4%を教職調整額として支給する」という仕組みになっています。
4%の根拠は1966年の調査
4%という数字は、1966年に文部省が実施した教員の勤務状況調査で、教員の超過勤務が月8時間程度だった当時の数字をベースに設定されたもの。現在の教員の超過勤務(月80〜100時間が標準)と比べると、明らかに実態に合わなくなっていました。
「定額働かせ放題」批判
4%という固定額しか支給されないため、どれだけ残業しても給与に反映されない構造。これが「定額働かせ放題」と批判され、教員のなり手不足の大きな要因と指摘されてきました。長時間労働を是正する経済的インセンティブが学校・教員両方に働かない仕組みになっていたのです。
「月100時間以上残業しても給与が変わらない。これだとどうしても『どうせサービス残業だから』と仕事が無限に膨らみがちでした。」
——42歳・元公立中学校教諭・男性
海外との比較で見る日本の教員給与|「給与水準」と「働き方」の関係
日本の教員給与は、世界的に見るとどの位置にあるのか。OECDのデータから比較してみましょう。
OECD加盟国の中での日本の位置
OECDの「Education at a Glance」によれば、日本の小中学校教員の給与(年収ベース)は加盟国の中で中位〜上位に位置します。アメリカ・フィンランド・ドイツより低く、韓国・イギリス・フランスとほぼ同水準。「給与水準が極端に低い」わけではありません。
韓国|教員給与は日本より高水準
韓国はOECD加盟国の中でも最上位レベルの教員給与水準。さらに残業代制度も整備されており、教員の社会的地位も高い。「教員になりたい大学生」の競争率も高水準を維持しています。
フィンランド|給与は中位だが社会的地位が高い
フィンランドの教員給与はOECD平均並みですが、修士号必須・社会的地位高・労働時間短という総合的な「働きやすさ」で人気職業に位置づけられます。給与だけでは語れない教員の魅力が制度的に担保されています。
日本の課題|給与は中位だが「労働時間」が突出
日本の問題は給与水準そのものより、労働時間の長さに対する給与の少なさ。OECD調査では日本の中学教員の週労働時間が56時間と参加国中最長で、時間あたりの給与に換算すると下位グループに位置します。給特法改正は、この「労働時間あたり給与」の改善を狙ったものとも言えます。
2024年成立の改正法のポイント|何がどう変わったのか
2024年通常国会で成立した給特法改正法は、教員の処遇改善と働き方改革の両輪を目指す内容です。主要なポイントを整理します。
① 教職調整額の段階的引き上げ(4%→最大10%程度)
最大の改正点は教職調整額の引き上げ。現行の4%から段階的に引き上げ、最終的に10%程度を目処にすることが示されました。具体的なスケジュールは複数年に分かれ、自治体・年度予算と連動する形で実施されます。
② 学校マネジメント体制の強化
給与だけでなく、主幹教諭・主任教諭などの中間管理職的なポジションを増やし、学校運営を組織的に行う方向性も示されました。校長・教頭1人に負担が集中する構造を変える狙いです。
③ 教員業務支援員・スクールサポートスタッフの拡充
教員の業務負担を軽減するため、教員業務支援員(学校事務補助)やスクールサポートスタッフの配置を拡充。プリント印刷・採点補助・電話対応など、教員でなくてもできる業務を別人材に振り分ける制度設計が進みます。
④ 残業時間の上限規制と健康管理
従来は「目安」だった残業時間の上限(月45時間・年360時間)について、より実効性のある運用を求める内容も含まれました。ただし罰則規定の強化など、強い拘束力までは至っていません。
教職調整額の段階引き上げスケジュール|2026年から2030年代へ
教職調整額の引き上げは、複数年にわたる段階実施。2026年度から本格的な引き上げがスタートしました。
2026年度:最初の引き上げ(4%→5%目処)
2026年4月から、教職調整額が4%から5%程度に引き上げられました。これは「最初の一歩」であり、すぐに10%まで上がるわけではありません。月給ベースで数千円程度の増加です。
2027年度以降:継続的な引き上げ
2027年度以降も毎年または隔年で段階的に引き上げ、2030年代前半に最大10%程度に到達することが目標とされています。ただし、自治体予算・国の財政状況によって実際のスケジュールは前後する可能性があります。
最終形は10%か、それ以上か
「最大10%」という数字は現時点での目標値で、「10%でも不十分」という議論も継続中。将来的にさらなる引き上げや、給特法そのものの廃止(残業代制度への完全移行)が議論される可能性もあります。
改正で本当に教員の給料は上がるのか|月給・年収の具体的試算
「結局、自分の手取りはいくら増えるの?」が一番気になるところ。月給35万円のモデルケースで試算してみましょう。
月給35万円・現行(教職調整額4%)の場合
基本給35万円×4%=教職調整額14,000円。月収には基本給+諸手当+調整額が含まれます。
2026年4月以降(教職調整額5%)
基本給35万円×5%=教職調整額17,500円。月収ベースで3,500円増、年収ベースで賞与込みで5〜6万円程度の増加。これが最初の引き上げです。
最終形(教職調整額10%)
基本給35万円×10%=教職調整額35,000円。月収ベースで21,000円増、年収ベースで賞与込みで30〜35万円程度の増加。これが最終的に目指される水準です。
所得税・住民税の控除を考慮した手取り
増加額からは所得税・住民税が引かれるため、実際の手取り増は試算額の約7〜8割程度。「月給35万円→月給37万円台に」というイメージです。
給与帯別の最終影響(教職調整額10%到達時)
- 基本給30万円(20〜30代前半):月18,000円増・年30万円増
- 基本給35万円(30〜40代):月21,000円増・年35万円増
- 基本給40万円(40〜50代):月24,000円増・年40万円増
- 基本給45万円(50代後半〜管理職):月27,000円増・年45万円増
数千〜数万円程度の改善が積み重なる形。「給料が劇的に上がる」というよりは「ようやく時代に合った水準に近づく」イメージです。
残業代の扱いと働き方改革との関係|根本問題は解消されたのか
給特法改正で給与は上がりましたが、「残業代が出るようになる」訳ではないのが重要なポイントです。教員の働き方の根本問題が解消されたかは別問題。
残業代制度への移行は見送り
給特法そのものを廃止して労働基準法に基づく残業代制度に移行する案も議論されましたが、2024年改正では見送られました。理由は、教員の職務の特殊性(自発的・創造的勤務)の整理、自治体予算への影響、教員不足下での実務的困難など複合的です。
「定額働かせ放題」批判は残る
教職調整額が4%→10%に上がっても、「働けば働くほど損する」構造そのものは変わりません。学校現場で「残業代が出ないから無限に仕事を振っていい」という慣習が残っている限り、長時間労働の根は深いままです。
働き方改革との連動が鍵
改正の効果を実感するには、給与改善+業務削減+人員確保の3つが同時に進む必要があります。35人学級・部活動地域移行・支援員拡充など、複合的な制度改革とセットで動かなければ「給料は上がったけど忙しさは変わらない」になりかねません。
関連:35人学級は教員の負担を減らすのか|現役教員が知っておくべきメリット・デメリットとキャリアへの影響
関連:部活動の地域移行で教員は本当に楽になるのか|2025年改革推進期間後の現実と中学教員の選択肢
給特法は最終的に廃止されるのか|継続議論の論点
2024年の改正では「給特法廃止」までは至りませんでしたが、議論は継続中です。今後の方向性を整理します。
廃止論|「定額働かせ放題」を完全に終わらせる
給特法そのものを廃止し、労働基準法に基づく残業代制度に完全移行すべきという議論。これにより「働けば働くだけ給与が増える」健全な労使関係を構築できる、というのが廃止論の根拠です。
存続論|教員の職務特性と教育現場への配慮
一方で、教員の職務は授業準備・教材研究・生徒対応・部活動など多様で「労働時間を客観的に測定しにくい」特性があります。残業代制度に移行すると「測定可能な業務だけが残業として認められ、自発的な教材研究は対象外」になる懸念も。教育の質低下を懸念する声があります。
第三の道|「ハイブリッド制度」の提案
教職調整額を維持しつつ、一定時間以上の超過勤務には別途残業代を支給するハイブリッド制度の提案も議論されています。たとえば「月45時間までは教職調整額でカバー、それを超えた分は残業代支給」など。現実的な妥協案として注目されています。
2030年代以降の方向性
給特法の将来について、文部科学省は「教職調整額10%到達後の効果を検証してから次の議論へ」という姿勢。2030年代に再び大きな改革論議が起きる可能性が高いと見られています。
給特法改正が教員のキャリア選択肢に与える影響
給与改善は教員のキャリア判断に複雑な影響を与えます。「上がるから続けよう」と単純化せず、複数の観点で考えてみましょう。
① 「給与だけで続ける/辞める」を決めない
月数千〜数万円の増加は、「辞めたい気持ち」を覆すほどの金額ではない場合が多い。給与改善は判断材料の一つに過ぎず、働き方・人間関係・自分のやりたいことなど他の要因と総合的に考えるべきです。
② 「あと数年で辞める」予定だった人の判断は要再検討
「あと5年勤めて辞めよう」と思っていた人にとって、給与改善のタイミングと退職タイミングの関係は要検討。「もう少し続けて受給する」「やはり早めに辞める」、どちらも合理的な選択です。
③ 民間との給与比較は依然として続く
教職調整額が10%まで上がっても、民間企業のIT・金融・コンサル業界と比較すれば依然として下位水準です。「給与重視で異業種転職」を考える教員にとって、改正だけで判断が変わる訳ではありません。
④ 「長く続ける価値」の見直し材料に
給与改善・働き方改革・専科枠維持などが組み合わさる自治体では、「教員として長く続ける価値」が高まる可能性も。自治体ごとの動きを見極めるのが大切です。
私(新川)の経験から見る「給与とキャリアの考え方」
ここで少し私自身の体験をお伝えします。私は静岡県の公立中学校で11年勤務しました。当時を振り返ると、給与をめぐる教員特有の感覚があったと思います。
「サービス残業が当たり前」の感覚
給特法のもとで働いていた当時、「残業代が出ないのが普通」「土日も部活で出るのが普通」という空気がありました。それが「当たり前」だと思っていたから、自分の労働時間が客観的に異常だと気づきにくかった。給特法は給与の問題だけでなく、労働観そのものを歪める影響があったと、辞めてから気づきました。
「給与だけで辞めるかは決められない」
もし当時、教職調整額が10%だったら私は教員を続けていたか?──答えはNoです。給与の問題以上に、働き方・人間関係・心身の状態の問題が大きかったから。給与は判断材料の一つでしかなく、それだけで人生のキャリアは決まらないのが現実です。
制度改革に「期待しすぎない」スタンス
給特法改正は前向きな一歩です。でも、「制度が変われば自分のしんどさが解消する」と期待しすぎると、変わらなかった時に絶望感が大きくなる。制度を見つつ、自分のキャリアは自分で選ぶ──このスタンスを大切にしてほしいです。
「給与が上がるなら嬉しいけど、それで何かが劇的に変わる訳ではない。自分のキャリアは自分で決める前提で動くのが大事です。」
——新川紗世
よくある質問(FAQ)
Q1. 教職調整額10%への到達はいつ頃ですか?
A. 具体的なスケジュールは複数年にわたる段階実施で、2030年代前半に到達することが目標とされています。ただし自治体予算・国の財政状況で前後する可能性があります。
Q2. 教職調整額10%でも残業代と比べたら少ないのでは?
A. その通りです。月80〜100時間の超過勤務を残業代で計算すれば、月10〜20万円相当になります。10%(月3〜4万円相当)はそれより大幅に少ない金額。「定額働かせ放題」批判は残る構造です。
「給特法が変わって少し給料が上がるのは嬉しい。でも、月数千円のために働き続けるかと言われると、それは別問題。給料じゃない部分で限界が来ている人が多いと思う。」
——38歳・公立小学校教諭・女性
Q3. 私立学校の教員も同じ恩恵を受けますか?
A. 給特法は公立学校教員のみが対象。私立学校は学校法人ごとの就業規則に基づき、多くは労働基準法に従って残業代制度です。私立教員は給特法改正の直接的な恩恵を受けません。
Q4. 給特法改正で教員の働き方は本当に変わりますか?
A. 給与改善だけでは劇的な変化は期待しにくいです。35人学級・部活動地域移行・支援員拡充など複合的な制度改革と組み合わさることで、初めて働き方が変わると考えられます。給特法改正は「改革パッケージの一部」と理解するのが現実的です。
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まとめ|給特法改正は前向きな一歩、でも自分のキャリアは自分で選ぶ
給特法改正は、教員の処遇改善に向けた大きな前進です。教職調整額4%→10%への段階引き上げで、月給数千〜数万円・年収数十万円の改善が見込まれます。一方で、残業代が出るわけではなく、長時間労働の根本問題が解消されたわけでもないのが現実です。
「教職調整額10%って聞いても、正直ピンとこない。残業時間に対する正当な対価という意味では、まだまだ遠いという感覚です。」
——42歳・公立中学校教諭・男性
本記事のポイントを再確認しましょう。
- 給特法改正は2024年成立、2026年4月から段階的引き上げ開始
- 教職調整額は4%→最大10%へ。最終形まで5〜10年程度
- 月給35万円なら最終的に月21,000円・年35万円増(手取りはその7〜8割)
- 残業代制度への移行は見送り、根本問題は別途の働き方改革に依存
- 給与改善は判断材料の一つ。自分のキャリアは複数軸で考える
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