給特法改正で教員の給料は本当に上がるのか|2026年スタートの段階引き上げと残業代の真実

給特法改正で教職調整額は4%から10%へ。2026年1月に5%へ上がり、そこから毎年1%ずつ、2031年1月に10%に到達します。元公立中学校教員が、改正の全体像、月給・年収への具体的な影響、残業代との関係、キャリアへの影響まで、法令と一次資料を確認しながら解説します。

「給特法が改正されて、教員の給料が上がるって本当?」

新川紗世 Re-Career代表

この記事の著者

新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役

公立中学校で11年、私立高校で1年、あわせて12年、英語教員として勤務。教員時代に病休を経験し退職。その後、教員専門のキャリア支援会社を設立。著書『「やめたいかも」と一度でも思ったら読む 教員の転職思考法』。スタッフ全員が元教員のキャリア支援会社を率い、自身も延べ1,000名以上のキャリア支援に携わる。

📋 目次

  1. 給特法とは何か|「教員の残業代が出ない」のはこの法律のため
  2. 海外との比較で見る日本の教員給与|「給与水準」と「働き方」の関係
  3. 2025年成立の給特法改正のポイント|何がどう変わったのか
  4. 教職調整額の段階引き上げスケジュール|2026年1月から2031年1月まで
  5. 改正で本当に教員の給料は上がるのか|月給・年収の具体的試算
  6. 残業代の扱いと働き方改革との関係|根本問題は解消されたのか
  7. 給特法は最終的に廃止されるのか|継続議論の論点
  8. 給特法改正が教員のキャリア選択肢に与える影響
  9. 私(新川)の経験から見る「給与とキャリアの考え方」
  10. よくある質問(FAQ)
  11. まとめ|給特法改正は前向きな一歩、でも自分のキャリアは自分で選ぶ
  12. 合わせて読みたい|Re-Careerの3大ガイド

給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の改正法は、2025年5月15日に衆議院、6月11日に参議院本会議で可決され成立しました(令和7年法律第68号・2025年6月18日公布)。これにより2026年1月1日から教職調整額の段階的な引き上げが始まっています。教員の長年の悩みだった「働いても残業代が出ない」構造に、ようやく動きが見え始めています。

結論からお伝えすると、改正によって教員の給与は段階的に上がりますが、「残業代が出るようになる」訳ではありません。上がるのは「教職調整額(給料月額に定率で上乗せされる額)」で、4%から10%へ。2026年1月に5%、そこから毎年1月に1%ずつ増え、2031年1月に10%になります。月給ベースで数千〜数万円の改善です。ただし、長時間労働の根本問題が解消されたわけではなく、現場の働き方が劇的に変わるわけではないのも事実です。

この記事では、給特法の基本、2025年改正のポイント、教職調整額の引き上げスケジュール、月給・年収への具体的影響、働き方改革との関係、キャリアへの影響まで、元公立中学校教員でキャリア支援延べ1,000名以上の私が解説します。数字はすべて法令原文と省庁の公表資料にあたって確認し、出典のリンクを本文中に置いています。

⏱️ 30秒でわかる結論

給特法改正で教職調整額は4%→10%へ。2026年1月に5%で始まり、2031年1月に10%になります。

2026年1月〜教職調整額が4%→5%。以後毎年1月に1%ずつ上がり、2031年1月に10%

月給への影響給料月額35万円なら教職調整額14,000円→17,500円→(2031年)35,000円

残業代残業代は引き続き出ない仕組み。「定額働かせ放題」批判は残る

根本問題長時間労働そのものの是正は別途の働き方改革に依存

給特法とは何か|「教員の残業代が出ない」のはこの法律のため

給特法の理解

「教員は残業代が出ない」と言われる理由は、給特法という1971年に制定された特別法にあります。教員の働き方とお金の関係を理解する上で、最も重要な制度です。

正式名称と、対象になる人・ならない人

給特法の正式名称は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(昭和46年法律第77号)。1971年(昭和46年)に制定され、1972年1月1日に施行されました。教員の職務と勤務態様の特殊性を踏まえ、「時間外勤務手当と休日勤務手当は支給しない代わりに、給料月額に定率を掛けた額を教職調整額として支給する」という仕組みです(第3条)。制定当時の率が、いまも語られる4%でした。

対象になるのは公立の小学校・中学校・義務教育学校・高等学校・中等教育学校・特別支援学校・幼稚園の教育職員です(第2条第1項)。高校の先生も対象に入ります。一方で、校長・副校長・教頭は教職調整額の支給対象から外れています(第3条第1項)。給特法は第6条第1項でも「管理職手当を受ける者」を別扱いしており、管理職は別の手当体系で処遇される建て付けになっています。

4%の根拠は、昭和41年(1966年)の勤務状況調査

文部科学省の検討会議の資料には、こう書かれています。「現在の教職調整額の給料の4パーセントという支給率は、昭和41年に行われた『教職員の勤務状況調査』から判明した残業時間の長さを基にして、勤務時間の内外に渡る職務を包括的に評価するものとして定められ、現在に至るまで支給率の見直しはされていない」(学校の組織運営の在り方を踏まえた教職調整額の見直し等に関する検討会議 審議のまとめ)。

では、いまの勤務実態はどうか。文部科学省「教員勤務実態調査(令和4年度)集計(確定値)」によると、10〜11月調査での1週間当たりの在校等時間は、小学校の教諭が52時間47分、中学校の教諭が57時間24分。同じ資料に「1週間当たりの正規の勤務時間は38時間45分」と明記されています。制定当時の調査から半世紀以上、率は一度も動かないまま、実態だけが離れていったわけです。

なお「教員はどれだけ残業してもいい」という制度ではありません。時間外勤務を命じられるのは、平成15年政令第484号が定めるいわゆる「超勤4項目」——校外実習など生徒の実習、修学旅行など学校行事、職員会議、非常災害等——に限られ、しかも臨時または緊急のやむを得ない場合だけ、とされています。現実に行われている業務の多くは、制度上は「自発的な勤務」として整理されている、というのが給特法のいちばん苦しいところです。

「定額働かせ放題」批判

定率で決まる額しか支給されないため、どれだけ残業しても給与に反映されない構造。これが「定額働かせ放題」と批判され、教員のなり手不足の大きな要因と指摘されてきました。前掲の検討会議も「時間外の勤務時間がどれだけ長くなろうとも、全員一律に給料に4パーセントの定率を乗じた額の教職調整額が支給されているため、時間外勤務の抑制とならず、無定量の時間外勤務や実質的な給与の切り下げを招いているとの批判もある」と記しています。

誤解されやすい点をひとつ。給特法第5条は、地方公務員法第58条を読み替えることで、公立学校の教員に労働基準法第37条(時間外・休日・深夜の割増賃金)を適用しないとしています。労働時間の原則(第32条)や休憩(第34条)・休日(第35条)の規定まで外れているわけではありません。ただし同じ第5条で、公務のために臨時の必要がある場合に労働時間を延長し、または休日に勤務させることができる規定(労働基準法第33条第3項)が教員にも適用されるように読み替えられており、その際は教員の健康と福祉を害しないよう考慮することが求められています。もっとも、正規の勤務時間を超えて勤務を命じられるのは、前述の超勤4項目に当たり、臨時または緊急のやむを得ない必要がある場合に限られます(給特法第6条第1項、平成15年政令第484号)。

「月100時間以上残業しても給与が変わらない。これだとどうしても『どうせサービス残業だから』と仕事が無限に膨らみがちでした。」
——42歳・元公立中学校教諭・男性

海外との比較で見る日本の教員給与|「給与水準」と「働き方」の関係

海外との比較

日本の教員給与は、世界的に見るとどの位置にあるのか。名前だけでなく、OECDが公表している数字そのものを見てみます。

給与水準は、OECD平均を下回っている

OECD『Education at a Glance 2025』の日本カントリーノート(日本語版)は、2024年の日本についてこう書いています。「2024年においても、日本の法定給与は依然としてOECD平均を下回る」。具体的には、初等教育の教員の法定給与は最低資格教員の初任給34,863米ドルから、最高資格教員の最高給与66,530米ドルまでの範囲で、OECD平均の44,153〜74,896米ドルを下回っています(購買力平価で換算した額)。

「教員の給与は国際的に見れば悪くない」という言い方をときどき見かけますが、少なくともこの指標では、そうは言えません。

この10年で上がったのは初任給だけ

同じ資料には、もう一段こたえる記述があります。「2015年から2024年の間に、ほとんどの国で法定給与が増加したが、新任の教員と経験が豊かな教員では増加率が異なる。日本ではこの期間、初任給は増加したが、15年勤続教員の給与は減少した」。

採用しづらくなった分、入口の給与は手当てされた。けれど、現場を支えている中堅の給与はむしろ下がっている——という10年だったことになります。40代でしんどさが噴き出す先生が多いことと、無関係ではない気がしています。

労働時間は、いまも参加国中で最長

働く時間のほうはどうか。OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2024によると、常勤教員の1週間当たりの仕事時間は日本の小学校が52.1時間、中学校が55.1時間。参加国平均は小学校が40.4時間、OECD平均は中学校が41.0時間です。

2018年調査(小56.1時間・中59.1時間)と比べると小中とも約4時間減りましたが、それでも日本の小中学校教員の仕事時間は、前回に引き続き参加国中で最長です。減った内訳は課外活動(中学校で約2時間減)と事務業務(小中とも約1時間減)。部活動の地域移行や支援スタッフの配置が、数字にはたしかに出はじめています。

つまり、日本の課題は「両方」

給与はOECD平均より低く、労働時間は参加国中で最長。「給与水準はまあまあだが時間が長い」のではなく、給与も時間も国際的に見て不利な位置にある、というのが数字が示している姿です。教職調整額を4%から10%へ引き上げる今回の改正は、このうち給与側を少し押し上げるものですが、これで平均に届くわけではない、という前提で読むのが正確だと思います。

2025年成立の給特法改正のポイント|何がどう変わったのか

法改正の内容を整理

2025年6月に成立した給特法等改正法(令和7年法律第68号)は、教員の処遇改善と働き方改革の両輪を目指す内容です。文部科学省が公表している法律の概要に沿って整理します。

① 教職調整額を4%から10%へ引き上げ

最大の改正点は教職調整額の引き上げです。給特法第3条第1項の本則は、すでに「給料月額の100分の十」に書き換わっています。ただし附則で経過措置が置かれ、2026年1月の5%から段階的に上がっていく形です(スケジュールは次の章で表にします)。

注意点がひとつ。幼稚園の教育職員だけは4%のままです(第3条第1項の括弧書き)。文部科学省は理由として、子ども・子育て支援新制度の枠組みで処遇改善の財政措置が講じられていることを挙げています。

② 「主務教諭」という職が新しくできる

組織的な学校運営のために、「主務教諭」の職が新設されます(学校教育法第27条・第37条関係)。児童等の教育をつかさどるとともに、学校の教育活動に関し教職員間の総合的な調整を行う職です。主幹教諭や指導教諭とは別に、「置くことができる」という任意設置の形で規定されました。

国会の附帯決議では、「主務教諭の配置による教諭の職務内容・職責の変化がないことを踏まえ、主務教諭の配置のために、教諭の給与を引き下げることのないよう、地方公共団体に周知徹底すること」と釘が刺されています。ここは自治体ごとの運用を見ておきたいところです。

③ 教育委員会に「業務量管理・健康確保措置実施計画」の義務付け

働き方改革の実効性を上げるため、給特法に第8条が新設されました。教育委員会に対して、文部科学大臣が定める指針に即した計画の策定・公表、実施状況の毎年度の公表、総合教育会議への報告を義務付けるものです。学校運営協議会が承認する「基本的な方針」にも、この措置の内容を含めることとされました。

なお時間外在校等時間の上限(1か月45時間・1年360時間)そのものは変わっていません。文部科学事務次官通知(令和7年9月26日・7文科初第1404号)に「上限の原則は、改正前の指針から内容を変更していない」と明記されています。変わったのは上限の数字ではなく、教育委員会が計画を立てて公表しなければならなくなったという手続きの部分です。

④ 義務教育等教員特別手当を「校務類型」に応じて支給

教職調整額とは別に、義務教育等教員特別手当を、担っている校務の種類(校務類型)に応じて支給する仕組みに改められます(教育公務員特例法第13条関係)。文部科学省の資料には「学級担任への加算を想定」と書かれています。全員一律ではなく、負担の重い職務に厚く配分する方向です。金額は条例で定めるため、自治体差が出ます。

⑤ 附則に書き込まれた「時間の削減目標」と「中学校35人学級」

見落とされがちですが、改正法の附則に重い約束が入りました。

附則第3条——政府は令和11年度(2029年度)までに、教育職員の1箇月時間外在校等時間を平均30時間程度に削減することを目標とし、①教員1人当たりの担当授業時数の削減、②教育課程の編成の在り方の検討、③教職員定数の標準の改定、④教育職員以外の支援人材の増員、⑤不当な要求等を行う保護者等への対応の支援、⑥部活動の地域展開への財政的援助、などの措置を講ずる、と定めています。「支援員を増やす」は法改正の中身そのものではなく、この附則に基づく政府の措置として位置づけられています。

附則第4条——政府は公立中学校の学級編制の標準を令和8年度(2026年度)から35人に引き下げるよう、法制上の措置その他の必要な措置を講ずる、とされました。給特法の改正法に、中学校35人学級が書き込まれた形です。

施行日は2段構えになっている

ここを取り違えると、あとの話が全部ずれます。

給与に関わる部分(教職調整額の引き上げ)は2026年1月1日、働き方・職に関わる部分(主務教諭の新設、給特法第8条の計画義務付け)は2026年4月1日の施行です。文部科学省の工程表にも「給与関係規定施行 R8.1.1」「働き方・職関係規定施行 R8.4.1」と分けて書かれています。「4月から」と一括りにしないでください。

教職調整額の段階引き上げスケジュール|2026年1月から2031年1月まで

段階引き上げのイメージ

ここは推測の余地がありません。法律の附則に、年と率が表で書き込まれています。e-Gov法令検索で給特法の条文を開くと、第3条第1項の本則が「百分の十」に、附則第2項が経過措置の読み替え表になっているのが確認できます。

適用される期間 教職調整額の率 根拠
2026年1月1日〜同年12月31日 5% 附則第2項
2027年1月1日〜同年12月31日 6% 附則第2項
2028年1月1日〜同年12月31日 7% 附則第2項
2029年1月1日〜同年12月31日 8% 附則第2項
2030年1月1日〜同年12月31日 9% 附則第2項
2031年1月1日〜 10% 第3条第1項(本則)

「4月から」ではなく「1月から」

引き上げの区切りは年度(4月)ではなく暦年(1月)です。最初の引き上げも2026年4月ではなく2026年1月1日から。以後、毎年1月1日に1%ずつ上がります。年度単位で考える学校の感覚とはずれるので、給与明細を見るタイミングに注意してください。

10%に到達するのは2031年1月1日

附則の経過措置は2030年12月31日で終わります。したがって2031年1月1日から、本則どおりの10%になります。「2030年代前半」といった曖昧な言い方ではなく、法律上は日付が決まっています。改正法の成立(2025年6月)から数えて、およそ5年半かけて完成する引き上げです。

その先は「2年後の調査」でいったん見直される

では10%で終わりなのか。改正法の附則第6条は、政府は給与関係規定の施行日(2026年1月1日)以後2年を目途として教育職員の勤務の状況について調査を行い、勤務条件・人材確保の動向・財源確保の状況などを勘案して、教職調整額に係る率の変更を行うことを含め必要な措置を講ずる、と定めています。

つまり10%に到達してから議論するのではなく、途中の2028年ごろに一度、勤務実態の調査をふまえた見直しの機会があるということです。上振れも下振れもありうる書き方ですが、率が動く可能性が法律上ひらかれている、という点は押さえておいてよいと思います。

改正で本当に教員の給料は上がるのか|月給・年収の具体的試算

給与試算

「結局、自分の給与はいくら増えるの?」が一番気になるところだと思います。教職調整額は給料月額に率を掛けるだけなので、計算そのものはとても単純です。ここで言う「給料月額」は、諸手当を含む月収ではなく、給料表で決まる本俸の額を指します。給与明細の「給料」欄を見てください。

給料月額 4%(改正前) 5%(2026年1月〜) 10%(2031年1月〜) 4%→10%の差(月額) 同(12か月分)
30万円 12,000円 15,000円 30,000円 +18,000円 +216,000円
35万円 14,000円 17,500円 35,000円 +21,000円 +252,000円
40万円 16,000円 20,000円 40,000円 +24,000円 +288,000円
45万円 18,000円 22,500円 45,000円 +27,000円 +324,000円

まず、2026年1月に起きた変化は月数千円

給料月額35万円の人なら、教職調整額は14,000円から17,500円へ、月3,500円の増です。10%に届く2031年1月になって、ようやく35,000円(4%時点から月21,000円増)になります。「給特法が変わって給料が上がる」という話の実際の大きさは、この幅です。

賞与や退職金にも効くが、月数は自治体の条例次第

ここは見落とされがちな、しかし効いてくるポイントです。給特法第3条第3項第1号は、地域手当・特地勤務手当・期末手当・勤勉手当・定時制通信教育手当・産業教育手当・退職手当について給料を算定の基礎とする場合、「当該給料の額に教職調整額の額を加えた額を算定の基礎とする」と定めています(e-Gov・給特法第3条)。

つまり教職調整額が増えれば、ボーナスも退職手当も、その分だけ土台が上がります。ただし期末手当・勤勉手当の支給月数は各自治体の条例で決まるため、全国共通の数字がありません。上の表の「12か月分」に加えて賞与分が乗る、とだけ理解しておいてください。ここに一律の年収増を書くと、必ずどこかの自治体で外れます。

額面がそのまま手取りになるわけではない

増えた額から所得税・住民税が引かれるのは想像がつくと思いますが、それだけではありません。給特法第4条は、地方公務員等共済組合法の適用については教職調整額を「給料とみなす」と定めています。標準報酬の計算に入るということは、共済組合の掛金も連動して増えるということです。

税率も掛金率も、収入・扶養・自治体(共済組合の支部)によって変わるため、「手取りは◯割」と一律に言うことはできません。額面の増加額より、手元に残る額は目に見えて小さくなる——その前提で受け止めておくのが安全だと思います。

残業代の扱いと働き方改革との関係|根本問題は解消されたのか

働き方の現実

給特法改正で給与は上がりましたが、「残業代が出るようになる」訳ではないのが重要なポイントです。教員の働き方の根本問題が解消されたかは別問題。

残業代制度への移行は見送り

給特法そのものを廃止して労働基準法に基づく残業代制度に移行する案も議論されましたが、2025年の改正では見送られました。給特法第3条第2項の「教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」という規定は、そのまま残っています(e-Gov・給特法第3条第2項)。労働基準法第37条の適用除外も続きます。

「定額働かせ放題」批判は残る

教職調整額が4%→10%に上がっても、「働けば働くほど損する」構造そのものは変わりません。学校現場で「残業代が出ないから無限に仕事を振っていい」という慣習が残っている限り、長時間労働の根は深いままです。

働き方改革との連動が鍵

改正の効果を実感するには、給与改善+業務削減+人員確保の3つが同時に進む必要があります。この点、今回の改正法は附則で「令和11年度(2029年度)までに、1箇月時間外在校等時間を平均30時間程度に削減する」という目標を掲げました(附則第3条)。

この「30時間」がどこから来た数字かも、文部科学事務次官通知に書かれています。令和4年度の調査結果をもとに、1か月の時間外在校等時間が45時間を超えていた人が全員45時間相当になったと仮定して試算すると、平均が30時間程度になる——という計算です。通知は同時に、この目標を「30時間となるまで業務を行うことを推奨するものと解してはならず」、一層の縮減に取り組むよう教育委員会に求めています。目標が上限のように運用されないか、現場としては見ておきたいところです。

関連:35人学級は教員の負担を減らすのか|現役教員が知っておくべきメリット・デメリットとキャリアへの影響

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給特法は最終的に廃止されるのか|継続議論の論点

給特法の今後

2025年の改正では「給特法廃止」までは至りませんでしたが、議論は継続中です。今後の方向性を、法律の条文に書かれていることと、書かれていないことに分けて整理します。

廃止論|「定額働かせ放題」を完全に終わらせる

給特法そのものを廃止し、労働基準法に基づく残業代制度に完全移行すべきという議論。これにより「働けば働くだけ給与が増える」健全な労使関係を構築できる、というのが廃止論の根拠です。

存続論|教員の職務特性と教育現場への配慮

一方で、教員の職務は授業準備・教材研究・生徒対応・部活動など多様で「労働時間を客観的に測定しにくい」特性があります。残業代制度に移行すると「測定可能な業務だけが残業として認められ、自発的な教材研究は対象外」になる懸念も。教育の質低下を懸念する声があります。

法律に書かれた「次の見直し」は、2年後の勤務状況調査

ここから先は、憶測ではなく条文に書いてあることだけをお伝えします。改正法の附則第6条は、政府に対して次のように求めています。

給与関係規定の施行日(2026年1月1日)以後2年を目途として、教育職員の勤務の状況について調査を行う。その結果に基づく勤労環境・勤務条件の状況、人材確保の動向、給与等に要する経費の財源確保の状況などを勘案して、勤務条件のさらなる改善のための措置を検討し、必要があると認めるときは教職調整額に係る率の変更を行うことを含め、必要な措置を講ずる。

つまり2028年ごろに一度、勤務実態の調査を挟んだ見直しの機会が法律上セットされているということです。参議院文教科学委員会の附帯決議でも、この調査にあたっては「これまで教育職員に対して行われた勤務実態調査にも留意し、その方法について十分に検討すること」と求められています。

その先に何が来るかは、まだ決まっていない

「教職調整額を維持しつつ一定時間を超えたら残業代を出す」といった折衷案は、報道や識者の議論として目にすることがあります。ただし改正法にも、文部科学省が公表している資料にも、そうした制度設計が決まったとは書かれていません。この記事では、裏の取れていない将来像は書かないでおきます。

いま確実に言えるのは3つだけです。①2031年1月に10%になることは法律で決まっている。②その手前の2028年ごろに、率の変更を含む見直しの検討が予定されている。③残業代制度への移行は、今回は選ばれなかった。この3点を押さえておけば、今後のニュースを自分で読み解けると思います。

給特法改正が教員のキャリア選択肢に与える影響

キャリア選択肢

給与改善は教員のキャリア判断に複雑な影響を与えます。「上がるから続けよう」と単純化せず、複数の観点で考えてみましょう。

① 「給与だけで続ける/辞める」を決めない

月数千〜数万円の増加は、「辞めたい気持ち」を覆すほどの金額ではない場合が多い。給与改善は判断材料の一つに過ぎず、働き方・人間関係・自分のやりたいことなど他の要因と総合的に考えるべきです。

② 「あと数年で辞める」予定だった人の判断は要再検討

「あと5年勤めて辞めよう」と思っていた人にとって、給与改善のタイミングと退職タイミングの関係は要検討。「もう少し続けて受給する」「やはり早めに辞める」、どちらも合理的な選択です。

③ 民間との給与比較は依然として続く

比較の相手を国際水準に取ると、教職調整額が10%になっても差は埋まりません。前の章で見たとおり、OECDのEducation at a Glance 2025は日本の法定給与がOECD平均を下回ると明記しています。国内の民間企業との比較については業種・企業規模で幅が大きく、一言で「低い」とも「高い」とも言えません。比べるなら、自分が実際に受ける求人の条件と比べてください。「給与重視で異業種転職」を考えている人にとって、今回の改正だけで判断がひっくり返ることは、あまりないと思います。

④ 「長く続ける価値」の見直し材料に

今回の改正は、給与だけの話ではありません。附則には中学校35人学級を2026年度から、2029年度までに1か月の時間外在校等時間を平均30時間程度へという約束も書き込まれました。これらが実際に進む自治体では、「教員として長く続ける価値」が変わってくる可能性があります。逆に言えば、変わるかどうかは自治体ごとに差が出るということ。お住まいの自治体の教育委員会が公表する「業務量管理・健康確保措置実施計画」は、2026年4月以降、その自治体が本気かどうかを測る具体的な材料になります。

私(新川)の経験から見る「給与とキャリアの考え方」

振り返りの時間

ここで少し私自身の体験をお伝えします。私は静岡県の公立中学校で11年勤務しました。当時を振り返ると、給与をめぐる教員特有の感覚があったと思います。

「サービス残業が当たり前」の感覚

給特法のもとで働いていた当時、「残業代が出ないのが普通」「土日も部活で出るのが普通」という空気がありました。それが「当たり前」だと思っていたから、自分の労働時間が客観的に異常だと気づきにくかった。給特法は給与の問題だけでなく、労働観そのものを歪める影響があったと、辞めてから気づきました。

「給与だけで辞めるかは決められない」

もし当時、教職調整額が10%だったら私は教員を続けていたか?──答えはNoです。給与の問題以上に、働き方・人間関係・心身の状態の問題が大きかったから。給与は判断材料の一つでしかなく、それだけで人生のキャリアは決まらないのが現実です。

制度改革に「期待しすぎない」スタンス

給特法改正は前向きな一歩です。でも、「制度が変われば自分のしんどさが解消する」と期待しすぎると、変わらなかった時に絶望感が大きくなる。制度を見つつ、自分のキャリアは自分で選ぶ──このスタンスを大切にしてほしいです。

「給与が上がるなら嬉しいけど、それで何かが劇的に変わる訳ではない。自分のキャリアは自分で決める前提で動くのが大事です。」
——新川紗世

よくある質問(FAQ)

よくある質問

Q1. 教職調整額が10%になるのはいつですか?

A. 2031年1月1日です。給特法の附則第2項に、2026年1月から2030年12月まで1年ごとの率が表で定められており、この経過措置が終わる2031年1月1日から本則の10%が適用されます(e-Gov・給特法)。「2030年代前半」といった幅のある話ではなく、日付が決まっています。

Q2. 引き上げは4月からですか、1月からですか?

A. 1月です。教職調整額に関する規定の施行日は2026年1月1日で、以後の引き上げも毎年1月1日。年度単位ではありません。ただし主務教諭の新設と、教育委員会への計画策定の義務付けは2026年4月1日施行で、同じ改正法でも施行日が分かれています。

Q3. 教職調整額10%でも、残業代と比べたら少ないのでは?

A. その通りです。仮に労働基準法どおりに時間外手当を計算するとどうなるか、前提を全部書いたうえで試算してみます。給料月額35万円、1週間の正規の勤務時間は38時間45分とすると、1か月の平均所定労働時間は38.75×365÷7÷12=約168.4時間。時間単価は約2,079円、労働基準法第37条の2割5分増で約2,598円です。上限指針の月45時間分だと約11万7,000円。これに対して教職調整額10%は35,000円ですから、およそ3割にとどまります。実際に時間外手当が支給されるわけではなく、あくまで比較のための計算ですが、「定額働かせ放題」という批判が残る理由はここにあります。

「給特法が変わって少し給料が上がるのは嬉しい。でも、月数千円のために働き続けるかと言われると、それは別問題。給料じゃない部分で限界が来ている人が多いと思う。」
——38歳・公立小学校教諭・女性

Q4. 校長・教頭や、幼稚園の先生も対象ですか?

A. 分かれます。校長・副校長・教頭は教職調整額の支給対象外です(給特法第3条第1項)。管理職手当が別に支給されるためです。また公立幼稚園の教育職員は4%のまま据え置きで、引き上げの対象になりません(同項の括弧書き)。文部科学省の資料は、子ども・子育て支援新制度の枠組みで処遇改善の財政措置が講じられていることを理由に挙げています。なお改正法の附則第7条で、公立幼稚園の処遇の在り方は今後検討するとされています。

Q5. 高校の教員も給特法の対象ですか?

A. 対象です。給特法第2条第1項の「義務教育諸学校等」には、公立の小学校・中学校・義務教育学校・高等学校・中等教育学校・特別支援学校・幼稚園が含まれます(e-Gov・給特法第2条)。名称に「義務教育」とあるため誤解されやすいのですが、公立高校の先生も教職調整額の対象です。

Q6. 私立学校の教員も同じ恩恵を受けますか?

A. 受けません。給特法は第1条・第2条のとおり公立学校の教育職員のみを対象とする法律です。私立学校は学校法人ごとの就業規則によりますが、労働基準法第37条の適用除外がないため、時間外労働には割増賃金が支払われるのが原則です。「私立には教職調整額がない代わりに残業代がある」という整理になります。

Q7. 教職調整額はボーナスや退職金にも反映されますか?

A. されます。給特法第3条第3項第1号は、期末手当・勤勉手当・退職手当・地域手当などについて給料を算定の基礎とする場合、「当該給料の額に教職調整額の額を加えた額を算定の基礎とする」と定めています(e-Gov・給特法第3条)。ただし賞与の支給月数は自治体の条例で決まるため、増加額は一律ではありません。同時に、第4条により地方公務員等共済組合法の適用上も給料とみなされるので、共済組合の掛金も増えます。

Q8. 給特法改正で教員の働き方は本当に変わりますか?

A. 給与の引き上げだけで劇的に変わることは期待しにくいです。ただし今回の改正では、2029年度までに1か月の時間外在校等時間を平均30時間程度に削減するという目標と、教育委員会に計画の策定・公表と実施状況の公表を義務付ける仕組みが同時に入りました。数字が公表される以上、進んだか進まなかったかは外から見えるようになります。給特法改正は「改革パッケージの一部」と理解して、自分の自治体の計画を見にいくのが現実的だと思います。

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まとめ|給特法改正は前向きな一歩、でも自分のキャリアは自分で選ぶ

給特法改正は、教員の処遇改善に向けた前進です。教職調整額は4%から10%へ。給料月額35万円なら、2031年1月に月21,000円の増になります。一方で、残業代が出るわけではなく、長時間労働の根本問題が解消されたわけでもないのが現実です。

「教職調整額10%って聞いても、正直ピンとこない。残業時間に対する正当な対価という意味では、まだまだ遠いという感覚です。」
——42歳・公立中学校教諭・男性

本記事のポイントを再確認しましょう。

  • 改正法は2025年6月11日成立・6月18日公布(令和7年法律第68号)。教職調整額の引き上げは2026年1月1日から
  • 率は2026年1月に5%、毎年1月に1%ずつ上がり、2031年1月1日に10%(幼稚園は4%据え置き、校長・副校長・教頭は対象外)
  • 給料月額35万円なら、4%時点から月21,000円・12か月で252,000円の増。賞与・退職手当の算定基礎にも入るが、月数は自治体の条例次第
  • 額面がそのまま手取りにはならない。所得税・住民税に加え、共済組合の掛金も連動して増える
  • 残業代制度への移行は見送り。ただし附則で2029年度までに月の時間外在校等時間を平均30時間程度へ、中学校35人学級を2026年度からという目標が入った
  • 2028年ごろに勤務状況調査があり、率の変更を含めて見直しが検討される(附則第6条)
  • 給与改善は判断材料の一つ。自分のキャリアは複数軸で考える

制度改革を見守りつつ、自分のキャリアの選択肢は持っておく──それが、変動する制度の中で自分を守る最良の方法です。Re-Careerでは「辞める/続ける/変える」のどの選択でも、お金とキャリアの両面で伴走します。

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Re-Career代表 新川紗世
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