元教員107名のリアル|退職を後悔していない80.4%・働き方満足度1.6倍の真実【元教員キャリア実態調査2026】
この記事の著者
新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役
元公立中学校英語教員(10年以上)。教員時代に病休を経験し退職。その後、教員専門のキャリア支援会社を設立。著書『「やめたいかも」と一度でも思ったら読む 教員の転職思考法』。スタッフ全員が元教員のプロフェッショナル集団として、延べ1,000名以上のキャリア支援に携わる。
「教員を辞めたら、後悔するのではないか」
退職を検討する現役教員の多くが、最も気にしている問いです。マクロな離職率や代替教員数のデータは存在しても、「退職した教員一人ひとりが、その後どうなっているのか」を体系的に整理したデータは、これまで社会にほとんど存在しませんでした。
Re-Career株式会社は、この空白を埋めるべく、2026年4〜5月にかけて全国30都道府県・元教員107名を対象とする独自調査「元教員キャリア実態調査2026」を実施しました。本記事では、その調査から見えた6つの主要な発見を整理してお届けします。
結論からお伝えすると、退職を「後悔していない」と回答した人は80.4%。「もう一度選んでも退職する」が75.7%。働き方の満足度は教員時代の4.5点から現在7.2点へと約1.6倍に上昇しています。一方で、77.6%が「年収は減った」と回答──退職という選択は、収入を一定程度犠牲にしてでも「働き方」を取り戻す決断だったことが明らかになりました。
この記事では、調査の概要と主要な発見、そしてシリーズ9本の詳細記事への導線を整理します。退職を検討する現役教員、教育関係者、行政・メディア関係者にとって、議論の前提となるデータをご活用ください。
⏱️ 30秒でわかる結論
元教員107名の独自調査で見えた、退職という選択のリアル。後悔率1割未満、満足度1.6倍。
後悔なし80.4% / 「少し後悔・後悔」は合計9.3%のみ
もう一度退職75.7% / 教員を続けるは4.7%
働き方満足度4.5 → 7.2 へ約1.6倍に上昇
年収77.6%が「減った」 / 転職2回以上で「増えた」25%
退職検討期間1年以上が55.1% / 3年以上も21.5%
退職理由TOP3仕事量・長時間労働・家庭との両立 / 給与は14%
調査の概要|全国30都道府県・元教員107名のリアルな声
本調査の信頼性と特徴を整理します。
調査の基本情報
- 調査名:元教員キャリア実態調査2026(最新版)
- 調査主体:Re-Career株式会社
- 調査対象:教員(公立・私立、常勤・非常勤を問わず)を退職した経験を持つ方
- 調査方法:Googleフォームによる無記名アンケート
- 調査期間:2026年4月〜5月
- 有効回答数:107名
- 質問項目:全30問(属性・退職背景・現在の働き方・満足度・現職教員へのメッセージ等)
- 回収方法:SNS、メール、教員コミュニティを通じた告知
回答者の属性
回答者の属性は、教員の実態を反映した分布になっています。
- 地域:全国30都道府県(北海道〜九州・沖縄まで広域)
- 性別:女性63名・男性40名・回答しない1名
- 年代:30代を中心に20代〜50代以上まで幅広く
- 校種:小学校49名・中学校36名・高校11名・特別支援学校3名・その他5名
- 勤続年数:「11〜15年」が27名で最多。中堅・ベテラン層が中心
- 退職時期:2021〜2025年度の直近5年退職者が86.5%
本調査の特徴と意義
本調査の最大の特徴は、「退職した教員本人の声」を体系的に整理した点にあります。文部科学省が公表する離職率や採用試験倍率といったマクロデータは存在しても、「退職者一人ひとりが、なぜ辞め、辞めた後どうなったか」を網羅したデータは、これまで日本社会にほとんど存在していませんでした。本調査は、現職教員・退職検討中の教員・教育関係者・行政・研究者・メディアが共通の前提のもとに議論できる土台を提供することを目指したものです。
主要発見①|退職について「後悔していない」が80.4%
退職についての現在の心境を尋ねたところ、「後悔していない」と回答した人は80.4%に達しました。「どちらとも言えない」は10.6%、「少し後悔」7.7%、「後悔」1.0%と、退職判断を後悔している人は合計9.3%にとどまっています。
全年代で「後悔していない」が最多
注目すべきは、年代別に集計しても20代から50代以上まで、すべての年代で「後悔していない」が最多回答だったこと。特に30代では89.4%が「後悔していない」と回答し、最も納得度が高い結果となりました。50代以上で「少し後悔」が15.8%とやや高くなるのは、定年や任期満了など選択の余地が限定された退職ケースが含まれる影響と考えられます。
「退職を決めるまでに3年悩んだ。でも、辞めてからは『あの時の自分の決断は正しかった』と毎日思える。」
——40代・元中学校教諭・女性(自由記述より要約)
主要発見②|「もう一度選べても退職する」が75.7%
さらに踏み込んで、「退職時期に戻ってもう一度選べるとしたら、どうしますか」という仮想的な選択を尋ねた質問では、75.7%が「退職する」と回答しました。「教員を続ける」を選んだ人はわずか4.7%、「わからない」が19.6%です。
「呼び戻し」型の教員不足対策に限界
この結果は、退職者の大多数が教員職への復帰意向を持っていないことを示します。教員不足対策の文脈で「ペーパーティーチャー(教員免許を持つ未就業者)の掘り起こし」や「退職教員への再雇用呼びかけ」が議論されていますが、本データを見る限り、「辞めた人を戻す」アプローチだけで構造的な不足を埋めることは難しい可能性が示唆されます。
「退職は正解だった」という納得感
「後悔していない80.4%」「もう一度選んでも退職75.7%」──この2つの数字は、退職という決断が退職者本人のなかで「正解だった」と評価されていることを示しています。退職を検討する現役教員にとって、これは大きな判断材料となるでしょう。
主要発見③|働き方満足度が4.5→7.2へ約1.6倍に上昇
教員時代と現在の満足度を10点満点で比較した結果は、本調査の最も注目すべき発見の一つです。
「やりがい・収入」の満足度は微減
「やりがい・収入の満足度」は教員時代の平均7.28点から現在6.50点へと、わずかに低下しています。これは、教員という仕事が高いやりがいを伴う職業であったことを反映しています。退職してもなお、教員時代のやりがいの記憶が高評価につながっているのです。
「働き方」の満足度は4.5→7.2へ大幅改善
一方で、「働き方の満足度」は教員時代の4.5点から現在7.2点へと、約1.6倍に上昇しました。分布シフトを見ると、教員時代は「1〜3点」が47.1%(49名)と低い満足度を回答していたのに対し、現在は「8〜10点」が57%(59名)と高い満足度を回答しています。
「収入を引き受けて、時間・健康・自由度を取り戻す」選択
この結果が示すのは、退職した教員の多くが「収入が減るというコスト」を引き受けてでも、「自分の時間・健康・自由度」を取り戻す選択をしたという事実です。言い換えれば、教員時代の「働き方」がそれだけ過酷であったという裏返しでもあります。
主要発見④|退職検討期間「1年以上」が55.1%・「3年以上」も21.5%
「退職を検討してから、実際に退職するまでの期間」を尋ねたところ、「1年以上」と回答した人が55.1%(うち3年以上は21.5%)にのぼり、「半年未満」の19.2%の約3倍に達しました。
退職は「衝動」ではなく「熟慮の末の決断」
この結果は、「教員はある日突然辞める」「衝動的に離職する」といったイメージと大きく異なります。退職した教員の半数以上は、1年以上にわたり退職を検討し続け、そのうち5人に1人は3年以上の長期にわたって葛藤を抱えていたことになります。
長く悩んだ人ほど納得度が高い
さらに、退職検討期間別に「後悔していない」回答率を見ると、「3年以上」悩んだ人の87.0%、「1〜3年」悩んだ人の82.9%が「後悔していない」と回答。長期間検討した人ほど退職後の納得度が高い傾向が見られます。「長く悩んだ末の決断は、後の納得につながりやすい」──現職教員のキャリア意思決定にも示唆を与える結果です。
「辞めると決めるまでに3年かかった。途中で何度も気持ちが揺れた。でも、その時間があったからこそ、今こうして納得している。」
——30代・元小学校教諭・女性(自由記述より要約)
主要発見⑤|退職理由TOP3は「仕事量・長時間労働・家庭との両立」
退職理由(複数選択)の集計結果は、教員不足対策の議論に重要な示唆を与えます。
退職理由の上位は「働く量と時間」
上位を占めたのは:
- 仕事量:57%
- 長時間労働:54%
- 家庭との両立:45%
- 仕事内容:39%
- キャリア拡張:39%
上位3つはいずれも「働く量と時間」に直結する要因で、量的・時間的負担とライフイベントとの両立困難が退職判断の中心にあります。
「給与待遇」は14%にとどまる
注目すべきは、「給与待遇」を退職理由として挙げた人が14%にとどまった点です。教員不足対策として議論される処遇改善(給与引き上げ)は重要な施策である一方、退職判断の中心にあるのは「給料の額」ではなく、「自分の時間と健康を守りながら働けるか」「家族と一緒にいられる時間を確保できるか」という働き方の構造的な問題であることが、本データからは見て取れます。
処遇改善だけでは退職を防げない
2024年成立の給特法改正で教職調整額が4%→最大10%へ段階引き上げが進んでいますが、本調査が示すのは「処遇改善のみでは退職を抑止できない可能性」です。業務量そのものの削減、長時間労働の構造的是正、育児・介護期にある教員への柔軟な働き方の制度設計が、本質的な解決策として求められています。
主要発見⑥|病気休職経験者28.0%、うち35%が1年以上の長期休職
「教員時代に病気休職の経験はあるか」という問いには、28.0%の回答者が病気休職を経験していました。さらにそのうち、休職期間が1年以上に及んだ人は休職経験者の36.4%にあたります。
退職時に「病気休職中」だった人も13.5%
退職時の状況については、77.6%が「通常勤務中に退職」と回答した一方で、「病気休職中に退職」が13.5%、「育児休業中に退職」が5.8%と、心身の不調や育児期の制約のなかで退職を決断したケースが約2割を占めています。
「健康を損なう前に退職する」という意思決定
「健康を損なってから退職する」あるいは「損なう前に退職を選ぶ」という意思決定が、退職者の中で一定の規模で起きていることが示唆されます。教員のメンタルヘルス対策の優先度の高さが、本データからも明らかになりました。
関連:「一度休むといけなくなる」は本当か|元教員が病休から復帰・退職を経験して見えたこと
退職後の進路|フリーランス最多・教員復帰はわずか3名
「現在の主たる就業状況(最も収入が多いもの)」については、回答が大きく多様化しているのが本調査の特徴的な発見の一つです。
就業状況の分布
- 個人事業主・フリーランス:25名(最多)
- 無職・準備中:19名
- 民間正社員(教育業界外):13名
- 民間正社員(教育業界):10名
- 非常勤講師・臨時的任用:8名
- 正規教員として復帰:わずか3名
「教員を辞める ≠ 教育の世界を完全に離れる」
退職経験を活かし、教育業界の中で別の立場(民間企業・NPO・大学教員・スクールサポートスタッフなど)に転身している人も一定数存在します。データからは「教員を辞める=教育の世界を完全に離れる」とは限らない、多様な働き方の広がりが読み取れます。
年収は77.6%が「減った」も、転職2回以上で25%が「増えた」
年収変化については、77.6%が「減った」、11.5%が「ほぼ同じ」、10.6%が「増えた」と回答。退職直後に収入が下がるのは多くの退職者に共通する経験です。
ただし、転職回数と年収のクロス分析では興味深い傾向が。転職2回以上の人では「年収増えた」が25.0%まで上昇し、「減った」は60.0%にとどまります。退職後すぐに収入が回復するのではなく、複数回のキャリア移行を経るなかで段階的に収入面の改善が起きている実態が読み取れます。
退職者から現職教員へのメッセージ|4つのテーマ
本調査の最後で、現職の先生方へ伝えたいことを自由記述で尋ねたところ、107名中51名から回答が寄せられました。寄せられた声を内容別に分類すると、大きく4つのテーマに整理することができます。
テーマ1:「自分で決めること」を重視するメッセージ
最も多かったのは、「教員を続けるか辞めるかは、自分で決めるべき」という、選択そのものへの主体性を強調するメッセージでした。
テーマ2:「自分自身を大切に」という健康への配慮
病気休職経験率28.0%という調査結果と呼応するように、「無理をしないでほしい」「自分の身体を第一に」という声が多く寄せられました。
テーマ3:「学校外との繋がり」を持つことの推奨
退職を経験した立場から、現職教員へ「学校の外の世界とつながっておくこと」を勧める声が多く見られました。
テーマ4:教員という仕事への敬意
退職者でありながら、教員という仕事そのものへの深い敬意を表すメッセージも数多く寄せられました。「辞めた人=教員批判」という単純な構図ではないことが、自由記述からも明確に読み取れます。
「教員を続けるのも辞めるのも、どちらも間違いではない。大切なのは『自分で決めること』。」
——元教員からのメッセージ(自由記述より)
シリーズ全9本|各テーマの詳細記事へ
本調査の各テーマについて、9本の詳細記事を公開しています。気になるテーマからお読みください。
📊 元教員キャリア実態調査2026|シリーズ全9本
- 👉 本記事(調査01):総合版・主要発見6つのまとめ
- 👉 調査02 退職検討期間55.1%が「1年以上」の現実
- 👉 調査03 教員の退職理由TOP3|仕事量・長時間労働・家庭両立
- 👉 調査04 教員の病気休職率28%の衝撃
- 👉 調査05 退職後の進路|フリーランス最多
- 👉 調査06 退職後の働き方|週30時間未満44%・在宅37.5%
- 👉 調査07 男女別・校種別の退職理由
- 👉 調査08 退職者51名から現職教員への声
- 👉 調査09 教員不足対策の限界
調査レポート全文ダウンロード
本調査の全データ・グラフ・クロス分析・自由記述を含む全31ページの詳細レポートを、以下のページから閲覧・ダウンロードできます。
引用・転載について
本調査のデータは、教育・行政・報道・研究目的での引用を歓迎します。引用の際は、以下の出典表記をお願いいたします。
Re-Career株式会社「元教員キャリア実態調査 2026(最新版)」
(2026年5月発表、有効回答数107名)
詳細クロス分析データ・追加グラフ・取材対応等にも応じます。お問い合わせは info@re-career.net まで。
まとめ|107名のリアルが示す、教員のキャリアの新しい現実
元教員107名の独自調査から見えたのは、退職という選択への高い納得感と、働き方満足度の劇的改善という現実でした。「辞めるが正解じゃない、選択肢を持つ」──Re-Careerが掲げるこのスタンスを、データが裏付ける結果となりました。
本記事の主要発見を再確認しましょう。
- 退職を「後悔していない」が80.4%、「もう一度選んでも退職」が75.7%
- 働き方満足度は4.5→7.2へ約1.6倍に上昇
- 年収は77.6%が「減った」と回答も、転職2回以上で「増えた」が25%まで上昇
- 退職検討期間「1年以上」が55.1%、長く悩んだ人ほど納得度が高い
- 退職理由TOP3は仕事量・長時間労働・家庭両立、給与は14%
- 病気休職経験者は28.0%、うち36.4%が1年以上の長期休職
- 退職後の進路は多様化、教員復帰はわずか3名
退職は「逃げ」でも「失敗」でもなく、選択肢の一つです。退職を検討する現役教員、教員不足対策を議論する関係者、そして「教員のキャリア」をテーマに発信するメディアの皆さまに、本調査が議論の前提となるデータとして活用されることを願っています。
Re-Careerでは、退職を考える教員も、続けたい教員も、別の働き方を模索する教員も、すべての方のキャリアに伴走します。
