教員から大学教員になるには|小中高の現職から進む3ルートと実務家教員の条件【元教員が解説】

「このまま定年まで教壇に立ち続けるのだろうか」と考えたとき、大学で教えるという選択肢が頭をよぎったことはありませんか。

教員から大学教員へ。この道について調べようとすると、出てくるのは個人ブログの体験記か、知恵袋の断片的な回答か、あるいは高校生向けの「大学教授になるには」というページばかりです。

新川紗世 Re-Career代表

この記事の著者

新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役

公立中学校で11年、私立高校で1年、あわせて12年、英語教員として勤務。教員時代に病休を経験し退職。その後、教員専門のキャリア支援会社を設立。著書『「やめたいかも」と一度でも思ったら読む 教員の転職思考法』。スタッフ全員が元教員のキャリア支援会社を率い、自身も延べ1,000名以上のキャリア支援に携わる。

現職の小中高の教員が、いま何を持っていて、何が足りなくて、辞めずにどこまで近づけるのか。それを制度の側から整理した情報は、ほとんど見当たりません。

私は元公立中学校の英語教員で、いまは教員専門のキャリア支援をしています。相談の場でも「大学で教えたい」という言葉は、年に何度も聞きます。ただ、その多くは「憧れ」と「制度」の距離が測れないまま止まっている状態です。

この記事では、文部科学省と総務省が公表している一次データをもとに、教員から大学教員に至る3つのルートと、その条件・費用・現実的な難易度を整理します。

そして最後に、「大学教員を目指さない」という選択についても同じ分量で書きます。辞めるが正解じゃない、というのがRe-Careerの立場だからです。

⏱️ 30秒でわかる結論

教員から大学教員になる道は、ルートによって難易度がまったく違います。

3つのルート①実務家教員(実践経験で入る) ②研究者ルート(学位と業績で入る) ③大学職員・非常勤から接点を作る

実務家教員教職大学院で教員が実務家教員になるには「概ね20年程度の経験」が目安。「実務を離れて5〜10年以内」は元実務家(すでに大学教員になっている人)の場合の目安

学ぶ入口は広い令和7年度の教職大学院は充足率85.3%。現職教員は受験878人に対し合格868人

辞めずに進める大学院修学休業なら身分を保ったまま最長3年。ただし無給で、共済掛金は自己負担

お金の現実国立の教職大学院2年で学費1,353,600円。無給で行くなら機会費用が別に約989万円

目指さない選択大学職員・大学の非常勤講師・教育産業も「大学に関わる」正当な着地点

教員から大学教員になるのは、本当に「狭き門」なのか

大学教員への道を選ぶ分かれ道のイメージ

結論から書きます。「狭き門」かどうかは、どのルートを通るかで正反対になります。

まず、学ぶ側の入口は、思っているより広く開いています。文部科学省が公表した「令和7年度国私立教職大学院入学者選抜実施状況の概要」によると、全国54校の教職大学院の入学定員は2,544人。これに対して志願者は2,670人。実際の入学者は2,169人で、入学定員充足率は85.3%(入学者2,169人÷入学定員2,544人)でした。定員を下回っている、というのが全国の実情です。

さらに、現職教員に絞ると数字はもっとはっきりします。

令和7年度 教職大学院(現職教員学生) 人数
志願者 883人
受験者 878人
合格者 868人
入学者 842人

受験878人に対して合格868人。受験した現職教員のほとんどが合格しています。(出典:文部科学省「令和7年度国私立教職大学院入学者選抜実施状況の概要」

ただし、この数字の読み方には注意が必要です。教育委員会の推薦や派遣が前提になっているケースが多く、受験にたどり着く前の段階で絞られているからです。「誰でも受かる」ではなく「校内・教委の内諾が取れれば、そこから先は通りやすい」と読むのが正確だと思います。

一方で、出口は明確に狭い

問題は、学んだあとです。大学の教員ポストは基本的に公募で、しかも実務家教員として採用されるための条件は、文部科学省の中央教育審議会がまとめた資料「教職大学院における『実務家教員』の在り方について」にはっきり書かれています。

教職大学院の実務家教員について、教員の場合は「概ね20年程度の経験が必要である」とされています。

ここで注意したいのが、同じ資料にある「実務を離れてから5〜10年以内であることが標準である」という一文です。これは「現在、大学の専任教員等となっているいわゆる『元実務家』の場合」という限定つきで書かれています。つまり、すでに大学の専任教員等になっている人を実務家教員として認定するときの目安であって、これから大学教員を目指す現職教員に当てはまる条件ではありません。現職の方が見るべき数字は、あくまで「概ね20年程度」のほうです。

(出典:文部科学省 中央教育審議会答申「今後の教員養成・免許制度の在り方について」参考資料「1.教職大学院における『実務家教員』の在り方について」

つまり、入口(学ぶこと)は40代でも50代でも開いているのに、出口(採用されること)はキャリアの終盤に集中しているという構造です。ここを取り違えたまま「まず大学院に行こう」と動くと、時間とお金の使い方を間違えます。

この記事で最初に確認してほしいこと

  • いま何年目か(実務家教員の標準は概ね20年。20代・30代は「今すぐ」の話ではありません)
  • 辞めずに進めるか(大学院修学休業・教育委員会の派遣という制度があります)
  • 研究業績として残せるものが手元にあるか(紀要・学会発表・研究指定校の報告書)
  • 大学教員でなければ叶わない望みなのか(大学職員・非常勤講師でも「大学に関わる」ことはできます)

順番を間違えないでください。「大学院に行くか」より前に決めるべきことがあります。

教員から大学教員になる3つのルート

大学教員になる3つのルートを示す図

教員から大学教員に至る道は、大きく3つに分かれます。それぞれ入口も、必要な準備も、現実的な年齢帯も違います。

ルート 入口 主に求められるもの 現実的な年齢帯
① 実務家教員 教職大学院・専門職大学・教員養成系学部の公募 長い実践経験と、それを裏づける実践研究の記録 40代後半〜50代が中心
② 研究者ルート 大学院(修士・博士)→ 一般公募 学位と査読論文などの研究業績 20代〜40代前半で始める必要がある
③ 接点を作るルート 大学職員・大学の非常勤講師・附属校・教育センター 大学の内側に身を置き、実績と人脈を作ること 全年代

ルート①:実務家教員(現職教員にとって最も現実的)

実務家教員とは、企業や学校現場での実務経験を活かして大学で教える教員のことです。教員のキャリアがそのまま資格要件になる唯一のルートで、小中高の教員にとっては本命と言っていいと思います。

ただし前述のとおり、教職大学院では「概ね20年程度」が基本です。ただし、校長・教頭等の管理職や指導主事の経験はその年数を教諭等の経験よりも長く評価するとされており、合計が20年程度に達していなくても実務家教員として認められる場合があります(次章で詳しく書きます)。

ルート②:研究者ルート(早く始めた人だけが通れる)

修士・博士の学位を取り、査読付き論文などの研究業績を積んで一般公募に応募する道です。正攻法ですが、時間の総量が大きいのが難点です。働きながら博士課程に進む方もいますが、部活動の主顧問や校務分掌を抱えたままでは、現実的に厳しい年が続きます。

40代後半からこのルートを目指すのは、私はあまりおすすめしていません。ルート①の方が、これまで積み上げてきたものがそのまま効くからです。

ルート③:接点を作るルート(遠回りに見えて堅実)

いきなり専任の大学教員を目指すのではなく、まず大学の内側に入る道です。大学職員として働く、大学の非常勤講師として1コマ担当する、附属学校や教育センターに異動する。

大学職員については教員から大学職員への転職|仕事内容・年収・応募方法で詳しく書いています。大学の非常勤講師と収入の組み立て方は教員の非常勤講師×副業という新しい働き方が参考になります。

このルートの利点は、辞めるか続けるかの二択にならないことです。大学に関わりながら、次の一手を選べます。

実務家教員の条件|「おおむね5年」と「概ね20年」の差

実務家教員の要件を調べる本と資料

「博士号がないから無理」と思い込んでいる方が多いのですが、これは正確ではありません。

大学設置基準は、博士号を必須にしていない

大学教員の資格を定めているのは、文部科学省令である大学設置基準です。教授になれる人の要件として、博士の学位を有し研究上の業績がある者、専門職学位を有し実務上の業績がある者などと並んで、こう書かれています。

「専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有すると認められる者」
——大学設置基準「教授の資格」より

准教授についても同様に「専攻分野について、優れた知識及び経験を有すると認められる者」という規定があります。つまり学位ではなく、知識と経験で資格を満たす道が制度上きちんと用意されているということです。実務家教員という考え方は、ここに根拠があります。

「おおむね5年」と「概ね20年」の関係を整理します

実務経験の年数について、2つの数字が出てきて混乱しやすいので整理します。

区分 実務経験の目安 実務家教員の比率 根拠(法令・資料)
専門職大学(学部) おおむね5年以上 必要基幹教員数のおおむね4割以上 専門職大学設置基準 第35条第1項
専門職大学院(比率は教職大学院を除く) おおむね5年以上 専任教員のおおむね3割以上 平成15年文部科学省告示第53号 第2条
教職大学院(教員の場合) 概ね20年程度
(「実務を離れて5〜10年以内」は元実務家の場合の目安)
専任教員のうち4割以上 中央教育審議会の参考資料/文部科学省「教職大学院の教員組織編制等に関する留意事項について(別紙)」

「おおむね5年以上」は制度全体の下限です。一方、教職大学院で教員出身者が実務家教員になる場合は、「概ね20年程度」が基本になります。比率も、専門職大学院は専任教員のおおむね3割以上ですが、教職大学院だけは4割以上と一段高く設定されています。

ただし、20年という線が例外なく適用されるわけではありません。文部科学省の「教職大学院の教員組織編制等に関する留意事項について(別紙)」には、例外が2つ明記されています。

ひとつは、校長・教頭等の管理職や指導主事の経験がある場合です。その年数を教諭等の経験よりも長く評価するため、大学教員としてふさわしい資質能力を有すると認められる場合には、教職経験の年数の合計がおおむね20年程度に達していなくても実務家教員として認められるとされています。

もうひとつは、いわゆる「元実務家」の大学教員等で十分な研究業績がある者を教職大学院の実務家教員として採用する場合です。このときは文部科学省告示第53号第2条第1項により、実務経験はおおむね5年以上でよいとされています。

(出典:専門職大学設置基準第35条/専門職大学院に関し必要な事項について定める件(平成15年文部科学省告示第53号)第2条/文部科学省 中央教育審議会「教職大学院における『実務家教員』の在り方について」/文部科学省「教職大学院の教員組織編制等に関する留意事項について(別紙)」

整理すると、教職大学院の実務家教員は「概ね20年程度」が基本。ただし歩んできた経歴によって評価のされ方が変わる、というのが正確な理解です。「5年あればいいのか」とだけ受け取ってしまうと、計画が狂います。

「みなし専任教員」という入り方もある

専門職大学設置基準の第35条第3項には、実務家に求められる「おおむね4割」の半数までは、基幹教員でなくても1年につき6単位以上の授業科目を担当し、教育課程の編成など学部の運営に責任を持つ人で足りる、という規定があります。文部科学省の資料では、この枠が「みなし専任教員」と呼ばれてきました。

フルタイムの専任ポストだけが大学教員ではない、ということです。現職を続けながら、あるいは別の仕事をしながら、大学に関わる形も制度上は存在します。

「大学で教えたいとは思うけど、いま管理職の話も来ていて、どっちを取るのが正解なのか分からないんです」
——52歳・公立中学校教諭・男性

教職大学院の現実|54校・充足率85.3%・現職教員842人

教職大学院の統計データのイメージ

実務家教員を目指すにせよ、専修免許状を取るにせよ、多くの現職教員にとって最初の具体的な一歩は教職大学院です。ここの実像を数字で押さえておきます。

全国54校。国立47・私立7

文部科学省の「令和8年度国私立教職大学院一覧」によると、教職大学院は全国54大学(国立47大学・私立7大学)に設置されています。入学定員は国立が2,339人、私立が205人、合計2,544人です。

入学定員の多い順に見ると、東京学芸大学(210人)、上越教育大学(190人)、鳴門教育大学(180人)、兵庫教育大学(155人)、大阪教育大学の連合教職実践研究科(150人)など、教員養成系の大学が大きな定員を持っています。公立大学への設置例はありません。

制度の基本

教職大学院のしくみ(文部科学省)

  • 標準修業年限:2年。ただし各大学院の判断で短期履修コース(例:1年)や長期在学コース(例:3年)の開設も可能
  • 修了要件:2年以上在学し、45単位以上を修得。うち10単位以上は学校における実習が義務
  • 取得できる学位:教職修士(専門職)
  • 専任教員の4割以上が、教職等としての実践経験を有する実務家教員

短期履修コースや長期在学コースの有無は大学ごとに違います。志望校の募集要項で必ず確認してください。

専修免許状も同時に視野に入る

教職大学院や一般の大学院に進むと、専修免許状の取得が視野に入ります。ここは誤解の多いところなので、先に整理しておきます。専修免許状の取り方は2つあり、現職の先生が使うほうは修士の学位を必要としません。

取り方 必要になるもの 大学院等で修得する単位 主に使う人
別表第1のルート 修士の学位 24単位(専修83単位と一種59単位の差。小・中・高の教諭の場合) 教職経験がなくても取れる
別表第3のルート 同じ学校種の一種免許状+在職3年以上(良好な成績で勤務した旨の証明) 15単位 現職の教員。修士の学位は不要

ひとつ目は、教育職員免許法の別表第1によるルートです。修士の学位を得たうえで、小学校・中学校・高等学校いずれの教諭も83単位を満たします。一種免許状の59単位との差にあたる24単位は、大学院の課程または大学の専攻科の課程で修得すると同表の備考に定められています。教職経験がなくても取れるのが、こちらのルートです。

ふたつ目は、同じ法律の別表第3によるルートです。一種免許状を取ったあとに3年以上在職し、大学院の課程(または短期大学を除く大学の専攻科の課程)で15単位を修得します。幼稚園・小学校・中学校・高等学校のどれも「最低在職年数3年・最低単位数15単位」で、数字は同じです。修士の学位は要りません。現職の先生が実際に使うのは、ほとんどがこちらだと思います。なお、基礎にするのが一種免許状ではなく特別免許状の場合は、在職3年は同じでも必要な単位数が変わります(中学校・高等学校は25単位、小学校は41単位)。

ただし在職年数は、席があればよいというものではありません。別表第3は「良好な成績で勤務した旨の実務証明責任者の証明」を求めていて、証明するのは国公立の教員なら所轄庁、私立の教員ならその学校法人等の理事長と定められています。また中学校・高等学校の免許状は教科ごとに授与されます(同法第4条第5項)。どの免許状を基礎にできるのか、どの科目の単位が認められるのかは、志望する大学院と、免許状を出す都道府県教育委員会の両方に必ず確認してください。

この違いは、お金の判断に直結します。15単位で足りる人と、修士の学位まで取りにいく人とでは、かかる時間もお金もまったく変わります。次の章で計算しますが、無給で2年休めば1,100万円規模の負担になります。「自分はどちらのルートなのか」を先に確かめてから、何年休むかを決めてください。

(出典:教育職員免許法別表第1・別表第3・第4条第5項/e-Gov法令検索)

専修免許状そのものが大学教員への直通切符になるわけではありませんが、後述する大学院修学休業制度を使うためには「専修免許状を取得するため」という目的が制度上の要件になっています。同じ条文は、基礎となる一種免許状(または特別免許状)を持っていることと、別表第3などに定める最低在職年数を満たしていることも、あわせて求めています(教育公務員特例法第26条第1項第2号・第3号)。大学院修学休業という制度そのものが、ふたつ目のルートを前提に組み立てられているということです。ここは繋がっている話です。

入学者の内訳は、現職教員842人・学部新卒等1,327人

令和7年度の入学者2,169人のうち、現職教員学生は842人でした。前年度比31人減です。現職教員が4割弱を占めているのが教職大学院の特徴で、一般の大学院とは学生の顔ぶれがかなり違います。

同世代の現職教員と2年間机を並べることになるので、学位や資格以上に、校種と自治体を越えた横のつながりが残るという声はよく聞きます。

「大学院に行った同期が、県外の先生たちと今でもやり取りしていて。あの2年で世界が変わったと言っていました」
——39歳・公立小学校教諭・女性

辞めずに進む|大学院修学休業という制度

在職のまま大学院で学ぶ教員のイメージ

ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。大学を目指すために、いま辞める必要はありません。

大学院修学休業制度とは

大学院修学休業は、教育公務員特例法に基づく制度で、平成13年度から始まっています。教員の身分を保有したまま、大学院にフルタイムで在学できるのが最大の特徴です。

大学院修学休業制度の要点(文部科学省)

  • 対象:公立の小学校等の主幹教諭・指導教諭・主務教諭・教諭・養護教諭・栄養教諭・講師など(主務教諭は2026年4月1日から条文に加わった職です)で、取得しようとする専修免許状の基礎となる免許状(教諭・講師は一種免許状または特別免許状、養護教諭・栄養教諭は一種免許状)を有する者
  • 目的:専修免許状を取得するため、国内外の大学院の課程を履修すること
  • 期間:1年を単位とする、3年を超えない期間(1年・2年・3年のいずれか)
  • 身分:身分は保有するが、職務には従事しない
  • 給与:ノーワーク・ノーペイの原則により、期末・勤勉手当等の諸手当を含め支給されない
  • 許可:任命権者(教育委員会)の許可が必要

文部科学省のQ&Aでは、対象要件として「3年以上の在職年数があること」「初任者研修中でないこと」も示されています。

見落とされがちな3つの落とし穴

制度の説明では明るい面ばかりが語られますが、実務上、必ず確認しておくべき点があります。

1つ目は、共済です。文部科学省のQ&Aには「休業期間中も共済組合員資格は存続します。ただし、免除制度はございませんので、共済掛金は支払っていただく必要があります」と明記されています。給与はゼロなのに、共済掛金の支払いは続くということです。ここは家計の設計に直結します。

2つ目は、延長ができないことです。Q&Aでは「休業期間の延長はできません。ただし、再度、休業許可の申請をして許可を受けた場合には、引き続いて休業することはあり得ます」とされています。最初に何年で申請するかを、慎重に決める必要があります。

3つ目は、私立学校の教員は対象外だということです。この制度は公立学校の教員のための制度です。私立にお勤めの方は、勤務先の規程を個別に確認するしかありません。

先に確認すべきは「教育委員会の派遣枠」

大学院修学休業を検討する前に、必ず調べてほしいのが教育委員会による大学院派遣です。教職大学院に入学する現職教員842人のなかにも、この派遣枠を使って進学する方が少なくありません。

派遣中の給与や身分の扱いは自治体によって異なりますので、全国共通のルールとしてお伝えすることはできません。ただ、条件が大きく変わる可能性がある以上、最初に所属の教育委員会に確認するのが順序として正しいと思います。

休職や休業の制度全般については教員の休職制度を徹底解説|休職中にできるキャリアの見直し方にまとめています。学び直しにかかるお金と公的支援については教員の学び直し完全ガイド|教育訓練給付金が使えない理由をあわせて読んでください。公立教員が教育訓練給付金を使えない理由も、そちらで説明しています。

お金の話|無給2年で失うもの、学費で払うもの

大学院進学にかかる費用と年収の比較

精神論を語っても意味がないので、数字を出します。

いま受け取っているものの実額

総務省の「令和6年地方公務員給与実態調査」によると、教育職の平均は次のとおりです。

職種区分 平均年齢 平均給料月額 諸手当月額 平均給与月額
小・中学校教育職 41.5歳 353,632円 58,333円 411,965円
高等学校教育職 44.7歳 370,300円 62,841円 433,141円

※「小・中学校教育職」には幼稚園の教員を、「高等学校教育職」には特別支援学校・専修学校等の教員を含みます。平均給料月額には教職調整額が含まれます。(出典:総務省「令和6年地方公務員給与実態調査結果等の概要」第9表)

国立の教職大学院に2年通う場合の学費

国立大学の入学料と授業料は文部科学省令で標準額が定められていて、2026年9月時点の標準額は入学料282,000円、授業料は年額535,800円です。特別の事情があるときは、標準額の20%増を上限に各大学が独自に決められます(実際に値上げした大学もあります)。

費目 金額 計算根拠
入学料 282,000円 省令の標準額
授業料(2年分) 1,071,600円 535,800円 × 2年
学費 合計 1,353,600円 標準額で計算した場合

無給で行く場合、本当のコストはここから

大学院修学休業は無給です。仮に小・中学校教育職の平均給与月額411,965円で2年間休業したとすると、月例給ベースで約989万円(411,965円×24か月=9,887,160円)を受け取らない計算になります。期末・勤勉手当も支給されませんから、実際の減少額はこれを上回ります。

学費1,353,600円と合わせると、2年間で1,100万円を超える判断になる、ということです。

この数字を見て怖くなった方に、私が必ず伝えているのは「だからやめましょう」ではありません。「だから派遣枠から調べましょう」です。教育委員会の派遣で行けるなら、前提がまるごと変わります。

お金の面で、先に手をつける順番

  • ①所属の教育委員会の大学院派遣制度を調べる(募集時期・条件・給与の扱い)
  • ②長期在学コース(例:3年)や夜間・土日開講の有無を志望校に確認する(働きながら通えるなら休業自体が不要)
  • ③それでも休業が必要なら、1年で足りないかを検討する(短期履修コースがある大学院もあります)
  • ④共済掛金・住宅ローン・子どもの学費を並べて、家計の耐久月数を出す

いきなり退職して進学する、という選択は、私は最後の手段だと思っています。

「お金の話をしたら、妻に「その1,000万円は誰が出すの」と言われて、そこで止まってしまいました」
——46歳・公立高校教諭・男性

公募で実際に見られるもの|「実践」を「業績」に翻訳する

大学教員公募の応募書類を準備するイメージ

大学のポストは、原則として公募です。JREC-IN Portal(研究者人材データベース)が公募情報の主戦場で、大学教員の求人はここに集まります。

公募で提出するもの

大学によって差はありますが、一般的に求められるのは次のような書類です。

書類 中身 教員が苦戦しやすい点
履歴書 学歴・職歴・学位・免許 ここは問題なく書ける
教育研究業績書 著書・論文・学会発表・その他の教育活動 ここが空欄になりやすい
主要業績の写し 論文の別刷やPDF 「提出できるもの」が手元にない
教育・研究に関する抱負 着任後に何をするか 実践の話に終始してしまいがち

教員の「実践」は、業績欄に書ける形になっていない

ここが最大の壁です。20年間、毎年授業改善を重ねてきた先生でも、教育研究業績書に書ける項目がゼロ、ということが本当によく起きます。

実践そのものがないのではありません。実践が、外から参照できる形で残っていないだけです。

「残る形」に変えるためにできること

実践を業績に翻訳する具体的な手段

  • 研究紀要に書く:所属校・教育センター・教育研究会の紀要は、公刊物として業績欄に書けます
  • 学会で発表する:日本教育学会や各教科教育の学会は、現職教員の発表を受け入れています(日本教育学会は入会金3,000円・年会費10,000円で、入会に正会員1名の推薦が必要。2026年9月時点)
  • 研究指定校の報告書を担当する:文科省・教委の研究指定は、成果物が公式に残ります
  • 公開研究会の授業者・提案者を引き受ける:指導案と提案文書が記録に残ります
  • 教育雑誌・実践誌に寄稿する:商業誌の記事も、その他の業績として記載できます

いずれも「大学教員になるため」に始めなくて構いません。校内で頼まれたときに断らない、というだけでも積み上がります。

業績が公式に残りやすいポジション

異動の希望を出せる立場なら、国立大学の附属学校、教育センターの研究員、教育委員会の指導主事は、実践研究の成果が公的な文書として残りやすいポジションです。大学の教員と共同で研究を進める機会も多くなります。

ただし、これらのポジションを経験した人が大学教員になる「割合」を示した統計は存在しません。確率の話としてお伝えすることはできませんので、あくまで業績が残りやすい環境であるという事実としてお読みください。

任期のことも、正直に書いておきます

大学教員は安定の上位互換ではありません。特に実務家教員の入口となる特任教授・特任准教授・特任講師といったポストは、任期付きであることが少なくありません

公立学校の教員が持っている身分の安定は、外から見ると相当に強いものです。それを手放して任期付きのポストに移るかどうかは、年齢と家族構成によって答えが変わります。「大学教員になれる」と「大学教員になったほうがいい」は、別の問いです。

「大学教員を目指さない」という選択も、同じくらい正当です

大学教員以外の選択肢を並べて考えるイメージ

ここまで書いてきて、こう感じた方もいると思います。「20年の経験が要る」「無給で1,000万円」「しかも任期付き」——それなら、自分には無理じゃないか、と。

そこで立ち止まってほしいので、逆から聞きます。あなたが本当に欲しいのは「大学教員」という肩書きでしょうか。

相談の場で掘り下げていくと、望みの中身は大きく3つに分かれます。

本当の望み 大学教員以外の叶え方 関連記事
大人に教えたい 大学の非常勤講師(1コマから可能)/企業研修/教員研修の講師 非常勤講師×副業
教育に関わり続けたいが、学級担任は限界 大学職員/教育産業/塾・予備校/EdTech 教員から大学職員へ
自分の実践を言語化して残したい 教職大学院で学ぶ(大学教員にならなくてもよい)/執筆・登壇 教員の学び直し

大学職員という現実的な着地点

大学に関わりたいという望みに対して、いちばん現実的な答えは大学職員です。教員の経験が高校とのつながり(入試広報)、学生対応、教務の実務でそのまま評価されます。詳しくは教員から大学職員への転職|仕事内容・年収・応募方法を徹底解説をご覧ください。

「教え続けたい」なら、教育産業も選択肢に入る

教えること自体を続けたい方には、塾・予備校という道もあります。教員から塾・予備校講師への転職|教え続けたい人の選択肢で、給与の構造や向き不向きを整理しています。

その他の職種を広く見たい方は教員・教師からの転職先おすすめ15選、実際に辞めた人がどうなったかを知りたい方は教員を辞めた後の進路はどうなるか【独自調査】が参考になると思います。

そして「続ける」も、同じ列に並べてください

大学院で学び、専修免許状を取り、それでも教壇に立ち続けるという選択があります。むしろ教職大学院は、文部科学省の「教職大学院:制度の概要について」で中核的・指導的な教員の養成・研修の場と位置づけられています。学校現場で指導的な役割を担う人を育てる場だ、ということです。

大学教員になるための踏み台として教職大学院を見ると、この本来の価値を見落とします。辞めるが正解じゃない。選択肢を持つことが正解です。

「結局、大学には行かなかったんですけど、調べた2か月で「自分は教えるのが好きなんじゃなくて、人が変わる瞬間が好きなんだ」と分かりました」
——43歳・公立小学校教諭・女性

相談の場で、実際に起きていること

キャリア相談で話を聞く場面

最後に、相談の現場で実際にどんなことが起きているかを書きます。

先にお断りしておきます。Re-Careerには、大学教員になった相談者の実績記録はありません。ですから「うちの受講生が大学教授になりました」という話は書きません。ここで紹介するのは、小中高の教員が「大学で教えたい」と考えたときに、実際にどう意思決定したかという話です。

Aさん(40代後半・公立中学校教諭)の場合

教科の研究会で長く中心を担ってきた方でした。「そろそろ大学で教えたい」と相談に来られたので、まず一緒に条件を調べました。

分かったのは、教職大学院の実務家教員は概ね20年程度が標準で、Aさんはその条件を満たしていること。一方で、教育研究業績書に書けるものが紀要の実践報告1本しかなかったことでした。

Aさんが出した結論は「あと3年、業績を作る」でした。研究会での提案を紀要にまとめ、学会発表に出す。大学院は、教育委員会の派遣枠の募集時期を待つ。いま辞めるという選択肢は、この時点で消えました。

Bさん(30代前半・公立小学校教諭)の場合

「教員に向いていない気がする。大学院に行って研究者になりたい」という相談でした。話を聞いていくと、大学院に行きたいというより、いまの職場から離れたいという気持ちが先にあることが見えてきました。

Bさんには、大学院の学費と無給期間の数字をそのままお見せしました。1,100万円を超える判断だと知って、Bさんはこう言いました。「それは、逃げ場としては高すぎますね」。

その後Bさんが選んだのは、まず異動希望を出すことと、休職制度を調べることでした。大学院は、状態が落ち着いてからもう一度考えるという順番になりました。

私自身の話

私は公立中学校で11年、その後私立高校で1年、英語を教えていました。教員時代、大学院に派遣された先輩が戻ってきたときのことを、いまでもよく覚えています。授業の組み立て方が明らかに変わっていて、職員室での言葉の選び方まで違っていました。

正直に言えば、当時の私は「羨ましい」としか思えませんでした。制度があることも、申請の時期があることも、知らなかったからです。知らないというだけで、選択肢は存在しないのと同じになります。

いまキャリア支援をしていて痛感するのは、先生方が制度を知る機会が本当に少ないということです。この記事が、その一つになればいいと思っています。

「大学院に行きたいと管理職に言ったら、そんな制度あったっけ、と言われたのが一番こたえました」
——35歳・公立中学校教諭・女性

よくある質問

Q. 博士号がなくても大学教員になれますか?

A. 制度上は可能です。大学設置基準の「教授の資格」には、博士の学位を有する者などと並んで「専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有すると認められる者」という規定があります。実務家教員はこの規定に基づく採用です。ただし、一般の研究者ポストの公募では博士号が事実上の要件になっていることが多く、ルートによって前提が変わります。

Q. 何年目から実務家教員を目指せますか?

A. 文部科学省の中央教育審議会の資料「教職大学院における『実務家教員』の在り方について」では、教職大学院の実務家教員について、教員の場合は「概ね20年程度の経験が必要である」とされています。ただし文部科学省「教職大学院の教員組織編制等に関する留意事項について(別紙)」では、校長・教頭等の管理職や指導主事の経験がある場合はその年数を教諭等の経験よりも長く評価するため、教職経験の年数の合計がおおむね20年程度に達していなくても実務家教員として認められる、とされています。なお、同じ中央教育審議会の資料にある「実務を離れてから5〜10年以内」は、「現在、大学の専任教員等となっているいわゆる『元実務家』の場合」の目安であって、これから目指す現職教員の条件ではありません。専門職大学など教職大学院以外では「おおむね5年以上」が下限です。20代・30代の方は、いま急いで動くというより、業績が残る形で実践を積んでいく時期だと考えるのが現実的だと思います。

Q. 大学院修学休業中の給与はどうなりますか?

A. 支給されません。文部科学省のQ&Aでは「ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、期末・勤勉手当等の諸手当を含め、給与は支給されません」と明記されています。加えて、共済組合員資格は存続しますが免除制度がないため、共済掛金は自己負担で支払い続ける必要があります。休業期間の延長もできません(再度申請して許可を受ければ継続はあり得ます)。

Q. 私立学校の教員でも大学院修学休業は使えますか?

A. 使えません。大学院修学休業は教育公務員特例法に基づく制度で、対象は公立の小学校等の主幹教諭・指導教諭・主務教諭・教諭・養護教諭・栄養教諭・講師などで、主務教諭は2026年4月1日から条文に加わった職です。私立学校にお勤めの場合は、勤務先の就業規則や独自の研修制度を個別に確認していただくことになります。

Q. 教職大学院に入るのは難しいですか?

A. 令和7年度の入学定員充足率は全国54校で85.3%、現職教員学生は受験878人に対して合格868人でした。数字だけ見れば通りやすい状況です。ただし、教育委員会の推薦や派遣が前提になっているケースが多く、受験にたどり着く前の段階で調整が必要になります。まずは所属の教育委員会の派遣制度から確認するのが順序として正しいと思います。

Q. 教職大学院に行けば大学教員になれますか?

A. なれるとは限りません。教職大学院の設置目的は、新人教員の養成と、学校現場のスクールリーダーの育成です。修了しても、大学教員のポストは別途、公募で獲得する必要があります。学位や免許より、教育研究業績書に書ける実績があるかどうかが問われます。大学院進学は「大学教員になるための必要条件の一部」であって、十分条件ではありません。

Q. 大学教員より大学職員のほうが現実的でしょうか?

A. 「大学に関わりたい」という望みであれば、大学職員のほうが道は開けています。教員経験が入試広報・学生対応・教務でそのまま評価されますし、任期のないポストも多くあります。ただし仕事の中身はまったく違うので、教えることそのものを続けたいのか、大学という場に関わりたいのかを分けて考えてみてください。

まとめ

  • 教員から大学教員へのルートは3つ。実務家教員・研究者ルート・接点を作るルートで、難易度も年齢帯もまったく違う
  • 博士号は必須ではない。大学設置基準には「専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有すると認められる者」という規定がある
  • 教職大学院の実務家教員は「概ね20年程度」の教職経験が基本。ただし管理職・指導主事の経験は教諭等より長く評価され、合計が20年程度に達していなくても認められる場合がある。なお「実務を離れて5〜10年以内」は元実務家(すでに大学教員になっている人)の場合の目安で、現職教員の条件ではない。それでも出口がキャリア終盤に寄っていることは変わらない
  • 学ぶ入口は広い。令和7年度の教職大学院は全国54校・充足率85.3%、現職教員は受験878人に対し合格868人
  • 辞めなくても進める。大学院修学休業なら身分を保ったまま最長3年。ただし無給で、共済掛金は自己負担、延長は不可、私立は対象外
  • お金は先に見る。国立の教職大学院2年で学費1,353,600円、無給で行くなら機会費用が別に約989万円
  • いちばん先に調べるのは、所属教育委員会の大学院派遣制度。前提が丸ごと変わる可能性がある
  • 公募で効くのは実践そのものではなく、紀要・学会発表・研究指定校の報告書という「残る形」
  • 大学教員は安定の上位互換ではない。実務家教員の入口となる特任ポストは任期付きのことが少なくない
  • 大学職員・大学の非常勤講師・教育産業も「大学に関わる」正当な着地点。そして続けるという選択も、同じ列に並べていい




Re-Career代表 新川紗世
元教員が運営するキャリア支援

お金もキャリアも、自分で選ぶ。
そのために、選択肢を一緒に見ていきませんか?

Re-Careerは元教員が立ち上げた、教員専門のキャリア支援サービスです。
「辞める/続ける/変える」どの選択でも、お金とキャリアの両面で伴走します。