教員の学び直し完全ガイド|教育訓練給付金が使えない理由と在職中・退職後の選択肢
この記事の著者
新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役
元公立中学校英語教員(10年以上)。教員時代に感じた「このままでいいのか」という想いを原点に、教員専門のキャリア支援会社を設立。延べ500名以上の教員のキャリア相談に対応。
「リスキリング」「学び直し」が時代のキーワードになっています。教員の世界でも、教職大学院、民間講座、オンライン学習など選択肢は確実に広がっています。
でも、Re-Careerに寄せられる相談を聞いていて気になるのが、「制度を知っているのに、使える条件は知らない」というケース。特に「教育訓練給付金」は、ネット記事やSNSで頻繁に紹介される一方、公立教員は在職中対象外という重要な事実を知らない方がとても多い。
この記事では、教員の学び直しの選択肢を網羅しつつ、教育訓練給付金の正しい使い方を、元教員+キャリア支援者の視点でお伝えします。「制度を知る」と「使える条件を知る」はセット。これを押さえれば、在職中・退職後どちらの選択でも、自分の学び直しを正しく設計できます。
「リスキリング講座を見つけて「給付金で70%オフ」と書いてあったので申し込もうとしたら、「公立教員は対象外です」と言われて唖然。誰も教えてくれない情報って多いんだなと痛感しました。」
——30代・公立中学校教員
教員の学び直しが今、注目される理由
教員免許更新制廃止と研修体系の見直し
2022年7月に教員免許更新制が廃止され、教員の学びは「定期更新」から「主体的・継続的なリスキリング」へとパラダイムシフトしています。文部科学省は新たな研修体系を整備し、オンライン研修の拡大、研修履歴管理など、教員一人ひとりが自分のキャリアに合わせて学べる環境づくりを進めています。
キャリアの選択肢を広げる手段としての学び直し
教員のキャリアは、もはや「定年まで同じ学校で働き続ける」だけの時代じゃありません。校種異動、教育委員会への出向、教育系企業への転職、独立——選択肢を持つこと自体がキャリアの安定になります。
学び直しは、その選択肢を増やすための具体的な手段。「いま、何を学ぶか」が、5年後・10年後の自分の選択肢を決めます。
AI時代に求められる学習の継続
生成AIの台頭で、知識の習得スピードや情報の更新サイクルが加速しています。教員に求められる役割も変わりつつあり、「教える人」から「学び続ける人」への転換が必須に。学び直しは、もはや「したい人だけがするもの」じゃなく、すべての教員にとっての必須スキルになりつつあります。
関連記事:教員の仕事はAIに奪われる?|生成AI時代の教員キャリア戦略
教員が選べる学び直しの4つのルート
① 教職大学院(現職保持で在学可能)
教職大学院は、教員としての専門性を深めながら学位(修士)を取得できる、現職教員に最適化された大学院です。
主な特徴:
- 現職を保持したまま在学可能(自治体の派遣制度活用)
- 2年間で修了(短縮プログラムもあり)
- 授業時間が夜間・週末・夏季集中型のところも多い
- 学費は自治体派遣の場合、自治体が一部または全額負担するケースも
主な活用ケース:
- 授業力・教科指導力をさらに磨きたい
- 管理職を目指している
- 研究職・教育委員会での実務に進みたい
- 退職後のセカンドキャリアの準備
② 一般大学院・専門職大学院
教職大学院以外にも、心理学・経営学・データサイエンス・MBAなど、自分の関心領域で学べる大学院が多数あります。夜間や通信課程を活用すれば、現職教員でも在学可能。
例えば、教育のIT化に関心があるなら、教育工学やデータサイエンス系の大学院。スクールカウンセラーや学校心理士を目指すなら、臨床心理学系。教員からマネジメント職への転身を視野に入れるなら、MBA。
③ 民間リスキリング講座
民間のリスキリング講座は、短期間で実務スキルを身につけられるのが魅力。例として:
- プログラミング・Webデザイン・データ分析
- キャリアコンサルタント養成講座
- コーチング・カウンセリング基礎講座
- 日本語教師養成講座
- オンラインビジネス・マーケティング講座
受講期間は数週間〜半年程度。費用は数万円〜数十万円。後述する教育訓練給付金が使えると最大70%オフになりますが、公立教員は在職中は対象外なので注意(詳細は後ほど)。
④ オンライン学習プラットフォーム
UdemyやGoursera、Schooなどのオンライン学習プラットフォームは、自分のペースで好きな分野を学べる手軽な選択肢。費用も1講座1,500円〜と圧倒的に安価です。
学び直しの「お試し」として、まずはオンラインプラットフォームで関心領域を探索する→深めたいテーマがあれば大学院や養成講座に進む、というステップ型もおすすめ。
「まずはUdemyで月1〜2講座から始めました。半年で「これは深めたい」というテーマが見えてきて、夜間大学院に挑戦する決意ができました。」
——40代・小学校教員
【重要】教育訓練給付金が公立教員に使えない理由
「リスキリング講座が最大70%オフ」「資格取得で受講料の50%が戻る」——こうした文言を見たら、それはほぼ間違いなく「教育訓練給付金」のことを指しています。
でも、実は公立教員は在職中、この給付金の対象外です。これは多くの教員が知らない重要な事実。
理由:雇用保険に加入していないから
教育訓練給付金は、雇用保険から支給される制度です。受給するには「雇用保険の被保険者であること」または「過去に被保険者だったこと(退職後一定期間内)」が条件。
地方公務員である公立教員は、雇用保険法の適用除外になっており、雇用保険に加入していません(代わりに地方公務員災害補償基金や共済組合の保障があります)。だから、雇用保険を財源とする教育訓練給付金は使えない、という構造です。
公立教員と私立教員の違い
同じ教員でも、私立学校の教職員は事情が異なります。
私立教員:多くの場合、雇用保険に加入している(学校法人が加入対象事業所のため)。在職中でも、雇用保険加入期間1年以上の条件を満たせば、教育訓練給付金を受給可能。
公立教員:地方公務員のため、雇用保険には加入していない。在職中の教育訓練給付金は使えない。
同じ「教員」でも、勤務先(公立か私立か)によって使える制度が違うのは、知っておかないと損する重要なポイントです。
関連記事:教員は失業保険がもらえない?退職前に知るべき5つの受給制度と転職準備
退職後に教育訓練給付金を使うための条件
「公立教員は教育訓練給付金が使えない」のは、あくまで在職中の話。退職後に民間企業などで雇用保険に加入すれば、条件を満たした時点で受給可能になります。
退職後の雇用保険加入期間が必要(1年以上が原則)
退職後、新しい職場で雇用保険に通算1年以上(一般教育訓練給付金)または2年以上(専門実践教育訓練給付金)加入すれば、給付金の対象になります。
つまり、教員を退職してすぐに「給付金を使ってリスキリング」はできません。退職→民間就職→1〜2年以上勤続→給付金活用という順序になります。
一般教育訓練給付金 vs 専門実践教育訓練給付金
給付金には3種類あり、それぞれ対象講座と給付率が異なります。
一般教育訓練給付金
- 給付率:受講料の20%(上限10万円)
- 必要な雇用保険加入期間:通算1年以上
- 対象講座:日本語教師、簿記、ITスキルなど多数
特定一般教育訓練給付金
- 給付率:受講料の40%(上限20万円)
- 必要な雇用保険加入期間:通算1年以上
- 対象講座:キャリアコンサルタント、宅建士、税理士など
専門実践教育訓練給付金
- 給付率:受講料の50%(上限40万円/年・最大3年)+資格取得で20%追加
- 必要な雇用保険加入期間:通算2年以上
- 対象講座:看護師、保育士、社会福祉士、教職大学院、専門職大学院など
退職後すぐに使える「教育訓練支援給付金」もある
専門実践教育訓練を受講中で、雇用保険から失業手当を受給している45歳未満の方は、受給期間中に追加の給付金がもらえる制度もあります。退職後すぐに本格的なリスキリングをしたい方には朗報です(ただし条件は厳しめ)。
「退職後3年でキャリアコンサルタント養成講座を受けました。給付金で受講料の40%が戻ってきて、退職前に貯めた学び直し用の貯金が大きく助かった。「制度を知っていてよかった」と心から思います。」
——40代・元中学校教員(現在キャリアコンサルタント)
在職中に活用できる公的支援・補助
「在職中は教育訓練給付金が使えないなら、何も使えないの?」——いえ、教員ならではの公的支援は意外と多いです。
自治体・教職員研修センターの研修
各都道府県・政令指定都市の教職員研修センターでは、無料または低額で受講できる研修が多数あります。授業力向上、生徒指導、特別支援教育、ICT活用など、教員のキャリア発達段階に応じた体系的なプログラムが用意されています。
大学院派遣・研修制度
多くの自治体には、現職教員を大学院に派遣する制度があります。長期研修扱いで、給与が支給されながら大学院で学べる手厚い制度。倍率は高めですが、希望者は校長・教育委員会に相談する価値があります。
夏季休業を活用した学習
夏季休業中の自主研修や学会参加は、教員ならではの学び直しチャンス。文科省や自治体主催の研修に応募する、教育系の学会に参加する、自分でテーマを決めて研究する——時間を確保しやすい教員職の特権を活かしましょう。
スカラシップ・奨学金制度
一部の教職大学院や専門職大学院には、現職教員向けのスカラシップ・奨学金制度があります。学費の一部または全額を免除される場合も。各大学院のWebサイトをこまめにチェックする価値あり。
関連記事:教員の休職制度を徹底解説|休職中にできるキャリアの見直し方
退職を視野に入れた学び直し戦略
「いずれ退職するかもしれない」「キャリアチェンジも視野にある」と考えている方には、在職中から計画的に学び直しを進める戦略がおすすめです。
戦略①:在職中は「お金をかけない学び直し」を優先
在職中は教育訓練給付金が使えないため、コストパフォーマンスの高い学習方法を選ぶのが賢明です。
- 無料・低額のオンライン学習(Schoo、YouTube、無料公開講座)
- 自治体・教職員研修センターの無料研修
- 自治体の大学院派遣制度
- 共済組合の福祉事業(一部講座割引あり)
戦略②:退職前に学び直しの方向性を見極める
退職してから「何を学ぼうかな」と考えるのは時間的にも経済的にも非効率。在職中に低コストでテーマを探索し、「退職後はこれを本格的に学ぶ」と決めておくと、退職後の動きがスムーズです。
戦略③:退職後に給付金を活用するタイミングを設計
退職後すぐに学び直したい場合、選択肢は3つ:
- A. すぐにフルタイム民間就職→1年後に給付金活用(経済的に安全)
- B. 失業手当受給中に学習開始(一部講座は失業中でも受給可)
- C. 退職金を学習費用に充てる(給付金なしでも自己投資)
あなたの貯蓄、家族構成、希望キャリアによって最適解は変わります。Re-Careerでは、こうしたお金とキャリアを連動させた相談を多く受けています。
関連記事:40代女性教員のお金とキャリア|貯蓄・投資・働き方の選択肢を完全ガイド
よくある質問(FAQ)
Q. 教員のリスキリングで「これは強い」という講座はありますか?
A. 「強い」かどうかは、その後のキャリア方針次第です。教育系業界に残るなら教職大学院や心理系、IT系業界を目指すならプログラミング・データ分析、独立志向ならキャリアコンサルタント養成講座。講座のブランドより、自分の進みたい方向と合っているかを最優先で判断してください。
Q. 教員を続けながら教職大学院に通うのは現実的ですか?
A. 自治体派遣枠を取れれば「給与もらいながら」現実的です。一方、自費で夜間・週末・通信制に通う場合、仕事と両立は相当大変。Re-Careerの相談者の中にも「最初の1年は本当にきつかった」という声が多いです。家族のサポート、学校の理解、自分の体力——3つが揃わないと続きにくいので、慎重に判断を。
Q. 退職して大学院に通う場合、お金はどう設計すればいい?
A. 専門実践教育訓練給付金の対象になる教職大学院・専門職大学院なら、退職後に民間で2年以上働いてから入学すれば、学費の最大70%(給付金)が戻ります。「すぐに大学院に行きたい」場合は退職金を学費に充てる選択肢も。共済組合の教育貸付(低金利)も活用できます。
まとめ|「制度を知る」と「使える条件を知る」はセットで考える
教員の学び直しは、教職大学院・民間講座・オンライン学習など、選択肢が広がっています。一方で、「教育訓練給付金は公立教員には在職中使えない」という重要な事実は、十分に知られていません。
大切なのは:
- 制度の名前を知るだけじゃなく、使える条件を知る
- 在職中は無料・低額の選択肢でテーマ探索
- 本格的な学び直しは退職後の給付金活用も視野に
- 自分のキャリアの方向性と学び直しを連動させる
「辞めて学ぶ」のも、「続けながら学ぶ」のも、どちらも正解です。大事なのは、自分の選択を支えるお金とキャリアの仕組みを、正しい知識で組み立てること。Re-Careerでは、お金とキャリアの両面相談を多く受けていますので、迷ったときはお気軽にご相談ください。
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