教員から塾・予備校講師への転職|教え続けたい人の選択肢
この記事の著者
新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役
元公立中学校英語教員(10年以上)。教員時代に感じた「このままでいいのか」という想いを原点に、教員専門のキャリア支援会社を設立。延べ500名以上の教員のキャリア相談に対応。
「教員を辞めても、教え続けたい」——そんな想いを持つ先生にとって、塾・予備校講師への転職は自然な選択肢です。教壇での経験を活かしながら、異なる環境で「教える仕事」を続けることができます。
この記事では、教員から塾・予備校講師に転職する際のメリット・デメリット、年収の変化、転職成功のポイントを解説します。
教員と塾講師の違いを理解する

同じ「教える仕事」でも、学校と塾・予備校では求められる役割が大きく異なります。
学校教員と塾講師の比較
- 目的:学校=全人教育 / 塾=成績向上・志望校合格
- 評価基準:学校=多角的 / 塾=生徒の成績・合格実績でダイレクトに評価
- 生徒との関係:学校=担任として深く関わる / 塾=授業中心の関わり
- 業務範囲:学校=授業+生徒指導+校務+部活 / 塾=授業+教材作成が中心
- 勤務時間:学校=朝7時〜夜7時以降 / 塾=午後〜夜が中心
私がキャリア支援をする中で、「授業がしたい、でも生徒指導や事務作業に疲れた」という先生には、塾講師への転職が合っているケースが多いです。
塾業界の種類
- 大手集団塾:河合塾、駿台、東進、SAPIX等。大人数への授業力が求められる
- 個別指導塾:明光義塾、トライ等。一人ひとりに合わせた指導
- 中小規模の地域密着塾:地元に根ざした塾。地域との信頼関係が重要
- オンライン塾:急成長中の分野。在宅ワークが可能な場合も
教員経験が塾で活きる3つの理由

①授業力がそのまま武器になる
学校で30〜40人の生徒を相手に授業をしてきた経験は、集団塾の授業でそのまま活かせます。特に、「飽きさせない授業の工夫」「理解度に応じた説明の使い分け」は、塾業界でも高く評価されるスキルです。
②教材開発力がある
教員時代にオリジナルのプリントやテストを作ってきた経験は、塾の教材開発に直結します。「生徒がつまずきやすいポイント」を熟知していることは、大きなアドバンテージです。
③保護者対応に慣れている
塾でも保護者との面談は重要な業務です。学校での保護者対応経験は、そのまま活かせます。特に、進路相談や学習相談の経験は重宝されます。
「学校では生徒指導や事務作業に追われて、授業準備の時間が取れないことがストレスでした。塾に転職してからは、授業と教材づくりに集中できる環境が嬉しくて、「教えること」の楽しさを改めて実感しています。」
——Aさん(30代・元中学校数学教員→大手集団塾講師)
年収・待遇はどう変わる?

正直にお伝えすると、多くのケースで年収は一時的に下がります。ただし、実力次第で教員時代以上の収入を得ることも可能です。
年収の目安
- 大手予備校(正社員):400〜700万円。人気講師になれば1,000万円超も
- 大手集団塾(正社員):350〜550万円。教室長クラスで500万円前後
- 個別指導塾(正社員):300〜450万円。教室長を目指すのが一般的なキャリアパス
- フリーランス講師:時給3,000〜10,000円。掛け持ちで年収600万円以上も可能
教員経験者は即戦力として採用されやすく、初年度から教員時代と同程度の年収を提示されるケースもあります。ただし、塾業界は実力主義。成果を出せば収入は上がりますが、結果が出なければ据え置きになることもあります。
働き方の違い
塾講師の勤務時間は午後〜夜が中心で、22時まで勤務することも珍しくありません。逆に午前中は自由に使えるため、「朝ゆっくりしたい」という方には合っています。
ただし、夏期講習・冬期講習の時期は非常に忙しく、教員時代以上の長時間労働になることもあります。年間を通じてのワークライフバランスを事前に確認しておきましょう。
「年収は50万円ほど下がりましたが、部活動や生徒指導がなくなった分、精神的な余裕は格段に増えました。何より、純粋に授業に集中できる環境が自分に合っていました。」
——Bさん(40代・元高校英語教員→予備校講師)
転職成功のためのポイント

模擬授業の準備を万全に
塾の採用では、模擬授業が最も重視されます。教員経験があるからといって油断せず、塾の授業スタイルに合わせた準備をしましょう。学校の授業よりもテンポが速く、「分かった!」という実感を生徒に持たせることが求められます。
自分に合った塾のスタイルを見極める
集団授業が得意なのか、個別指導が得意なのかで、選ぶべき塾は変わります。自分の強みを活かせる環境を選ぶことが、長く働くためのポイントです。
塾への転職で注意すべき3つのポイント
教員から塾業界への転職を考える際、事前に確認すべきポイントがあります。
① 雇用形態を確認する
塾業界は正社員だけでなく、契約社員やアルバイト講師の割合が高い業界です。求人情報の雇用形態を必ず確認し、正社員としての採用条件を事前に把握しましょう。
② 残業の実態を聞く
「教員より楽になる」と思って転職したものの、講習期間の長時間労働に苦しむケースがあります。面接時に繁忙期の勤務実態を具体的に質問しましょう。
③ キャリアパスを確認する
塾業界では、講師→教室長→エリアマネージャーというキャリアパスが一般的です。「ずっと教壇に立ちたい」のか「マネジメントにも関わりたい」のか、自分の希望を明確にしておくことが大切です。
教員から塾講師になった人のリアルな声
塾業界に転職した元教員に共通する声を紹介します。
良かった点:「授業に集中できる」「生徒の成績アップが数値で見える達成感」「部活がないから休日が自由」
大変な点:「夜型の生活リズムに慣れるのが大変」「夏期講習の忙しさは教員時代以上」「売上目標がプレッシャー」
転職前にこうしたリアルな声を知っておくことで、入社後のギャップを減らせます。可能であれば、塾で働く元教員に直接話を聞く機会を作りましょう。
塾業界のトレンドを知っておく
塾業界に転職する前に、業界のトレンドを把握しておきましょう。
オンライン塾の急成長:コロナ以降、オンライン塾の需要が急拡大。対面型の塾もオンライン併用にシフトしています。ITツールに慣れておくことが、今後の塾講師には必須になりつつあります。
個別最適化の流れ:AIを活用した個別カリキュラムの提供が進んでいます。単に「教える」だけでなく、データを読み取って学習を最適化する力が求められる時代に。
大学受験以外の需要拡大:中学受験市場の拡大、英語4技能対応、プログラミング教育など、従来の「受験塾」から多様化しています。
フリーランス講師という働き方
最近注目されているのが、特定の塾に所属せずフリーランスとして活動する講師です。複数の塾と業務委託契約を結んだり、オンラインで個別指導を提供したりすることで、自由度の高い働き方が実現できます。
時給は3,000〜10,000円と幅広く、実力次第で教員時代以上の収入を得ることも可能。ただし、自分で営業・集客をする必要があるため、ビジネススキルも求められます。
まとめ
教員から塾・予備校講師への転職は、「教える楽しさ」を持ち続けながら、新しい環境でキャリアを築く選択肢です。
ただし、「学校が嫌だから塾へ」という消極的な動機だけで転職すると、塾特有の大変さ(夜型勤務、成果主義、講習期間の忙しさ)に苦しむこともあります。
大切なのは、「教えること」が本当に好きかどうかを改めて確認すること。そして、塾業界の現実を理解した上で、自分に合った環境を選ぶことです。
