教員を辞めた私は、教員を否定したいわけじゃない

「最近さ、元教員によるネガティブキャンペーンみたいになってない?」
そんな言葉を、SNSで見かけた。
読んだ瞬間、胸がズシンと重くなった。
……いや、私は、キャンペーンなんかしてるつもりなんてない。
一度も、そんな気持ちで発信したことなんてない。
でも、わかる。
元教員の発信を見て、現役の先生がざわっとする気持ち。
ときどき、「何か言いたげだな」と感じるコメントを目にすることもある。
それでも、どうしても言いたくなる。
「それ、ちょっと違うんじゃない?」って。
言葉には出さなくても、心の中では反論がぐるぐると渦を巻いていた。
「辞めた方がいい」なんて、一度も言ってない
たしかに私は、『やめたいと一度でも思ったら読む 教員の転職思考法』という本を書いた。そのタイトルだけ見て、「ああ、辞めた人が煽ってるんだな」って、そう思う人もいるかもしれない。
でも、違うんだよ。
「辞めた方がいいです!」なんて、一度も言ったことないし、そんな風に思ってもいない。
この本に込めたのは、
「辞めたくなるほどしんどいときに、ちゃんと立ち止まって、自分と向き合ってほしい」っていう想い。
それだけ。
自分の学校が恵まれてるからって、誰かの苦しさを否定していいの?
「うちはホワイトだから、そんなに大変じゃないけど」
「先生ってやりがいのある仕事だし、そんなにネガティブにならなくても…」
そんな声を見かけることがあります。
それ自体は、悪くない。
自分の学校が働きやすくて、気持ちよく仕事ができている。
それは本当に素晴らしいこと。
でも――
「自分の職場が恵まれているから」って、今まさに苦しんでいる誰かの声を否定する理由にはならない。
ある先生が、こんなふうに話してくれました。
「毎日、笑顔でいるのに疲れました。
子どもたちの前では、ちゃんとしていなきゃって思ってるけど、
家に帰ると、もう何もできなくなるんです。
誰かに『辛い』って言うだけで、負けた気がするんです。」
彼女は、泣きながらそう言いました。
そして、私は、こういう声をこれまでに何度も、何度も聞いてきました。
「文句ばかり言う人」と決めつけないでほしい
たしかに、不満ばかり言って何も行動しない人もいる。
私だって、そういう姿を見て「何か動けばいいのに」と思うことはあります。
でも、私のもとに相談に来てくれる先生たちは、
ただ愚痴を言いたいんじゃない。
「このままじゃいけない」
「どうにかしたい」
そう思って、勇気を出して一歩を踏み出してくれる人たちです。その小さな行動を、「文句ばかり」と切り捨ててほしくない。
自分にとっては“たいしたことないこと”でも、
誰かにとっては、“心をすり減らすようなこと”かもしれない。
それを知らないふりをして、
「ネガティブキャンペーンだ」なんて片付けるのは、
あまりにも浅はかだと感じる。
私のところに来る人たちは、みんな本気なんです
SNSで毒を吐いてるわけでも、誰かを責めているわけでもない。
ただ、
「このままじゃダメだと思っている」
「どうしたらいいのかわからない」
「でも、何か変えたい」
そうやって、一歩を踏み出して、連絡をくれる。Zoom越しに話す中で、泣きそうな声。
その奥にある、必死にこらえてきた何年分もの想い。
私は、それを何度も、何度も受け取ってきました。
それでもまだ、「キャンペーン」って言うの?
「そんなに大げさに言わなくても…」
「先生って、やりがいある仕事でしょ?」
そんなふうに言う人もいるけど、
じゃあ聞きます。
「やりがい」だけで、明日から給料ゼロでも働けますか?
「やりがい」だけで、心や体が壊れても、笑っていられますか?
そんなこと、ないですよね。
辞めた先生たちは、“苦しかった自分”に向き合ってきた人たち
もう一つ、どうしても伝えておきたいことがあります。「ネガティブキャンペーン」と言われがちな元教員の発信。
でも、それって本当にキャンペーンなんでしょうか?
私の知る限り、
辞めた先生たちはみんな、自分の中に渦巻く不安や葛藤と、何度も何度も向き合ってきた人たちです。
学校を辞めるって、本当に大きな決断です。
「このままでいいのかな?」
「生活はどうなるんだろう」
「生徒を見捨てることになるんじゃないか」
「家族になんて言おう」
「後悔するんじゃないか」
そんなふうに、何ヶ月も、何年も、迷い続けた末に、やっと出した決断。
だからこそ、その人たちが発する言葉には、リアルな痛みと、本音と、葛藤がにじんでいるんです。
誰も、「ネガティブキャンペーンをしたくて」辞めたわけじゃない。
たくさんの我慢の末に、たった一度、
「自分の人生を生きたい」と思っただけ。
そんな彼ら・彼女たちの発信は、
今まさに苦しんでいる“誰か”にとっての光になっていることだってあるんです。
それなのに、そういう言葉を拾いもせず、文脈も読まずに、
「またネガティブなこと言ってる」と切り捨ててしまうのは、
大切な背景を無視している気がしてならない。
もしかしたらそれは、
“過去の自分”にしか言えなかった、勇気あるSOSだったかもしれないのに。
私が伝えたいのは、「事実」です
私は、ネガティブキャンペーンなんかしてない。
煽るつもりなんて、ひとつもない。
私は、現場の“声”を届けているだけ。
現場の“現実”を伝えているだけ。
知ってほしい。
全国のどこかで、
「朝が来るのが怖い」と思いながら、それでも子どもたちの前に立っている先生がいることを。
そんな人たちが、ちゃんと声を上げられる場所があることを。
最後に、お願いがあります
私が届けたいのは、「辞める・辞めない」という話じゃありません。「あなたには選択肢がある」ということを、知ってほしいだけ。
辞めてもいい。続けてもいい。
どっちが正解かなんて、誰にも決められない。
でも、知らないまま、
「他に道なんてないよね」って、
諦めてほしくないんです。
だから、伝え続けています。
自分らしく働ける道がある。
自分の人生を、自分で選んでいいんだよ。
もし、今つらいなら
誰にも言えないまま、
「このままじゃダメだ」と思っているなら。
どうか、ひとりで抱え込まないでください。
私たちがいます。