人の子の成長は見ているのに、我が子の成長を見ていない—— その矛盾に気づいた時、退職を決めた
なみさん(熊本県・44歳・小学校教員22年・育休6年含む・令和7年度末退職)
熊本県の小学校で22年間(育休6年含む)働いてきた なみさん(44歳)。講師として8回採用試験を受け続け、結婚のタイミングで合格した。育休復帰後は仕事と育児の両立に苦しみながらも、やりがいを感じながら続けてきた。しかし「担任として子どもの成長を一番近くで見ているのに、我が子の成長は見ていない」という矛盾が積み重なった。最後の1年を「やり切った」と感じた時、迷わず退職を選んだ。やめることへの恐れを持たずに前に進む なみさんが語る、退職の決断と次のビジョン。
Chapter 1 幼稚園の先生から小学校教員へ——22年間の始まり
— 新川:
教員になったきっかけを教えてもらえますか?
— なみさん:
元々は幼稚園の先生になりたくて大学に入ったんです。
小学校の教育学部に入れば幼稚園と両方の免許が取れると知って入学しました。
実習などを受ける中で気持ちが変わって、小学校の先生になろうと大学時代に決めました。採用試験に合格できなかったので、そのまま講師として始めたんですが、ありがたいことに担任として働かせてもらいながら採用試験を受け続けて、結婚のタイミングでやっと合格しました。

— 新川:
講師時代は長かったんですね。
— なみさん:
8年です。途中で非常勤にして受験勉強に集中しようとしたこともあったんですが、なかなか受からなくて。
なんで同じことやってるのに私は受からないんだろうという葛藤もありながら、それでも経験を積みたいと思ってずっと担任を続けていました。
合格した時はもう最後にしようという気持ちで受けたら、そこで受かったという感じです。
「最後にしようという気持ちで受けたら、そこで受かった。なんで受からないんだろうという葛藤を抱えながらも、諦めずに続けてきた10年でした」
Chapter 2 育休復帰後——「思いっきり働けない」という感覚
— 新川:
育休から復帰した後はどんな状況でしたか?
— なみさん:
2人続けて産んで長く休んだので、復帰と同時に異動になりました。
環境も変わる、子どもが小さい、1年生担任は初めて、スタッフも初めて
——全部が初めてという状態で復帰したんです。その中で1番最初に出てきた感情は「思いっきり働けない」でした。
子どものことも一生懸命になりたい、でも仕事も今までの感覚でやろうとすると歪みが出てくる。どっちも精一杯はできないということに、最初の1年はすごく苦しみました。
— 新川:
夫婦でどうやって乗り越えたんですか?
— なみさん:
夫も中学校の教員で、お互い大変なのは分かってるんですけど、バランスを取りながらやってきました。
子どもが病気の時はどうしても実家の両親に頼らざるを得ない時もあったんですが、年齢的なことを考えると感染症の時は高齢者に預けるわけにもいかないし、そこでまた別の心配が出てきたり。モヤモヤが積み重なっていきました。
「思いっきり働けない——どっちも精一杯はできないということに、復帰後の1年目は本当に苦しみました」
Chapter 3 SSとの出会い——「今年やめよう」と思って入った
— 新川:
SSを受けようと思ったタイミングはどんな状況でしたか?
— なみさん:
復帰して1年目がとにかくつらくて、もうこの仕事続けられないというすごいマイナスな状態でした。
その時に申し込んだんですが、今年やめようと思って入ったんです。
でも受けながら、ここでやめてしまったらこの1年もがいたのが何につながるんだろうという気持ちが出てきて。自分の力をまだ発揮できていないという感覚もあって、もう1年頑張ろうと気持ちが変わっていきました。
— 新川:
受けながら気持ちが変わっていったんですね。
— なみさん:
SSを受けたことで、当たり前にやってきたことが実は価値あるものなんだということに気づいていけたんだと思います。
自分の強みを生かしたらこういうことができるとか、チャレンジしてダメでも戻る世界はある、他の世界もあるという多角的な見方ができるようになって。
それがやめることに向かう気持ちを後押ししていったのは間違いないと思います。
Chapter 4 「やり切った」と感じた最後の1年

— 新川:
結局退職まで3年続けたんですね。
— なみさん:
2年目は高学年を任せてもらって学年主任も初めてやって、それが楽しくなってきたんです。
夫の立場も変わって子どものことを優先してもらえるようになり、仕事に向かえるようになって。また1年、また1年と延ばしながら、5年生を持ったので6年生まで持ち上がりたいと思って最後の1年を迎えました。
— 新川:
最後の1年はどんな年でしたか?
— なみさん:
本当に楽しかったんです。
なのに11月ごろに異動申告を出さなきゃいけないタイミングで、続けたいよりも「これを最後にしたい」という気持ちの方が強まってきて。
やり切ったという感覚が出てきて、これで教壇を締めくくりたいと自然に思えました。迷いもそんなになかったです。
「楽しかった最後の1年の終わりに、続けたいよりも「これを最後にしたい」という気持ちが強まってきた。やり切ったという感覚がありました」
Chapter 5 管理職に言った「5年後の自分」——やめる決断の根拠
— 新川:
管理職には引き止められませんでしたか?
— なみさん:
引き止めていただいて、負担は減らせるよとも言っていただきました。
でも私の場合、学年を変えたり、校務分掌を減らしたりして解決するパターンじゃないんですよ。学年が嫌でやめたいわけじゃないから、そうしてもらっても多分モヤモヤは解決しないと感じていて。
— 新川:
最後に管理職に伝えた言葉があると聞きました。
— なみさん:
このまま5年間現場に立ち続けた5年後の自分と、やめて自分の納得いく形で我が子にしっかり向き合いながら過ごして、また復帰します、と言って教壇に立った5年後の自分とでは、感じているものが違うと思うんです、と伝えました。ずるずる続けながら5年経ったらモヤモヤを持ったまま立ってるかもしれない。
でも一旦やめていろんな経験をして戻った5年後は、よし、また頑張ろうという気持ちで立っていると思うから、今回はそっちを選びますと言いました。
「5年後の自分を2つ想像した。ずるずる続けた自分と、やめて戻ってきた自分——感じているものが違うと思ったから、やめることを選びました」
Chapter 6 我が子の成長を見ていなかった——退職の根底にあった気づき
— 新川:
退職を決めた根底にあったのはどんな気持ちでしたか?
— なみさん:
教員としての幸せを感じるのは、担任したり、関わったりする子どもの変化や成長を一番近くで見られる時だったんです。でもある時に気づいて。
担任として人の子どもの成長は見ているのに、我が子の成長を親である自分が見ていないじゃんって。長い人生を見た時に、我が子の成長を見るのは親である私しかできないのに、それを逃しているなと思ったのが、やめようという気持ちの大きな理由の一つでした。
「人の子の成長は見ているのに、我が子の成長を見ていない——その矛盾に気づいた時、やめようという気持ちが固まりました」
Chapter 7 これからのビジョン——学校の外から子どもと親を支える
— 新川:
退職後に向かいたいビジョンを聞かせてください。
— なみさん:
目標や夢を持っている人間って強いなと感じていて。
現場にいると気づきにくいんですが、夢がないまま淡々と日々を過ごしている子や親御さんを見ていて、ちょっとでも「自分にはこういう良さがあるんだ」と気づいてもらえるような関わりをしたいと思っています。
学校現場の中からではなく、外から学校や子どもや親をサポートできる立場に、最終的にはなりたいというのが今の目標です。
— 新川:
それはSSを受ける前からあったビジョンですか?
— なみさん:
ずっとブレずに持ってきたものです。
SSを受けて自分の強みや価値観が整理されたことで、そこに向かう確信が強まりました。やめることが怖くなくなったのも、チャレンジしてダメなら戻ればいいという気持ちになれたからで。今の時代、教員免許を持っているんだからどんな形でも戻ればいいという感覚が、怖さをなくしてくれました。
「やめることが怖くなくなった。チャレンジしてダメなら戻ればいい——教員免許という帰る場所があることで一歩踏み出せました」
Chapter 8 悩んでいる先生へ
新川: 仕事も子育ても全力でやりたくて葛藤している先生たちへ、一言いただけますか?
なみさん: 我が子の成長を見る機会は、今しかないと思ってほしいです。担任として子どもの成長に感動できるのは教員の醍醐味ですが、それは他の誰かに渡せるものでもある。でも我が子の親は自分だけで、その時期は戻ってこない。それとやめることへの恐れについては、今の時代は戻れる可能性があるので、一度試してみてダメなら戻ればいいという気持ちを持ってほしいです。やめることでしか見えない景色があるし、その経験を持って戻れた時の自分は絶対に違うものを感じられると思います。
「我が子の親は自分だけ。その時期は戻ってこない。やめることへの恐れより、今しかできないことを大切にしてほしいです」
編集後記
なみさんのインタビューで印象的だったのは、「やめる」という言葉が一度もネガティブな響きを持っていなかったことだ。講師時代の葛藤も、育休復帰後の苦しさも、全部抱えながらも「やり切った」という感覚で終えられた。それは、続けることも辞めることも、常に自分で選んできたからだと思う。
「担任として人の子の成長は見ているのに、我が子の成長を見ていない」——この気づきは多くの先生の胸に刺さるのではないだろうか。どちらが正解ではなく、自分の中の優先順位に気づけるかどうかが、選択の質を変える。
管理職に伝えた「5年後の自分」の話が特に印象的だった。2つの未来を具体的に想像して、どちらに向かいたいかを自分の言葉で語れる人は強い。学校の外から子どもと親を支えるビジョンを持った なみさんの次のステージが、とても楽しみだ。
取材・文:新川(Re-Career株式会社 代表取締役)
