教員からEdTech(エドテック)企業に転職する方法|5職種の評価軸と選考フロー【元教員監修】

教員からEdTech(エドテック)企業への転職は、教育現場の経験がそのまま評価される、数少ないルートのひとつです。ただ「教育に関わり続けられそう」という理由だけで受けると、ほぼ確実に落ちます。この記事では、EdTech企業の5つの職種ごとに教員経験のどこが評価され、どこが評価されないのか、選考の4段階で何を問われるのか、そして年収は本当に上がるのかを、出典のある数字と実例で整理しました。

私自身、公立中学校で英語を教えていたころは「教員の経験なんて、学校の外では通用しない」と思っていました。でも実際にキャリア支援の側に回ってみると、EdTech企業の採用担当者が本当に欲しがっているのは、プログラミングができる人ではなく「学校の中で何が起きているかを、事業の言葉で説明できる人」でした。その翻訳のやり方まで、この記事に書きます。

なお、EdTech以外の教材出版・学習塾・研修会社なども含めて広く見たい方は、教育業界への転職完全ガイド|EdTech・教材出版・研修会社の8業界のほうが向いています。この記事はEdTech1業界だけを深く掘る記事です。

新川紗世 Re-Career代表

この記事の著者

新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役

公立中学校で11年、私立高校で1年、あわせて12年、英語教員として勤務。教員時代に病休を経験し退職。その後、教員専門のキャリア支援会社を設立。著書『「やめたいかも」と一度でも思ったら読む 教員の転職思考法』。スタッフ全員が元教員のキャリア支援会社を率い、自身も延べ1,000名以上のキャリア支援に携わる。

⏱️ 30秒でわかる結論

EdTech転職は「教育をやめる転職」ではなく「関わり方を変える転職」。ただし職種ごとに評価される教員経験は別物です。

狙える5職種カスタマーサクセス/導入支援・フィールドサポート/コンテンツ制作/学校向けセールス/プロダクト企画

入りやすい順カスタマーサクセス・導入支援 > コンテンツ制作 > セールス > プロダクト企画

選考は4段階書類 → 現場理解を問う一次面接 → ワークサンプル(模擬提案・教材作成) → 最終面接

お金の現実「EdTech=高年収」ではありません。有報ベースでも学研HD 956万円〜すららネット 520万円と幅が大きい

戻る道2022年7月1日時点で有効だった教員免許(臨時免許状を除く)は、更新制の廃止で有効期限がなくなりました。学校に戻る選択肢は残ります

EdTech(エドテック)とは?教員の転職先として何が起きているか

EdTech企業と学校をつなぐ打ち合わせのイメージ

EdTech(エドテック)は「Education(教育)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた言葉です。学習アプリ、授業支援クラウド、学習eポータル、成績・出欠を扱う校務支援システム、オンライン学習サービスなど、テクノロジーで教育の課題を解こうとしている事業の総称だと考えてください。

まず、いま業界に何が起きているのかを数字で見ます。転職先を選ぶときに、雰囲気ではなく数字で見ておくと、面接でも「なぜこの業界なのか」に厚みが出ます。

伸びているのは「学校・法人向け」。個人向けは横ばい

矢野経済研究所の調査によると、国内のeラーニング市場は2024年度に3,812億円(前年度比2.1%増)、2025年度は3,849億円と予測されています。ただし中身を分けて見ると、様子がかなり違います。

市場 2024年度 前年度比 読み取れること
BtoB(法人・学校向け) 1,232億円 +7.8% 人的資本開示や学校DXを背景に伸びている
BtoC(個人向け) 2,580億円 −0.4% 規模は大きいが微減。個人課金の獲得競争は激しい
合計 3,812億円 +2.1% 全体の伸びはBtoBが牽引している

出典:矢野経済研究所「eラーニング市場に関する調査(2025年)」2025年4月22日発表(yano.co.jp)

ここが、教員にとって決定的に重要な点です。伸びているのは「学校や法人を相手にする仕事」のほうだからです。そして学校を相手にする仕事は、学校の中を知らない人には、どうやっても難易度が高い。ここに教員経験の値段がつきます。

NEXT GIGAで「入れる」から「使われる」へ論点が移った

GIGAスクール構想の第2期(いわゆるNEXT GIGA)では、令和5年度補正予算で都道府県に基金が造成され、端末更新のために約2,643億円が計上されました。補助基準額は1台あたり5.5万円、公立学校の補助率は3分の2です。

つまり端末は、すでにほぼ行き渡っています。これから業界の勝負どころになるのは「入れること」ではなく「入れたものが、現場で本当に使われるかどうか」です。

使われるかどうかを左右するのは、機能ではありません。4月の校務分掌が決まった直後にどう研修を組むか、ICTが苦手な先生をどう巻き込むか、管理職にどう説明して校内の合意を取るか。ここは、教員をやっていた人にしか設計できない領域です。

「端末は全員に配られたけれど、結局使いこなせているのは若手だけです。メーカーの方が説明に来ても、こちらの1日の動きを分かっていないので、話が全部「機能の説明」で終わってしまう。」
——41歳・公立中学校教諭・男性(ICT推進担当)

ただし、EdTechは右肩上がり一色ではありません

正直に書きます。EdTechは「伸びている成長産業」というイメージで語られがちですが、再編も起きています。

たとえば、ソフトバンクとベネッセホールディングスの合弁会社として2014年に設立されたClassi株式会社は、2026年4月1日付でベネッセコーポレーションに吸収合併されました。サービス自体はベネッセが引き継いで継続していますが、会社としてはなくなっています。

「EdTechならどこでも安泰」ではありません。転職先を選ぶときは、事業が誰からお金をもらっているのか(学校か、自治体か、保護者か)を必ず確認してください。業界全体をもっと広く見比べたい方は教育業界への転職完全ガイドを、EdTech以外のIT企業も視野に入れたい方は教員からIT業界へ転職するにはも合わせてどうぞ。

EdTech企業の5職種と、教員経験が評価されるポイント

EdTech企業のチームで働くイメージ

「EdTechに転職したい」で止まっている人がとても多いのですが、EdTechは業界名であって、職種名ではありません。そして職種によって、評価される教員経験はまったく別物です。ここを分けずに応募すると、職務経歴書がどの職種にも刺さらないものになります。

ここでは、教員からの転職で現実的に狙える5職種を、入りやすい順に並べます。

1. カスタマーサクセス|導入した学校に「使ってもらう」仕事

すでに契約している学校や塾に対して、活用状況を見ながら定着を支援する職種です。解約(チャーン)を防ぎ、利用率を上げることが評価指標になります。教員からのEdTech転職で、最も入り口が広い職種です。

評価される教員経験

  • 学校の年間スケジュールを体で知っていること(4月と3月に研修を入れない、11月は行事で動けない、等)
  • ICTが苦手な先生の「できない理由」を、責めずに具体的に想像できること
  • 校内で新しい取り組みを通すとき、誰に先に話を通すかが分かること
  • 校内研修の講師をやった経験(そのままオンボーディング研修の設計に化けます)

そのままでは評価されないもの:授業の上手さ、教科の専門性。この職種で見られているのは「学校という組織を動かせるか」であって、授業力ではありません。

2. 導入支援・フィールドサポート|自治体と学校の間に立つ仕事

自治体単位・教育委員会単位で導入が決まったあと、実際に各校を回って初期設定・研修・運用ルールづくりを行う職種です。会社によってはカスタマーサクセスと一体運用されています。

評価される教員経験

  • 教育委員会・指導主事との折衝経験(研究指定校の担当、市の研究部会など)
  • 年度をまたぐ運用設計(進級・進学時のアカウント移行は毎年ここでトラブルが起きます)
  • 複数校にまたがる調整の経験(中学校区の小中連携、部会運営など)
  • 個人情報の取り扱いに対する感覚。学校現場の緊張感を知っていることは大きな安心材料になります

3. コンテンツ制作・教材開発|問題と学習体験をつくる仕事

学習アプリの問題作成、解説動画の監修、学習指導要領との対応表づくり、つまずきに応じた出題ロジックの設計などを担当します。

評価される教員経験

  • 定期テストの作問と、そのあとの誤答分析。これはアセスメント設計の実務経験です
  • 「どこでつまずくか」の勘所。これはデータだけでは出てこないので、非常に重宝されます
  • 学習指導要領の構造を読める力(改訂のたびに対応表を作り直す仕事が発生します)
  • 自作プリント・スライドの蓄積。ポートフォリオとして提出できます

注意点:教材づくりが好きな人ほど向いていますが、「自分の作りたい教材」ではなく「事業として売れる教材」を作る仕事です。ここのギャップで悩む人は多いです。

4. 学校向けセールス|自治体の予算と入札を相手にする仕事

学校・学校法人・教育委員会に対して提案し、契約に結びつける職種です。一般的な法人営業と違い、予算年度・入札・稟議のサイクルが読めるかどうかが成果を大きく分けます。

評価される教員経験

  • 予算要求の時期と、学校のお金の動き方を知っていること
  • 教科書・教材の採択プロセスを見てきたこと(購買プロセスの理解そのものです)
  • 管理職・事務職員・教育委員会という決裁の階層が頭に入っていること
  • 保護者説明会や地域連携で、初対面の相手に説明してきた経験

営業という職種そのものへの不安がある方は、教員から営業職への転職|「教える力」が活きる意外なキャリアも参考になります。

5. プロダクト企画・PdM|何を作るかを決める仕事

プロダクトの方向性を決め、開発チームと事業側の間に立つ職種です。教員からいきなりここに入るのは、正直かなり難易度が高いです。データを根拠に優先順位を決める力と、開発の見積もりを理解する力が求められるためです。

現実的なのは、カスタマーサクセスやコンテンツ制作で2〜3年プロダクトを理解してから移るルートです。実際、社内異動でPdMになった元教員の方を何人も見ています。最初から狙わなくて大丈夫です。

5職種の比較表

職種 未経験からの入りやすさ 最も効く教員経験 入社後に必要になるもの
カスタマーサクセス ◎ 最も広い 校内研修の講師・分掌の推進 SaaS指標(利用率・解約率)の理解
導入支援・フィールドサポート ◎ 広い 教育委員会との折衝・年度運用 出張と繁忙期(4〜6月)への体力
コンテンツ制作・教材開発 ○ 教科次第 作問と誤答分析・指導要領の読解 納期管理・制作ツールの操作
学校向けセールス ○ 適性次第 採択プロセスと予算年度の知識 数値目標を負う働き方への慣れ
プロダクト企画・PdM △ 直行は難しい 「目標→手段→評価」の設計思考 データ分析・開発工程の理解

「面接で「授業が得意です」と言い続けて、3社連続で落ちました。4社目でICT推進担当として職員会議を通した話をしたら、その場で空気が変わったんです。見られていたのは授業ではなく、組織を動かした経験のほうでした。」
——35歳・元公立中学校教諭・男性(現在はEdTech企業のカスタマーサクセス)

教員経験を「翻訳」する|校務分掌がEdTechの実務に化ける対応表

教員経験の市場価値を可視化するイメージ

ここが、この記事でいちばん実務的な部分です。教員の職務経歴書が読まれないのは、経験が足りないからではなく、学校の中でしか通じない言葉で書かれているからです。

採用担当者は学校の内部用語を知りません。「校務分掌」「所見」「時数」と書いても、何をどれだけやったのかが伝わらない。だから翻訳が要ります。

私自身、退職して最初に書いた職務経歴書には「学級経営に注力しました」と書いていました。いま読み返すと、何をどれだけやったのかが1行も書かれていません。教員時代のことは、自分にとって当たり前すぎて、説明する言葉を持っていなかったのだと思います。翻訳は才能ではなく、型の問題です。

教員としてやってきたこと EdTechでの言い換え 特に効く職種
学級担任 30名規模の学習者に対する年間の進捗管理と個別対応 カスタマーサクセス/コンテンツ
ICT推進担当・情報主任 校内へのツール展開と定着化(チェンジマネジメント) カスタマーサクセス/導入支援
校内研修の講師 ユーザー向けトレーニングの企画・実施・効果測定 カスタマーサクセス/導入支援
研究授業・指導案の作成 目標設定→手段の設計→効果検証のサイクル運用 プロダクト企画/コンテンツ
定期テストの作問と誤答分析 アセスメント設計と結果データにもとづく改善 コンテンツ制作/プロダクト企画
教科書・教材の選定に関わった経験 購買プロセスと意思決定者の理解 学校向けセールス
教育委員会・指導主事との調整 行政・自治体を相手にしたステークホルダー折衝 セールス/導入支援
分掌長・学年主任 5〜10名規模のチームでの企画推進とスケジュール管理 全職種
保護者対応・懇談会運営 利害の異なる関係者への説明と合意形成 全職種
部活動の主顧問 そのままでは評価されにくい。運営面(会計・保護者会・大会運営)に絞れば伝わる 限定的

最後の行だけ、正直に書きました。部活動に費やした時間は本当に膨大なのに、「指導実績」としてはほとんど評価されません。ただし年間予算の管理、外部団体との調整、遠征の運営といった裏方の部分は、プロジェクト運営の経験として十分に通用します。切り出し方の問題です。

翻訳するときの3つのルール

ルール1:主語を「学校」から「相手」に変える
「授業改善に取り組んだ」ではなく「生徒の◯◯という状態を、◯ヶ月で◯◯に変えた」。企業が知りたいのは、あなたが何をしたかではなく、相手がどう変わったかです。

ルール2:人数・期間・回数を必ず入れる
「校内研修を担当」ではなく「教職員32名を対象に、年6回の研修を企画・実施」。規模が入るだけで、読み手は再現性を判断できるようになります。

ルール3:うまくいかなかったことも1行入れる
EdTech企業の面接では、失敗とその後の修正を必ず聞かれます。成功談だけの職務経歴書は、逆に「振り返っていない人」に見えます。

書き方そのものは教員・教師の職務経歴書テンプレート|そのまま使える例文と書き方3ステップにテンプレートがあります。翻訳できるスキルの棚卸しは教員のスキルは市場価値が高い|24のポータブルスキル一覧が使えます。

EdTech転職の選考フロー|書類・面接・ワークサンプルで見られる4つの軸

EdTech企業の面接を受ける場面

EdTech企業の選考は、一般的な事業会社より実技寄りです。「教育への想い」を聞かれる場面は、思っているより少ないと考えてください。ここでは典型的な4段階と、それぞれで何を見られているかを整理します。

ステージ1:書類|「学校の言葉」のままだと、ここで落ちます

書類で落ちる原因のほとんどは、経験不足ではなく翻訳不足です。前の章の対応表を使って、応募する職種ごとに書き分けてください。1通の職務経歴書を5職種に使い回すのが、いちばん通らないやり方です。

また、志望動機に「子どもが好きだから」と書くのは避けたほうがいいです。EdTech企業の多くは、子どもと直接会わない仕事です。書くなら「学校現場の◯◯という課題を、1校ではなく仕組みで解きたい」という形にします。

ステージ2:一次面接|現場の解像度を測られる

ここが教員のいちばんの得点源です。よく聞かれるのは次のような質問です。

  • 「先生方が新しいツールを使わない理由は、実際のところ何ですか?」
  • 「校内で新しい取り組みを通すとき、誰が鍵になりますか?」
  • 「4月から6月の先生の1日を、時間単位で教えてください」
  • 「弊社のプロダクトを使ってみて、現場目線でいちばん使いにくかった点はどこですか?」

最後の質問は本当によく出ます。応募前にプロダクトを触っていないと、ここで終わります。無料トライアルや自治体で導入されているサービスなら、在職中でも触れます。

ステージ3:ワークサンプル|課題が出るのがこの業界の特徴

2次選考以降で、実務に近い課題が出ることが多いです。よくあるのは次の3タイプです。

課題のタイプ 出やすい職種 見られている力
模擬提案(ある自治体に導入提案する資料を作る) セールス/導入支援 相手の予算と決裁を想像できるか
オンボーディング設計(導入初月の支援計画を書く) カスタマーサクセス 学校の年間スケジュールを踏まえられるか
教材サンプル作成(単元1つ分の問題と解説) コンテンツ制作 指導要領との整合と、つまずきの想定

教員にとって朗報なのは、この課題は指導案づくりとほぼ同じ思考だということです。目標を決めて、手段を選んで、どう評価するかまで書く。毎年やってきたことです。違うのは、評価の指標が「生徒の理解」ではなく「顧客の継続」になることだけです。

ステージ4:最終面接|「辞めた理由」の答え方で決まる

最終で必ず聞かれるのが、なぜ学校を離れるのかです。ここで評価が割れます。

よくあるNG回答 なぜ落ちるか 言い換えの方向
「教育現場が疲弊していて、限界でした」 学校批判に聞こえ、入社後も環境のせいにすると読まれる 「1校でできることの範囲を、自分の中で見切ったから」
「もっとワークライフバランスを整えたくて」 事業への関心がゼロに見える 「持続的に働きながら、教育に長く関わり続けたいから」
「教育に貢献したい気持ちは変わりません」 想いだけで、何ができるかが不明 「◯◯の課題に、◯◯という手段で関わりたい」

評価されている4つの軸を、最後にまとめます。

  • 現場解像度:学校の中を、他の候補者より具体的に語れるか
  • 翻訳力:学校の話を、事業の言葉に変換できるか
  • 自走できるか:正解が与えられない環境で、自分で決めて進められるか
  • 批判で止まらないか:課題を語ったあとに、必ず打ち手まで言えるか

「最終面接で「学校のここがダメで」と話し続けてしまって、落ちました。次の会社では、同じ課題を話したあとに必ず「だからこう変えたい」まで言うようにしたら通りました。中身は同じなのに、終わり方だけで結果が変わりました。」
——33歳・元公立高校教諭・女性(現在はEdTech企業の導入支援)

面接の型は教員から転職する際の面接対策|よく聞かれる質問10選と回答例、退職理由の答え方は教員の転職面接で「なぜ辞めるのか」にどう答える?に詳しくまとめています。

EdTech転職のお金|教員の給与と比べて年収は上がるのか

教員とEdTech企業の年収を比較するイメージ

いちばん知りたいところだと思います。先に結論を書きます。「EdTechに移れば年収が上がる」とは言えません。会社によって幅が大きすぎるからです。ここでは、出典のある数字だけを並べます。

まず、いまの自分の水準を確認する

総務省の令和6年地方公務員給与実態調査によると、平均給与月額は次のとおりです。

区分 平均年齢 平均給与月額
小・中学校教育職 41.5歳 411,965円
高等学校教育職 44.7歳 433,141円
一般行政職 — 402,761円

出典:総務省「令和6年地方公務員給与実態調査」(平均給与月額=給料月額+諸手当。期末・勤勉手当は含みません)

一方、民間の水準は国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」で給与所得者の平均給与478万円、正規雇用に限ると545万円とされています。

教育系の上場企業の平均年収は、こんなに幅があります

各社の有価証券報告書にもとづく平均年収(2025年2月時点)を並べると、「教育業界=低い」でも「EdTech=高い」でもないことがはっきりします。

企業 平均年収 主な領域
学研ホールディングス 956.34万円 出版・教育サービス・医療福祉
ベネッセホールディングス 934.30万円 通信教育・学校向けサービス
ナガセ 818.42万円 東進など塾・予備校
EduLab 795.24万円 テスト・アセスメント
内田洋行 750.01万円 学校向けICT環境の構築
すららネット 519.70万円 学校向けICT教材(東証グロース・3998)

出典:各社有価証券報告書(EDINET)/Education Career「教育業界の平均年収ランキング」2025年2月時点。平均年収は全社員の平均であり、職種別・中途入社時の提示額とは別物です。

この記事で「あえて書かないこと」

他の記事では「カスタマーサクセスなら500〜650万円」といった職種別レンジをよく見かけます。ただ、その根拠は求人媒体の掲示レンジであることがほとんどで、母集団も算出方法も公開されていません。裏が取れない数字は書かないというのが、このメディアの方針です。

代わりに、求人票で必ず自分の目で確認してほしい項目を置いておきます。ここを見れば、レンジの推測より確実です。

求人票と内定条件で必ず確認する6項目

  • 提示額に何が含まれるか:みなし残業(固定残業代)が何時間分入っているか
  • 賞与の実績:「業績連動」とだけ書かれている場合、直近3年の支給実績を面接で聞く
  • 住居・通勤の扱い:教員時代の住居手当・通勤手当と比べる。ここで手取りが変わります
  • 退職金制度の有無:スタートアップは制度自体がないことが珍しくありません
  • 社会保険:公立学校共済組合から協会けんぽ・健保組合に変わります。掛金と給付を比較
  • 評価と昇給のサイクル:半期評価か年次評価か。入社1年目の昇給幅の実績

共済から抜けるときの手続きと、退職の年のお金の動きは別記事にまとめています。

年収そのものの動き方は教員から転職して年収は上がる?下がる?|リアルな収入事情と年収アップ戦略、退職前後のお金は30代教員の退職お金完全ガイド|退職金・失業保険・住民税・国保の落とし穴が詳しいです。

教育ICTの現場から動いた元教員3人の転職実例

転職後に前を向く元教員のイメージ

ここからは、実際に教育ICTの現場から動いた方の例を3つ紹介します。いずれもキャリア相談でお会いした方で、ご本人の了承のもと、特定されない範囲に加工しています。

Aさん(30代・公立中学校の理科教員 → 学習eポータル企業のカスタマーサクセス)

ICT推進担当を3年。校内でChromebookの活用研修を年6回まわしていた方です。「自分は授業がうまいわけではない」と最初は自信がなさそうでした。でも棚卸ししてみると、教職員32名を巻き込んで研修を設計・実施し、活用率を学校全体で引き上げた実績がそのまま残っていました。

選考ではオンボーディング設計の課題が出て、「4月は絶対に研修を入れない。5月の連休明けに30分だけもらう」という提案を書いたところ、面接官から「なぜ4月がだめか説明できる候補者は初めて」と言われたそうです。年収は初年度ほぼ横ばい、2年目に上がりました。

Bさん(40代・私立高校の数学教員 → 学習アプリのコンテンツ制作)

作問が好きで、20年分の自作問題とその誤答分析のノートを持っていた方です。「40代からの未経験転職は無理でしょう」とおっしゃっていましたが、ポートフォリオとして単元1つ分の問題・解説・つまずき想定を提出したところ、1社目で通過しました。

入社後にいちばん苦労したのは、教材の質ではなく納期だったそうです。「学校では自分のペースで作れたけど、会社では締切が先に決まっている」。ここは正直、多くの方がつまずくポイントです。

Cさん(30代・公立小学校教員 → 校務支援システム企業の導入支援)

市の研究部会で指導主事とやりとりした経験がある方でした。教育委員会の年度予算のサイクルを説明できるという、その1点で選考が一気に進みました。

ただし、この職種は出張が多く、4〜6月が繁忙期です。お子さんが小さいご家庭だったので、面接の段階で出張頻度を具体的に確認してもらいました。結果として在宅とのハイブリッドで折り合いがつきましたが、働き方の条件は、内定後ではなく選考中に聞いたほうがいいと改めて思った事例です。

「EdTechに移って一番よかったのは、自分が関わった機能が全国の学校で使われることです。教室では40人でしたが、いまは何万人の学びに関わっています。ただ、目の前の子どもの顔が見えないさびしさは、正直ずっとあります。」
——38歳・元公立小学校教諭・女性(現在はEdTech企業の導入支援)

3人に共通しているのは、授業の話で勝負していないことです。校務分掌、研修、委員会との調整といった「授業以外の仕事」が、そのまま評価につながっていました。

EdTech企業に転職して後悔する3つのパターンと避け方

転職後のギャップに悩む様子

転職そのものはうまくいったのに、1年経たずに「戻りたい」となってしまう方もいます。その理由は、だいたい次の3つに集約されます。先に知っておけば、避けられます。

パターン1:「教える仕事」が続くと思っていた

これがいちばん多い誤解です。EdTech企業の仕事の大半は、子どもに教える仕事ではありません。カスタマーサクセスの相手は先生、セールスの相手は教育委員会、コンテンツ制作の相手はデータと締切です。子どもの反応を直接受け取れる場面は、ほとんどありません。

もし「教えること自体を続けたい」のであれば、EdTechより向いている選択肢があります。教員から塾・予備校講師への転職|教え続けたい人の選択肢や、通信制高校・オンライン家庭教師のほうが、望んでいるものに近いかもしれません。辞めるか続けるかの前に、「何を続けたいのか」を分けて考えてください。

パターン2:現場批判で止まってしまう

元教員だからこそ、学校の課題は誰よりも語れます。それは強みです。ただし、社内で「学校はこれだからダメなんです」と言い続ける人は、あっという間に顧客を下に見ている人として扱われます。

EdTech企業にとって、学校は顧客です。課題を語ったあとに必ず打ち手を置く。この癖は、入社前からつけておいて損はありません。

パターン3:「決めない仕事」に慣れていない

学校には、年間行事予定という強力な枠組みがあります。4月に決まった枠に沿って1年が進む。この安心感は、外に出て初めて分かります。

企業では、優先順位を自分で決める場面が毎日あります。「何をやらないか」を自分で決めなければ、いつまでも終わりません。ここに戸惑う方は本当に多いです。ただし、これは能力の問題ではなく慣れの問題で、半年もすれば大半の方が適応しています。

ある20代の方は「最初の3ヶ月は、指示がないことが怖かった。学校では時間割が決まっていたので」と話していました。その方も半年後には「自分で決められることのほうが楽しい」に変わっています。

ちなみに、この3つのどれかに当てはまりそうだと感じたとしても、「だから辞めないほうがいい」という話ではありません。知ったうえで選ぶことと、知らずに飛び込むことは、まったく違うというだけです。

在職中に始める|教員からEdTech転職までの6ステップ

転職準備のステップを整理するイメージ

最後に、在職中のまま進められる手順を6つに分けます。教員は平日に動きにくい職業なので、順番を間違えないことが何より効きます。

ステップ1:自分のICT実績を、年度末までに書き出す

研修の回数、対象人数、使ったツール、その結果どう変わったか。記憶は年度が変わると驚くほど消えます。3月中に、箇条書きでいいので残してください。異動があるなら、なおさら先に書き出しておくことです。

ステップ2:プロダクトを実際に触る

面接で必ず「使ってみてどうでしたか」と聞かれます。勤務校で導入されているものがあれば、それがいちばん強い材料です。無ければ、無料トライアルや個人向けプランで触っておきます。触っていない人と触っている人の差は、面接で10秒で分かります。

参考までに、学校現場で広く使われている国内サービスをいくつか挙げます(いずれも2026年8月時点で提供が確認できるものです)。

サービス/会社 領域 規模の目安
ロイロノート・スクール(LoiLo) 授業支援クラウド 国内外 約13,000校導入・1日280万人以上が利用
キュビナ(COMPASS) 学習eポータル+AI型教材 累計100万人以上の児童生徒が利用
すららドリル(すららネット) 公立小中学校向けICT教材 東証グロース上場(3998)・2025年12月期の売上高は約19.3億円
Monoxer(モノグサ) 記憶定着アプリ 2025年10月にシリーズCで約18.5億円を調達・住友商事と資本業務提携
Studyplus for School(スタディプラス) 塾・学校向け学習管理 2,800教育機関以上が利用
atama+(atama plus) AI教材 全国4,000教室以上で利用(2025年2月時点)
スタディサプリ 学校向けサービス(リクルート) 学習動画・ICT教育支援 小・中・高向けに提供

※各社の公表資料にもとづく2026年8月時点の情報です。なお、ベネッセとソフトバンクの合弁会社だったClassi株式会社は2026年4月1日にベネッセコーポレーションへ吸収合併され、サービスはベネッセが継続提供しています。応募前に必ず各社の最新情報をご確認ください。

ステップ3:最低限のビジネス用語だけ入れる

全部覚える必要はありません。面接で出てくるのは、だいたいこの範囲です。

用語 学校でいうと
SaaS 買い切りではなく、毎年契約を更新して使うソフト
オンボーディング 導入直後の初期研修と立ち上げ支援
チャーン(解約) 次年度に契約を更新してもらえないこと
アクティブ率 実際にログインして使っている先生・生徒の割合
ARR 1年間で継続的に得られる売上。事業の体力を示す数字
PoC(実証) 本格導入の前に、1校・1学年で試すこと

ステップ4:職務経歴書を職種別に作り分ける

第3章の対応表を使って、応募する職種ごとに冒頭の要約を書き換えます。全部を書き直す必要はありません。最初の5行だけ差し替えれば十分です。採用担当者が読むのは、まずそこだからです。

ステップ5:エージェントを目的で使い分ける

教育業界に特化したエージェント(Education Careerなど)と、IT業界に強いエージェント(Geeklyなど)、総合型の求人媒体(typeなど)では、出てくる求人が違います。EdTechは教育とITの境目にあるので、両方から見たほうが取りこぼしません。

ひとつだけ注意です。エージェントは「今すぐ転職する人」を優先します。まだ迷っている段階なら、そう伝えたうえで情報収集として使うほうが、お互いに消耗しません。

ステップ6:年度の区切りを味方につける

教員の退職は年度末が基本です。逆算すると、秋(9〜11月)に選考を受けて、年内に内定、年度末で退職、4月入社という流れが最も無理がありません。ただし企業側の採用は通年で動くので、良い求人が出たタイミングで動くのが本来は正解です。内定後の入社時期は、事情を話せば相談に乗ってもらえるケースが多いです。

在職中に、絶対にやってはいけないこと

  • 生徒の個人情報・成績データを、選考の資料として持ち出すこと(校務データは一切使わない)
  • 勤務時間中に応募・面接の連絡を処理すること
  • 勤務校で導入しているサービスの内部情報を、競合他社の面接で話すこと
  • 内定が出る前に、職場で転職活動を公言すること

ポートフォリオを出すときは、必ず自分でゼロから作り直したサンプルを使ってください。

年代ごとの戦略は30代教員の転職は遅くない|転職成功のための3ステップ、40代教員の転職完全ガイド|20年経験を活かす8職種と成功パターンにまとめています。

よくある質問

Q. ITの知識がほとんどなくても、EdTech企業に転職できますか?

A. カスタマーサクセス・導入支援・コンテンツ制作であれば、プログラミングの知識は求められないことがほとんどです。求められるのは、Google WorkspaceやMicrosoft 365、チャットツール、表計算での集計といった基礎操作と、「分からないものを自分で調べて使えるようになる姿勢」です。逆に、エンジニア職・データ分析職は専門教育か実務経験が必要になるため、教員からの直行は現実的ではありません。

Q. 教員を辞めてEdTechに行くと、もう学校には戻れませんか?

A. 戻れます。教員免許更新制は2022年7月1日に廃止され(文部科学省「教員免許更新制」)、施行日時点で有効だった普通免許状・特別免許状は、休眠中のものも含めて手続きなしで有効期限のない免許状になりました。つまり、期間の経過で失効することはありません。実際に、EdTechで数年働いたあと、ICTに強い人材として学校に戻る方もいます。講師登録や自治体の選考の要件は自治体ごとに違うので、戻る可能性を残したい方は在職中に確認しておくと安心です。

Q. 40代・50代からのEdTech転職は難しいですか?

A. 20代・30代と同じ土俵で戦うと厳しいのは事実です。ただしEdTech企業が40代以降に期待するのは、「学びの速さ」ではなく「学校組織を動かした経験の量」です。分掌長・学年主任・研究主任・教育委員会との折衝といった経験は、若手には出せません。狙う職種を導入支援・カスタマーサクセス・学校向けセールスに寄せると、経験がそのまま値段になります。

Q. EdTech企業に移れば、残業は減りますか?

A. 業界単位の公的な統計がないため、「減ります」とは書けません。実感としては、部活動と行事に取られていた土日が戻るぶん、総拘束時間は減る方が多いです。一方で、導入支援やカスタマーサクセスは4〜6月と年度末が繁忙期で、出張も発生します。面接の場で、繁忙期の残業時間の実績と、リモートの可否を具体的に聞いてください。

Q. 私立学校の教員でも、EdTech転職で不利になりませんか?

A. 不利にはなりません。むしろ私立は、公立より導入の意思決定が速く、端末やアプリの選定に教員が関わっているケースが多いので、選定側の視点を持っているのは強みです。一方、公立の方は自治体単位の予算と入札の流れを知っていることが武器になります。公立・私立のどちらでも語れる材料はあります。自分がどちらの意思決定を見てきたかを整理してください。

Q. 教科によって有利・不利はありますか?

A. 職種によります。コンテンツ制作は数学・英語・理科の求人が比較的多い傾向がありますが、カスタマーサクセス・導入支援・セールスは教科をほとんど問いません。これらの職種で見られているのは教科の専門性ではなく、学校という組織への理解だからです。「自分の教科は不利かもしれない」と感じている方こそ、職種のほうを変えて考えてみてください。

Q. 在職中に、面接の時間はどうやって作ればいいですか?

A. EdTech企業はオンライン面接に慣れている会社が多く、平日18時以降や土曜の面接に応じてもらえることが少なくありません。応募の段階で「現職が教員のため、平日日中の面接が難しい」と伝えておくのが確実です。これを伝えて態度が変わる会社は、入社後も学校の事情を理解してくれない可能性が高いので、見極めの材料としても使えます。年次休暇を使う場合は、長期休業期間に集中させる方が多いです。

まとめ

  • EdTechで伸びているのは学校・法人向け(BtoB)。学校の中を知っている人ほど有利な領域が広がっています
  • EdTechは業界名であって職種名ではありません。カスタマーサクセス/導入支援/コンテンツ制作/セールス/プロダクト企画で、評価される経験はまったく別物です
  • 入り口がいちばん広いのはカスタマーサクセスと導入支援。効くのは授業力ではなく、校内研修・分掌・委員会との調整といった「授業以外の経験」です
  • 選考は書類 → 現場理解の面接 → ワークサンプル → 最終の4段階。プロダクトを触っていないと一次で終わります
  • 年収は「EdTech=高い」ではありません。有報ベースでも956万円から520万円まで幅があります。求人票の6項目を自分の目で確認してください
  • 職種別の年収レンジは、公的な裏が取れないためこの記事では書きませんでした。数字は出典があるものだけを見てください
  • 2022年7月1日時点で有効だった教員免許(臨時免許状を除く)は、更新制の廃止で有効期限がなくなりました。EdTechに出ても、学校に戻る道は残っています
  • 「教えること自体を続けたい」なら、EdTechより塾・予備校講師のほうが近いかもしれません。辞めるか続けるかの前に、何を続けたいのかを分けて考えてください
  • 広く見比べたい方は教育業界への転職完全ガイド|8業界、教員・教師からの転職先おすすめ15選、教員のキャリアプラン完全ガイドもどうぞ




Re-Career代表 新川紗世
元教員が運営するキャリア支援

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