教員の働き方改革の現状と課題|変わること・変わらないこと

教員の働き方改革は何が変わって何が変わらないのか。元教員+キャリア支援者が、部活動地域移行・残業削減・給特法見直しなど最新動向と現場のリアルなギャップを解説します。

ここ数年、日本の教員の働き方について社会的な関心が一層高まっています。学習指導要領の変更、部活動指導、保護者対応の複雑化、そして増え続ける事務業務。こうした背景のなかで、教員の長時間労働は「個人の問題」ではなく「社会問題」として認識されるようになりました。2021年から現在にかけて、制度面では大きな変化が起きています。一方で、学校の現場ではどう変わったのか、教員たちの実感はどうなのか。このギャップを理解することが大切です。

新川紗世 Re-Career代表

この記事の著者

新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役

公立中学校で11年、私立高校で1年、あわせて12年、英語教員として勤務。教員時代に病休を経験し退職。その後、教員専門のキャリア支援会社を設立。著書『「やめたいかも」と一度でも思ったら読む 教員の転職思考法』。スタッフ全員が元教員のキャリア支援会社を率い、自身も延べ1,000名以上のキャリア支援に携わる。

教師のバトンが可視化した現場の声(2021年~)

モヤモヤ2.png — 変わらない現実

2021年3月26日、文部科学省は『#教師のバトン』というプロジェクトを開始しました。目的は単純です。Twitter上で、現職教師が教職の魅力を学生や社会人に伝えるキャンペーン。すべての教員が自分の仕事のやりがいを発信する、そういう企画でした。

しかし翌日の3月27日、このプロジェクトは予想外の方向へ進むことになります。SNS上で急速に拡散する中で、現役教員・元教員からの大反発が起きたのです。予定されていた『魅力の発信』ではなく、現場の『悲鳴』があふれ出してしまったのです。

その規模は、文部科学省の当初の想定を大きく超えるものでした。ただし「何件投稿され、そのうち何%が否定的だったのか」という集計値については、SNSの過去データが一般に公開されておらず、私が確認できる一次資料が見つかりませんでした。ですのでこの記事では件数や比率は書きません。数の話よりも、そこに書かれていた中身のほうが大事だと思うからです。

投稿の内容は、労働環境の改善要求、勤務時間の問題、部活動指導による過労、保護者対応・クレーム処理の負担、授業準備時間の不足など、多岐にわたりました。文科省の当初の想定を大きく上回る反発でした。

注目すべきは、このプロジェクトが事実上の活動停止に至ったあとも、#教師のバトン の投稿は止まらなかったということです。現在2024年から2026年にかけても、依然として教員の悲痛な声がTwitter上で投稿され続けています。5年経った今も、教員たちは同じテーマで声を上げ続けているのです。

この数年で「変わったこと」

モヤモヤ1

制度面では、確実に変化が起きています。2025年を中心に、複数の大きな改革が実行に移されました。

最も象徴的なのは、2025年6月11日に成立した給特法改正法です。給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)は1971年(昭和46年法律第77号)に制定され、1972年1月1日に施行された法律で、公立学校の教員には時間外勤務手当(残業代)を支給せず、代わりに教職調整額を支給する仕組みです。残業代を支給しない点は2025年の改正後も変わっていません(給特法第3条第2項)。これを「定額働かせ放題」と表現する声も多いです。教職調整額の率は、この制定から54年間、一度も見直されてきませんでした。

改正の最大のポイントは、教職調整額の段階的引き上げです。改正前の月給の4%から、段階的に10%へ引き上げられることが決まりました。具体的には、2026年1月に5%、その後毎年1%ずつ引き上げて、2031年1月に10%に到達する予定です。制定以来初めての引き上げであり、制度的には大きな前進と言えます。

「「ノー残業デー」ができても、仕事量は変わらないから、結局家に持ち帰って仕事しています。数字上は残業が減ったことになってますけど、実態は何も変わっていない」

——Re-Career受講生・30代男性・元中学校教諭

同時に、『主務教諭』という職の新設も決まりました。児童等の教育をつかさどるとともに、学校の教育活動に関して教職員間の総合的な調整を行う職で、置くかどうかは各自治体の任意です(学校教育法第27条・第37条関係、2026年4月1日施行)。文部科学省の資料では主務教諭を「新たな級」で処遇するとされており、実際にいくらになるかは各自治体の条例・規則の改正で決まります。「月額◯◯円上がる」という全国共通の金額は、公表されている資料には書かれていません。

学級担任についても同じです。法改正で決まったのは、義務教育等教員特別手当を校務類型に応じて支給し、その困難性等を考慮して条例で支給額を定める(学級担任への加算を想定)という枠組みまで。「担任手当が月◯◯円」という全国一律の数字は、この時点では存在しません。ネット上で見かける具体的な金額は、いまのところ出どころが確認できないものが多いです(出典:文部科学省「給特法等一部改正法の概要」(令和7年7月25日・第151回初等中等教育分科会 資料3))。

教職員定数も動いています。令和7年度(2025年度)予算では、教職員定数の改善が+129億円(+5,827人)。小学校35人学級の推進(+3,086人)、小学校4年生の教科担任制拡充と新規採用教師の持ち時数軽減(+990人)などが内訳です。

ただし、ここは正確に書いておきたいところです。同じ資料には「教職員定数の自然減等 ▲195億円(▲8,803人)」も並んで書かれています。つまり改善分だけを見れば増員ですが、差し引きすると定数の総数は減る年度です。「定数が増えたのに配置されない」という現場の感覚は、この構造とも無関係ではないと思います(出典:文部科学省初等中等教育局「令和7年度 予算(案)主要事項」)。

なお、改正給特法の附則第4条では、政府は公立中学校の学級編制の標準を令和8年度(2026年度)から35人に引き下げるよう、法制上の措置その他の必要な措置を講ずるとされています。

部活動の地域移行(最近は「地域展開」と言い換える動きもあります)も進んでいます。スポーツ庁の実証事業は、令和5年度(2023年度)に47都道府県の347市区町村で行われ、令和6年度(2024年度)は510市区町村(令和6年6月時点)で実施される予定と報告されています。令和5年度から令和7年度までの3年間が「改革推進期間」と位置づけられました(出典:参議院事務局企画調整室『立法と調査』2024.12 No.471「運動部活動の地域移行」)。

さらに、校務DX(デジタルトランスフォーメーション)や支援スタッフの配置も進んでいます。令和7年度予算では「学校における働き方改革の推進のための支援スタッフの充実等」として、教員業務支援員、副校長・教頭マネジメント支援員、学習指導員などの配置が計上されました。ただし「支援員を入れたら在校等時間が◯時間減った」という全国規模の効果検証の数字は、一次資料で確認できたものがありません。個別の学校で減った事例が紹介されることはありますが、全国の平均として断定できる段階ではない、というのが正直なところです。

それでも「変わらないこと」

前向き1.png — 変化への希望

制度は確実に動いています。しかし、現場の教員たちの声には、『制度の改善と現場の実感のギャップ』が存在しています。

最も根本的な問題は、給特法の根本構造が維持されているということです。いくら教職調整額を引き上げても、『定額働かせ放題』という制度そのものは変わりません。つまり、残業代は支給されないのです。2025年6月12日には自由法曹団が、「給特法等『改正』法の成立に抗議し、子どもの学習権保障と教員の権利確保のために、教員定数の増員と時間外勤務手当の支給を求める声明」を出しています。残業代の支給という根本部分に手を付けていない、という立場からの批判です。

現実の労働時間はどうなっているのでしょうか。文部科学省「教員勤務実態調査(令和4年度)」の確定値によると、10〜11月の1週間当たりの在校等時間は、小学校教諭 52時間47分/中学校教諭 57時間24分。そして1週間当たりの正規の勤務時間は38時間45分です。差し引くと、小学校で週約14時間、中学校で週約18時間半を、正規の勤務時間の外で過ごしている計算になります。

平成28年度(小学校教諭 57時間29分/中学校教諭 63時間20分)と比べれば確かに減っています。ただ、正規の勤務時間にはまだ遠い。これが「減ったと言われても実感がない」の正体だと思います(出典:文部科学省「教員勤務実態調査(令和4年度)の集計(確定値)について」)。

※数字の読み方の注意です。教員の労働時間は「月◯時間」で語られることも「週◯時間」で語られることもあり、分母が違うのでそのまま比べられません。この記事では、調査の原単位である「1週間当たりの在校等時間」で統一して書いています。

教員不足も深刻なままです。文部科学省「令和7年度『教師不足』に関する実態調査」によると、令和7年(2025年)5月1日時点の「教師不足」は3,827人、不足率0.45%。内訳は小学校1,699人(0.44%)、中学校1,031人(0.47%)、高等学校508人(0.33%)、特別支援学校589人(0.71%)です。

注目したいのは推移のほうです。同じ5月1日時点で比較すると、令和3年度は2,065人(0.25%)でした。改革が進んだと言われる数年間で、不足はむしろ増えています。令和3年度と比べて改善した自治体が23、悪化した自治体が43という結果でした(出典:文部科学省「令和7年度『教師不足』に関する実態調査」(令和8年3月5日公表))。

そして、学級担任への手当の加算も、いまの時点では「額が見えない」状態です。前の章で書いたとおり、法改正で決まったのは義務教育等教員特別手当を校務類型に応じて支給する枠組みと、支給額を条例で定めるということまで。いくら加算されるかは、各自治体の条例改正を待つことになります。担任が担う生徒指導・保護者対応・学級運営の重さに見合う額になるのかどうかは、2026年4月以降にご自身の自治体の条例を見るまで分からない、というのが正確な答えです。

部活動の地域移行も、平日の移行は明らかに遅れています。スポーツ庁のフォローアップ調査(令和6年5〜6月実施、回答1,485自治体・8,497校・運動部活動数71,183部活)をもとにした整理では、休日の地域クラブ活動に取り組む部活動数の割合は令和5年度10%、令和6年度21%(予定)、令和7年度37%(予定)。これに対し平日は令和5年度4%、令和6年度7%(予定)、令和7年度13%(予定)にとどまります(分母は運動部活動数です)。

受け皿の整備も道半ばで、運営団体・実施主体を決定した自治体は約15%、めども立っていない・予定なしの自治体が合わせて約40%と報告されています。都市部と地方部の差も残ったままです(出典:参議院事務局企画調整室『立法と調査』2024.12 No.471)。

現場の先生たちの声

『数字の改善』と『現場の体感』のギャップはどこから生まれるのでしょうか。

改正給特法により、確かに教職調整額は段階的に引き上げられます。定数も増員されます。部活動の負担も軽減される地域が出てきます。しかし、多くの教員が口にするのは『改善が遅い』『足りない』という実感です。

「部活動の地域移行が始まって、少し楽になりました。でも「じゃあ空いた時間で別の業務を」と言われて……結局、総量は変わらないんですよね」

——Re-Career受講生・20代女性・元高校教諭

特に、教員不足の悪循環が続いている限り、個々の改革施策の効果は限定的です。定数が増えても配置されない地域があります。部活動の地域移行が進んでも、平日の指導が減らない学校があります。学級担任への手当が加算されても、学級担任の実際の仕事量が減るわけではありません。

2024年のTwitter上で投稿されている#教師のバトン のツイートの内容は、2021年の炎上時と変わっていません。長時間労働、給特法による残業代未払い、保護者対応やクレーム処理の負担、部活動指導による過労、精神疾患による休職の増加。これらの課題は今も解決されていないのです。

ここで大切なのは、制度改革を『待つ』べきか、『自分で動く』べきかという個人の判断です。教員は受け身で改革を待つのか、それとも自分のキャリアについて主体的に考えるのか。この選択が、これからの教員人生に大きな影響を与えることになります。

前向き1

教員一人ひとりにできること

チームワーク

制度改革が進む中でも、教員個人ができることがあります。re-career.netの理念『自己理解・キャリアを考えること自体が大切』はここに深く関わっています。

1つ目は、自分の働き方を可視化することです。毎週何時間の時間外勤務をしているのか、どの業務に最も時間が取られているのか、年間何日の有給休暇を使っているのか。数字で把握することから始まります。

ここで誤解されやすいのですが、「1か月の時間外在校等時間45時間」という上限は、今回の改正で新しくできたものではありません。文部科学事務次官通知にも「1箇月時間外在校等時間及び1年間時間外在校等時間の上限の原則は、改正前の指針から内容を変更していない」と明記されています。改正で新しく入ったのは給特法第8条——教育委員会に「業務量管理・健康確保措置実施計画」の策定と公表、実施状況の公表、総合教育会議への報告を義務付ける規定のほうです(2026年4月1日施行)。上限は従来どおりで、その達成に向けた計画づくりが義務になった、というのが今回の改正です(出典:文部科学事務次官通知「給特法等一部改正法の施行に伴う関係政令の整備に関する政令の制定等について」(令和7年9月26日・7文科初第1404号)同「給特法等一部改正法の概要」)。

あわせて、改正法附則第3条では、政府が令和11年度までに1か月の時間外在校等時間を平均30時間程度に削減することを目標とすると定められました。まずは自分がその線のどのあたりにいるのかを知ることが、最初の一歩になります。

2つ目は、制度を使いこなすことです。給特法は改正されます。部活動の地域移行は進みます。年休を時間単位で取得できる制度があります。これらの制度は『自動的に』教員の負担を減らしてはくれません。自分から利用を申請し、上司や学校に相談し、制度を活用する主体的な行動が必要です。

3つ目は、キャリアについて考える時間を確保することです。これが最も大切です。教員として今後どのようなキャリアを歩みたいのか。このままの環境で続けるのか、それとも転職や副業を検討するのか。あるいは管理職を目指すのか。こうした問いに向き合う時間を、意識的に作ることが必要です。

4つ目は、一人で抱え込まないことです。同僚、管理職、スクールカウンセラー、外部の支援機関。自分の悩みや課題を共有できる人間関係をつくることは、働き方改革と同じくらい重要な『改革』です。特にメンタルヘルスの問題は個人では解決しにくいものです。

制度改革を待ちながらも、自分のキャリアは自分で考える

制度改革を待ちながらも、自分のキャリアは自分で考える

2026年現在、教員の働き方改革は『過渡期』にあります。給特法改正は段階的に施行されます。部活動の地域移行は地域によって進度が異なります。教員定数の増員は予算措置の中で進みます。

制度改革は確実に進んでいますが、『全員の悩みが解決される』というわけではありません。なぜなら、教育という営みの特性上、教員の負担を完全になくすことは難しいからです。新しい課題も生まれるでしょう。

だからこそ、個々の教員に求められるのは『制度改革の結果を待つ』という受け身の姿勢ではなく、『自分のキャリアを自分で考える』という主体的な姿勢なのです。

これは、教員を辞めることを勧めているのではありません。教員として続ける場合でも、転職を選択する場合でも、キャリアチェンジを模索する場合でも、『自分の人生と仕事について真摯に考える』ことが大切だということです。

改革を『待つ』のではなく、自分自身のキャリアを『考える』。その思考プロセスの中で、自分にとって本当に必要な働き方、本当に価値のあるキャリアが見えてくるのではないでしょうか。

まとめ

教員の働き方改革は確実に前進しています。給特法の改正、部活動の地域移行、教員定数の増員など、制度面での変化は着実に起きています。しかし、現場の実感としてはまだ追いついていないのが現実です。

大切なのは、制度改革を待つだけでなく、自分自身のキャリアについて主体的に考えること。教員として続ける選択も、転職を選ぶ選択も、自分で考えて決めた道であれば、どちらも正解です。

一人で抱え込まず、教員の働き方に詳しい専門家に相談することで、新たな視点が見つかることもあります。Re-Careerでは、教員の働き方について一緒に考えるお手伝いをしています。

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