教員の退職理由TOP3|仕事量・長時間労働・家庭両立、給与は14%にとどまる【独自調査】

新川紗世 Re-Career代表

この記事の著者

新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役

元公立中学校英語教員(10年以上)。教員時代に病休を経験し退職。その後、教員専門のキャリア支援会社を設立。著書『「やめたいかも」と一度でも思ったら読む 教員の転職思考法』。スタッフ全員が元教員のプロフェッショナル集団として、延べ1,000名以上のキャリア支援に携わる。

「教員はなぜ辞めるのか」──教員不足が深刻化する中、政府・自治体・メディアで様々な議論が交わされていますが、当の退職者本人が挙げる「退職理由」はどんなものなのでしょうか。

Re-Career独自調査(全国30都道府県・元教員107名)の結果は、教員不足対策議論に重要な一石を投じる内容でした。退職理由のTOP3は「仕事量」「長時間労働」「家庭との両立」。一方で「給与待遇」を挙げた人は14%にとどまります。教員の退職判断の中心にあるのは「給料の額」ではなく、「働き方の構造」だったのです。

この記事では、調査が示した退職理由TOP10の詳細、なぜ給与より働き方が重要なのか、給特法改正だけでは退職を防げない理由、教員不足対策への示唆を整理します。

⏱️ 30秒でわかる結論

教員の退職理由TOP3は「仕事量・長時間労働・家庭両立」。給与は14%にとどまる。

1位 仕事量57%

2位 長時間労働54%

3位 家庭との両立45%

給与待遇14% / 退職判断の中心ではない

組織課題空気感23.1%・人間関係19.6%・管理職19.2%・制度19.2%

退職理由TOP10|「働く量と時間」が圧倒的

退職理由TOP10

退職理由(複数選択可)の上位10項目を集計した結果は、次の通りです(n=107)。

  1. 仕事量:57%
  2. 長時間労働:54%
  3. 家庭との両立:45%
  4. 仕事内容:39%
  5. キャリア拡張:39%
  6. 体調:35.6%
  7. 現場の空気感・閉塞感:23.1%
  8. 人間関係:19.6%
  9. 管理職への不安:19.2%
  10. 制度・評価への不満:19.2%

上位3つは「仕事量」「長時間労働」「家庭との両立」──いずれも「働く量と時間」に直結する要因です。「他にやりたいことが見えてきた(キャリア拡張)」も39%と高く、前向きな理由で退職する人も一定数いることがわかります。

なぜ「給与待遇」は14%にとどまるのか

給与は14%

本調査で最も注目すべき発見の一つが、「給与待遇」を退職理由として挙げた人が14%にとどまった点です。

教員の給与は「絶対的に低い」わけではない

教員の給与は、OECD加盟国の中でも中位〜上位水準。「給与が低いから辞める」というのは、教員の実態を表していないのがデータから見えてきます。

問題は「労働時間に対する給与」

では、なぜ教員はしんどいのか。それは給与水準そのものより、「労働時間に対する給与」が低いこと。OECD調査では日本の中学教員の週労働時間は56時間と参加国中最長。時給換算すると下位グループに位置します。

退職判断の中心は「自分の時間と健康を守れるか」

本調査が示すのは、退職判断の中心が「給料の額」ではなく、「自分の時間と健康を守りながら働けるか」「家族と一緒にいられる時間を確保できるか」という働き方の構造的な問題であるという事実です。

「給料は世間平均より良いと思っていた。問題は時間。給料が10万円増えても、時間が増えないと続けられなかった。」
——40代・元中学校教諭・男性(自由記述より要約)

給特法改正だけでは退職を防げない

給特法改正の限界

2024年成立の給特法改正で、教職調整額が4%→最大10%へ段階引き上げが決まりました。月給35万円のモデルでは、最終的に月21,000円・年35万円程度の増加が見込まれます。

処遇改善は重要、でも本質ではない

処遇改善は教員の士気・生活の質を上げる重要な施策です。しかし、本調査が示すのは「給与改善だけでは退職は止まらない」という冷徹な現実です。

本質的に必要なのは「業務量と時間の構造改革」

退職理由TOP3が「仕事量」「長時間労働」「家庭との両立」である以上、必要なのは:

  • 業務量そのものの削減(不要業務の廃止・支援員拡充)
  • 長時間労働の構造的是正(35人学級・部活地域移行)
  • 育児・介護期の柔軟な働き方(時短勤務・在宅勤務)

関連:給特法改正で教員の給料は本当に上がるのか

関連:35人学級は教員の負担を減らすのか

関連:部活動の地域移行で教員は本当に楽になるのか

退職理由TOP3を深掘り

TOP3深掘り

1位 仕事量(57%)|「終わらない業務」の構造

教員の業務は授業・成績処理・行事準備・校務分掌・保護者対応・部活動と多岐にわたります。「いくらやっても終わらない」と感じる教員が半数を超える57%。「これ以上は無理」と感じた瞬間に退職が現実になります。

2位 長時間労働(54%)|「平日朝7時〜夜9時」が日常

OECD調査でも日本の中学教員の週労働時間は56時間と最長。「平日朝7時出勤、夜9時退勤、土日も部活」が常態化する中、「人間らしい生活」を求めて退職する教員が多数。

3位 家庭との両立(45%)|特に女性教員に深刻

女性教員の63.5%が「両立困難」を退職理由に挙げています。育児・介護・自分の健康と教員業務の両立が物理的に不可能なケースが多発。「家族のために辞める」のではなく「家族とまともに過ごすために辞める」のがリアル。

「土日のたびに部活で家にいない父親に、子どもが『パパは仕事の人』と言うようになった。これは違う、と思って辞めた。」
——40代・元中学校教諭・男性(自由記述より要約)

意外に多い「前向きな退職理由」|キャリア拡張39%

キャリア拡張

退職理由は「逃げ」だけではありません。「他にやりたいことが見えてきた(キャリア拡張)」を挙げた人が39%と、退職理由としては第4位タイ。

前向きな退職の特徴

  • 教育に対する別のアプローチを見つけた(EdTech・教材会社など)
  • 自分の専門性をもっと深めたい(大学院・留学)
  • 独立・起業・フリーランス志向
  • 転職市場の価値を試したい

「前向きな退職」と「防御的退職」の違い

本調査では男女差も明確で、女性は「働き方が続けられない(防御的退職)」、男性は「他にやりたいことが見えた(攻撃的退職)」傾向があります。性別による退職パターンの違いは、調査07で詳しく扱います。

退職理由が示す「教員という仕事の本質的な課題」

本質的課題

退職理由TOP10の分布から、教員という仕事の本質的な課題が浮かび上がります。

「業務の境界線」がない

教員業務は「ここまでが本業、ここからは違う」という境界線が曖昧。生徒・保護者からの相談、SNS時代の対応、土日の連絡、家庭訪問──プライベートと仕事の境界がほぼ消えている職業です。

「子どものため」が美化される文化

「子どものためなら長時間労働も仕方ない」「子どものために自分を犠牲にすべき」という美徳が、過剰労働を正当化してきた歴史があります。これが個々の教員に「断りにくさ」を生み、結果として退職要因に。

「魅力ある働き方」のロールモデル不足

教員の中で「健康に・家族と両立しながら・自分らしく」働くロールモデルが少ない。「上司・先輩のように働けば一人前」という文化の中で、若手・中堅が「自分の理想形」を描けないまま辞めるケース。

「「子どものため」と言いながら、自分の子どもには会えない日々。これは何のために働いているのか、わからなくなった。」
——30代・元小学校教諭・女性(自由記述より要約)

「組織への不満」も2割が共通|空気感・人間関係・管理職

組織課題

個人の業務量・時間以外に、学校組織の構造そのものに対する不満も約2割の退職者に共通しています。

組織課題TOP4

  • 現場の空気感・閉塞感:23.1%
  • 人間関係:19.6%
  • 管理職への不安:19.2%
  • 制度・評価への不満:19.2%

「閉鎖性」が辞める理由になる

学校現場は閉鎖的な空間と言われがち。職員室の人間関係、管理職のマネジメント、評価制度の不透明さ──これらが「教員という職業の魅力を損なう要因」として、約2割の退職者に共通して見えています。

教員不足対策への示唆

教員不足対策

本調査の退職理由データは、教員不足対策の議論に重要な示唆を与えます。

「呼び戻し」より「辞めない環境」

退職理由が「仕事量・時間・家庭両立」である以上、「これから辞める人を防ぐ=現職教員が辞めずに済む環境をつくる」ことが最優先課題。給与改善・業務削減・支援員拡充・働き方の柔軟化が、複合的に進む必要があります。

「魅力ある職業」への再設計

教員不足の根本的な対策は、「教員という職業を、新卒・社会人転身者が選びたくなる職業にする」こと。本調査の退職理由データは、そのために何を変えるべきかの優先順位を示しています。

「教員を辞める人を呼び戻すより、これから辞めようとしている人を止めるほうが、ずっと現実的。」
——新川紗世

各退職理由の構造的背景|なぜそれが「辞める理由」になるのか

構造的背景

各退職理由の背景には、教員特有の構造的問題があります。

「仕事量」の背景

教員の業務は、本来の授業以外に校務分掌(生徒指導・進路指導・人権教育など多種多様)、行事運営、保護者対応、部活動指導、研修受講、書類作成と無数にあります。「やらないと回らない」業務が積み重なって、慢性的なオーバーワークに。

「長時間労働」の背景

給特法のもとで残業代が発生しないため、「いつまでも働き続けてしまう」構造。さらに「子どものため」という大義名分が長時間労働を正当化しがち。OECD調査では日本の中学教員の週労働時間は56時間と参加国中最長です。

「家庭との両立」の背景

朝7時出勤・夜9時退勤・土日も部活──このスケジュールでは育児・介護・家族時間との両立は物理的に不可能。特に女性教員は出産・育児で続けられなくなるケースが顕著。

「体調」の背景(35.6%)

長時間労働+慢性ストレスで、30代後半から体に不調が出始めるのが教員あるある。本調査では病気休職経験者28%と高比率。「健康を損なう前に辞める」「損なってから辞める」が混在しています。

退職を検討中の教員へ|自分の本当の理由を言語化する

自分の理由を言語化

本調査が示すデータと、自分自身を照らし合わせて、「自分の本当の退職理由」を言語化するのが、後悔しない決断の第一歩です。

自己分析の5つの問い

  1. 10個の退職理由のうち、自分に当てはまるのはどれ?
  2. 最も切実な理由は何?それは「働き方」か「やりがい」か?
  3. 「給与」「人間関係」など他の要因も背景にある?
  4. 「辞めない選択肢」(休職・配置転換・働き方変更)は試した?
  5. 退職して何を取り戻したい?時間?健康?家族?やりがい?

これらの問いに答えていくことで、自分が「逃げで辞めるのか、選択で辞めるのか」が明確になります。

退職理由から見える、自治体・国・社会への提言

社会への提言

本調査の退職理由データから、自治体・国・社会全体への具体的な提言を整理します。

自治体への提言

  • 業務削減策の実行:給食指導・部活動・行事の見直し、支援員拡充
  • 柔軟な働き方の制度化:時短勤務・在宅勤務の選択肢
  • キャリア相談窓口の設置:辞める前に相談できる場所を
  • 異動の柔軟化:希望が叶いやすい人事システム

国・文科省への提言

  • 教員定数の見直し:35人学級の確実な完了+次の段階
  • 給特法のさらなる見直し:処遇改善+労働時間管理
  • 教員業務支援員の全校配置
  • 部活動地域移行の加速

社会への提言

  • 「教員=聖職」観の見直し:自分を犠牲にする職業ではない
  • 「働き方の選択肢」を持つ職業への進化
  • 退職者・元教員の社会参画:教員経験者の知見を社会で活かす

シリーズ全9本へのリンク

📊 元教員キャリア実態調査2026|シリーズ全9本

まとめ|退職理由は「働き方の構造問題」が中心

教員の退職理由TOP3は「仕事量」「長時間労働」「家庭との両立」。「給与待遇」は14%にとどまりました。退職判断の中心にあるのは「給料の額」ではなく、「自分の時間と健康を守りながら働けるか」「家族と一緒にいられる時間を確保できるか」──働き方の構造的問題です。

本記事のポイント:

  • 退職理由TOP3は「仕事量57%・長時間労働54%・家庭両立45%」
  • 給与待遇は14%。給特法改正だけでは退職を防げない
  • 「キャリア拡張」39%など前向きな理由も多数
  • 男女差:女性は防御的退職、男性は攻撃的退職傾向
  • 組織への不満(空気感・人間関係・管理職)も約2割

退職を検討する現職教員は、自分の本当の理由を言語化することから始めてください。Re-Careerは、その整理に伴走します。


Re-Career代表 新川紗世
元教員が運営するキャリア支援

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