私立学校の教員を辞めたいときに知っておくべきこと
この記事の著者
新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役
元公立中学校英語教員(10年以上)。教員時代に感じた「このままでいいのか」という想いを原点に、教員専門のキャリア支援会社を設立。延べ500名以上の教員のキャリア相談に対応。
「私立の教員を辞めたい」――そう思ったとき、公立の教員とはまた違った悩みや不安を感じる方は多いのではないでしょうか。転勤がない分、人間関係が固定されやすい。公務員ではないから退職金や年金の制度も違う。独自の校風や経営方針に合わなくなったとき、逃げ場がないように感じてしまうこともあるかもしれません。
この記事では、私立学校の教員が「辞めたい」と感じたときに知っておきたいことを、制度面・手続き面・キャリア面の3つの視点から整理します。辞めることだけが正解ではありません。まずは自分の選択肢を正しく知ることから始めてみませんか。
私自身も元公立教員ですが、Re-Careerには私立学校から相談に来られる方も多くいらっしゃいます。私立ならではの事情を踏まえたうえで、あなたのキャリアを一緒に考えていきましょう。
私立教員が「辞めたい」と感じる背景とは

公立とは異なる雇用環境と閉鎖的な人間関係
私立学校の教員は、公務員ではなく学校法人の従業員という立場です。公立であれば数年ごとに異動がありますが、私立には原則として転勤がありません。同じ学校で長く働くことは安定感がある一方、人間関係が固定化しやすく、合わない上司や同僚との関係が長期化しがちです。
また、学校ごとの独自ルールや暗黙の了解が強い傾向もあります。「うちの学校ではこうだから」という文化に馴染めないとき、相談先が限られてしまうのも私立ならではの悩みではないでしょうか。職員室の雰囲気が合わない、管理職との関係がうまくいかないなど、環境に起因するストレスが退職を考えるきっかけになるケースは少なくありません。
経営方針と教育理念のギャップ
私立学校は経営体としての側面を持っています。生徒募集のための広報活動、進学実績へのプレッシャー、保護者対応の方針など、経営判断と教育現場の間で板挟みになることがあります。「生徒のためにこうしたい」という想いがあっても、経営側の方針と合わなければ実現は難しいでしょう。
入職時には共感していた教育理念が、年月を経て変質していくこともあります。学校の方針転換についていけない、あるいは自分自身の教育観が変化した、ということは決して珍しくありません。こうしたギャップが蓄積すると、「ここで教え続ける意味があるのだろうか」という根本的な問いに直面することもあるかもしれません。
契約更新への不安と「辞めにくい空気」
私立学校では、専任教諭(正規)と常勤講師・非常勤講師(契約)で雇用形態が大きく異なります。契約の場合、更新のたびに不安を感じることは自然なことです。一方で、専任教諭であっても「辞めにくい空気」があるのが私立の特徴です。
少人数の教員で回している学校では、一人が抜けると影響が大きく、退職の意思を伝えること自体にハードルを感じる方も多いでしょう。「お世話になったから」「生徒を途中で放り出すのは」という責任感が、かえって自分を追い詰めてしまうこともあります。しかし、自分のキャリアや健康を守ることも大切な責任です。
私立教員の退職手続き|公立との違いを押さえよう

就業規則の確認が最優先
公立教員の退職は各自治体の条例や規則に基づきますが、私立教員の場合は各学校法人の就業規則が基準になります。退職届の提出期限(「退職の○か月前まで」など)、退職届と退職願の違い、退職届の提出先など、学校ごとに異なるため、まずは就業規則をしっかり確認しましょう。
就業規則が手元にない場合は、事務室や人事担当に確認を求めることができます。法律上は、民法第627条により雇用期間の定めがない場合は2週間前の告知で退職が可能です。ただし、実務上は引き継ぎ等を考慮して、学期末や年度末に合わせた退職が一般的です。円満退職を目指す場合は、余裕を持ったスケジュールで進めることをおすすめします。
退職届の書き方と提出のポイント
退職届は、シンプルに「一身上の都合により退職いたします」と記載すれば十分です。詳細な理由を書く必要はありません。提出先は、就業規則に指定がなければ直属の管理職(学年主任や教頭)を通じて理事長宛てとするのが一般的です。
退職届を提出する際は、まず口頭で退職の意思を伝え、そのうえで書面を提出するという流れが望ましいでしょう。いきなり書面を突きつけるのではなく、面談の場を設けてもらい、丁寧に伝えることで、その後の引き継ぎや退職手続きがスムーズに進みます。
退職届のコピーや、提出日の記録は必ず残しておきましょう。万が一のトラブル防止になります。関連する手続きについて詳しく知りたい方は、こちらのコラム一覧もあわせてご覧ください。
引き止めにあった場合の対処法
私立学校では、退職の意思を伝えた際に強く引き止められるケースがあります。「来年度まで待ってほしい」「後任が見つかるまで」「生徒のことを考えてほしい」など、さまざまな言葉で慰留されることがあるかもしれません。
引き止めの言葉に心が揺れるのは自然なことです。ただし、退職は労働者の権利であり、会社(学校法人)の許可が必要なものではありません。もし自力での交渉が難しい場合は、労働基準監督署への相談や、退職代行サービスの利用も選択肢のひとつです。
大切なのは、引き止めに応じるかどうかを「自分の意思で」決めることです。引き止められて残る選択をするなら、条件面(業務量の軽減、配置転換など)の改善が伴うかどうかも確認しましょう。
退職金・年金・社会保険|知っておくべきお金の話

私立学校の退職金制度の仕組み
公立教員の退職金は自治体の条例に基づきますが、私立教員の退職金は学校法人独自の規定によります。退職金制度自体がない学校もあれば、私立学校退職金財団に加入している学校もあります。退職金の有無や計算方法は就業規則や退職金規程で確認できます。
一般的に、私立学校退職金財団に加入している場合は、勤続年数に応じた退職金が支給されます。ただし、公立教員の退職金と比較すると、金額や支給条件が異なる場合が多いため、事前にしっかり確認しておくことが大切です。自己都合退職と会社都合退職で金額が変わることも覚えておきましょう。
私学共済と厚生年金の違い
私立学校の教職員は、私立学校教職員共済(私学共済)に加入します。これは公立教員が加入する公立学校共済組合とは異なる制度です。私学共済は短期給付(健康保険に相当)と長期給付(年金に相当)の両方をカバーしています。
退職後は私学共済の資格を喪失するため、国民健康保険への切り替えか、任意継続被保険者制度の利用が必要になります。任意継続の場合は退職後20日以内に手続きが必要ですので、退職前にスケジュールを確認しておきましょう。年金についても、次の就職先が決まっていない場合は国民年金への切り替え手続きが必要です。
失業保険(雇用保険)の受給について
私立学校の教員は、公立教員と異なり雇用保険に加入しています(公立教員は原則として雇用保険の適用外)。そのため、退職後にハローワークで手続きをすれば、失業手当を受給できる可能性があります。
自己都合退職の場合、失業手当の受給開始までに約2か月の待機期間がある点は留意が必要です。受給額は退職前の給与や勤続年数によって異なります。次のキャリアを考える間の生活費として活用できますので、退職前に受給条件を確認しておくとよいでしょう。教員の退職に関する他の記事も参考になるかもしれません。
私立教員の転職先|次のキャリアをどう描くか

公立学校への転身という選択肢
私立教員から公立教員への転身は、十分に現実的な選択肢です。教員免許を保有していれば、各自治体の教員採用試験を受験できます。社会人経験者枠や、年齢制限の緩和が進んでいる自治体も増えてきました。
公立に移ることで、異動の機会がある(環境を変えやすい)、公務員としての安定した雇用条件、充実した研修制度などのメリットがあります。一方で、採用試験の準備が必要であること、希望の自治体や校種に配置されるとは限らないことなど、事前に理解しておくべき点もあります。
民間企業への転職で活かせるスキル
私立学校での経験は、民間企業でも高く評価されるスキルにつながります。プレゼンテーション力、生徒・保護者対応で培ったコミュニケーション力、カリキュラム設計の企画力などは、多くの業界で求められる能力です。
特に、EdTech企業、人材育成・研修会社、教育関連のNPOなどは、教員経験者を積極的に採用している場合があります。また、営業職やカスタマーサクセスなど、「人に伝える力」が求められる職種でも教員経験は強みになるでしょう。民間企業への転職を考える際は、自分の経験を「教員の言葉」ではなく「ビジネスの言葉」に翻訳する作業が重要です。
他の私立学校への転職も視野に
「教員は続けたいけれど、今の学校は合わない」という場合は、他の私立学校への転職という選択肢もあります。私立学校の求人は、各学校の公式サイトや日本私学教育研究所の求人情報、教員専門の転職サイトなどで探すことができます。
他の私立学校に移る際は、教育理念や校風、待遇面(給与・退職金・勤務時間)をしっかり比較することが大切です。面接では「なぜ前の学校を辞めたのか」を聞かれることも多いため、ネガティブな理由だけでなく、前向きな志望動機を準備しておきましょう。
「私立は公立と違って”辞めます”が言いにくい空気がある」——私立学校の教員の方からよく聞く言葉です。異動がないぶん人間関係が固定化しやすく、退職の意思表示がしにくいという特有の悩みがあります。
「私立で10年勤めましたが、”ここにいたら一生同じ”と思ったとき、初めて外の世界を見ようと決心しました。公立出身の方より退職手続きが複雑でしたが、事前に調べておいたおかげでスムーズに進みました」
——Kさん(30代・元私立中高一貫校教員→人材系企業)
私自身は公立校の出身ですが、キャリア支援の中で私立教員の方のお話を聞くたびに、公立とは違う難しさがあると実感しています。退職金制度や年金の仕組みが異なるからこそ、事前の情報収集が何よりも大切です。
まとめ
私立学校の教員が「辞めたい」と感じることは、決して珍しいことではありません。公立とは異なる雇用環境や人間関係、経営方針とのギャップなど、私立ならではの悩みがあるのは自然なことです。
大切なのは、辞めるか辞めないかを急いで決めることではなく、自分の選択肢を正しく知ることです。退職の手続きやお金の問題を理解したうえで、公立への転身、民間への転職、他の私立への移動など、複数の道を比較検討してみてください。
一人で抱え込む必要はありません。キャリアの方向性に迷ったときは、教員専門のキャリア支援を活用してみるのもひとつの方法です。あなたにとっての「納得できる選択」を、一緒に見つけていきましょう。