教員経験者が語るキャリアチェンジのリアル|転職してよかったこと・大変だったこと
この記事の著者
新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役
元公立中学校英語教員(10年以上)。教員時代に病休を経験し退職。その後、教員専門のキャリア支援会社を設立。著書『「やめたいかも」と一度でも思ったら読む 教員の転職思考法』。スタッフ全員が元教員のプロフェッショナル集団として、延べ1000名以上のキャリア支援に携わる。
教員から別の道へ|経験者たちの声

「もし教員を辞めたら、その後の人生はどうなるのだろう」。多くの教員が、一度はそう考えたことがあるでしょう。この記事では、実際に教員からのキャリアチェンジを経験した人たちの「リアルな声」を紹介します。彼らの経験を通じて、キャリアチェンジの現実に触れてみましょう。

事例1|IT企業への転職|田中さん(仮名)
教員時代のキャリア
田中さんは、公立中学校で数学を教えていました。教員歴12年、ずっと同じ学校に勤務していました。授業は得意でしたが、進学指導に関するプレッシャーが次第に強くなり、生徒や保護者からの要求の増加に疲弊していました。
転職の決め手
「転職を決めたきっかけは、自分がこのままでは『心身をすり減らすだけ』だと気づいたことです。同年代の同僚を見ても、皆疲弊しているように見えました。ある時、親戚がプログラミングの学習について相談してくれたとき、『自分もこの分野に興味がある』と気づきました。」
田中さんは、オンライン講座でプログラミング基礎を学び始めました。それが転職への第一歩でした。
転職してよかったこと
- 自分の時間が戻った…業務時間内に仕事を終わらせることが基本で、夜遅くまで仕事をすることがありません。その結果、趣味の時間や家族との時間が増えました。
- やりがいが明確になった…目に見える形で、自分のコードがプロダクトになっていく過程は、教室での「成長」とは異なる充実感があります。
- 給与が上がった…同じ職務経歴でも、給与は教員時代より約30%増加しました。
- 新しいことを学ぶワクワク感…常に新しい技術が出現し、学び続ける必要がある環境は、最初は大変でしたが、やがて「人生が続いていく感覚」につながりました。
大変だったこと・ギャップ
- 「教える」という機会がない…教員時代は、毎日生徒に何かを教えていました。その喜びが、IT企業にはありません。
- 人間関係が「仕事の関係」に限定される…学校では、生徒や同僚との関係が深くなります。IT企業は、より「ドライ」な人間関係です。それが負担になることもあります。
- 価値観の違いに戸惑う…学校では「正解」や「指導」が重視されます。IT企業では「スピード」と「イノベーション」が重視されます。その価値観の違いに、当初戸惑いました。
今教員時代に戻れるなら
「もし教員時代に戻れるなら、もっと『教えること』を楽しむべきだったと思います。生徒の成長を喜ぶ時間を、もっと意識的に作っていたら、別の人生になっていたかもしれません。でも、今の選択は後悔していません。」
事例2|人事・採用職への転職|鈴木さん(仮名)

教員時代のキャリア
鈴木さんは、公立高等学校で英語を教えていました。教員歴8年。キャリア教育や進学指導に携わることで、「生徒の将来」について考える機会が増えていきました。
転職の決め手
「高校3年生のキャリア指導を通じて、『自分も含めた多くの人が、キャリアについて十分に考えずに職業選択をしているのではないか』と気づきました。そして、『社会に出た後の人間の成長』に関わる仕事がしたいと思うようになりました。人事・採用の仕事なら、その思いが活かせるかもしれないと考えたのです。」
転職してよかったこと
「転職して最初の3ヶ月は正直辛かった。でも半年経った頃に「教員時代より自分らしく働けている」と感じる瞬間があって、「やって良かった」と思えました」
——Re-Career受講生・30代女性・元中学校教諭→コンサルティング会社
- 生涯学習の視点で人間の成長に関われる…採用から育成まで、人材の成長のプロセス全体に関わることができます。
- 「教える」スキルが直結している…新入社員研修や育成プログラムの企画・実施では、教員としてのプレゼンテーション能力や教材づくりの経験が活躍します。
- 経営的視点が身につく…採用や育成は、会社全体の戦略と関連しています。その視点を通じて、社会や経済の仕組みをより深く理解できるようになりました。
- さまざまなキャリアの人と出会える…様々な背景を持つ求職者や、様々なキャリアを歩んできた社員と接することで、「人生の多様性」を実感できます。
大変だったこと・ギャップ
- 「成功」の定義が違う…学校では、生徒の成長が「成功」です。企業では、採用や育成による「ビジネス成果」が成功指標になります。その違いに最初は違和感がありました。
- 採用に関しての「落とされる経験」…学校では、すべての生徒を育成する立場ですが、採用では「選別」をします。その営みに心理的な葛藤がありました。
- 女性として、キャリアの制約を感じた…学校では比較的柔軟に働けていましたが、企業では転勤や異動の可能性など、ライフイベントとの両立が課題になりました。
現役教員へのメッセージ
「『教える』ことの価値は、学校に限ったものではありません。企業でも、社会でも、人間が成長するプロセスに関わる仕事はたくさんあります。自分の『教える力』『人と関わる力』は、どの場面で活かせるのか。そういう視点を持つことが大事だと思います。」

事例3|教育系企業の企画職へ|佐藤さん(仮名)
教員時代のキャリア
佐藤さんは、小学校で3年間教員として働きました。その後、病気のため一度は退職。回復後に、教育系企業に就職することを選びました。
転職の決め手
「教員を辞めて、一度は『この業界とは無関係な人生になるのかな』と思いました。でも、病気の治療期間に、『自分は教育に関わりたい気持ちを失っていなかったんだ』と気づきました。ただ、『学校現場』ではない形で、教育に関わりたいと思ったのです。」
転職してよかったこと
- 学校現場の『圧』から解放された…責任感の重さ、人間関係の複雑さから解放され、心の余裕が生まれました。
- 教育を「ビジネス」として見える化できた…企業では、教育課題と事業の関連性を考えます。その視点を持つことで、教育界全体をより俯瞰的に理解できるようになりました。
- 様々な専門家と協働できた…デザイナー、データアナリスト、営業など、学校では出会わない専門家と一緒に仕事をすることで、視野が広がりました。
- 自分のペースで仕事ができた…学校ほどの時間的プレッシャーがないため、質の高い仕事に集中できます。
大変だったこと・ギャップ
- 「利益」との関係に戸惑った…教育は本来、利益目的ではなく人間育成が目的です。その価値観と、企業の利益追求とのあいだで、道徳的な葛藤がありました。
- 教育現場との距離…教育企業の仕事をしていても、実際の学校現場の困難さを直接経験しません。その距離感に、時に罪悪感を感じることもあります。
- キャリアの確実性の不確実さ…企業では、立場が不安定になる可能性があります。人員調整やポジション削減は、学校より起こりやすいのです。
事例4|フリーランス・独立の道|山本さん(仮名)
教員時代のキャリア
山本さんは、公立高等学校で情報科を教えていました。教員歴6年。ICT活用に力を入れ、教材開発や授業実践での工夫を重ねていました。
転職の決め手
「教員としてのICT活用の研究成果を、もっと多くの学校や先生に広めたいと思いました。ただ、学校の枠の中では、それが難しいと感じました。フリーランスとして、教材販売、オンライン講座の配信、学校向けのコンサルティングなどで、自分の知見を活かせるのではないか、と考えたのです。」
転職してよかったこと
- 自分のペースで仕事が進められる…企業勤務ではなく、自分の得意分野に集中できます。
- 複数の「教える機会」を持つことができた…オンライン講座、コンサルティング、執筆など、様々な形で教える機会があります。
- 教育と経済の両立が可能になった…教育への思いを守りながら、経済的に自立することができています。
「転職してから「あれ、こんなはずじゃなかった」と思う瞬間もありました。でもそれは教員時代も同じだったはず。大事なのは、自分で選んだ道だという納得感です」
——Re-Career受講生・30代男性・元高校教諭→EdTech企業
- 自分の成長を実感できた…全てが自分の責任であり、その分成果が直結します。その充実感は教員時代にはありませんでした。
大変だったこと・ギャップ
- 経営的なスキルが必須になった…教材開発は得意でも、営業、経理、事務手続きなど、新しく学ぶべき領域が多くありました。
- 給与の不安定性…教員時代のような安定収入がなくなり、数ヶ月の収入が不安定になることもあります。
- 孤独感…組織に属さないため、相談できる相手が限定されます。判断や方向性の決定を、全て自分で行わねばなりません。
- 社会的信用の問題…ローンやクレジットカード申請など、フリーランスは信用面で不利になることもあります。
複数の事例に共通する点
転職後の充実感
4人の事例に共通しているのは、転職後に「心の余裕」が生まれたということです。教員時代は感じていなかった、人生を俯瞰的に見つめる力が得られています。
「教える力」の多様な活かし方
転職後の仕事は大きく異なりますが、4人とも何らかの形で「説明する力」「人に伝える力」を活かしています。その力は、業界や職種を超えて評価されるスキルなのです。
後悔と納得のあいだで
4人とも、完全に「転職してよかった」とは言いません。学校現場で失ったもの、諦めたキャリアパスもあります。ただし、その葛藤を抱えながらも、「今の選択を納得している」というのが共通点です。

現役教員へのメッセージ
転職経験者たちからのメッセージをまとめると、次のようになります。
- 「『教員を辞めたら人生が終わる』と考える必要はありません。別の形で、教育や人間育成に関わることはできます。」
- 「教員としての経験は、決して無駄になりません。その経験の活かし方は、1つではないのです。」
- 「心身の健康が侵されている状態で我慢することは、本当にはその後の人生のためになりません。」
- 「『転職』という選択肢があることを、知っていること自体が、大きな心の支えになります。」
- 「焦る必要はありません。十分に考え、準備をして、納得した上での決断であれば、後悔は少なくなります。」
筆者・新川紗世より
キャリアチェンジのリアルを知ることは、とても大切です。SNSには「転職して最高!」という声ばかりが目立ちますが、現実はもっと複雑。大変なことも、予想外なこともある。それでも、自分で選んだ道だからこそ、乗り越えられるのだと思います。Re-Careerでは、転職後のフォローアップも大切にしています。
「転職して最初の3ヶ月は正直辛かった。でも半年経った頃に「教員時代より自分らしく働けている」と感じる瞬間があって、「やって良かった」と思えました」
——Re-Career受講生・30代女性・元中学校教諭→コンサルティング会社
「転職してから「あれ、こんなはずじゃなかった」と思う瞬間もありました。でもそれは教員時代も同じだったはず。大事なのは、自分で選んだ道だという納得感です」
——Re-Career受講生・30代男性・元高校教諭→EdTech企業
まとめ
キャリアチェンジのリアルは、美しい物語ではなく、葛藤と納得のあいだで揺れるものです。完全に「正解」がある決断ではなく、複数の選択肢の中で、自分の価値観に最も合ったものを選ぶプロセスなのです。転職経験者たちの話を聞くことで、自分のキャリアについて考えるときの参考になることがあれば幸いです。最も大切なのは、何かを選ぶことではなく、自分自身について深く考える営みそのものなのです。