教員の働き方改革の現状と課題|変わること・変わらないこと

新川紗世 Re-Career代表

この記事の著者

新川紗世(あらかわ・さよ)|Re-Career株式会社 代表取締役

元公立中学校英語教員(10年以上)。教員時代に病休を経験し退職。その後、教員専門のキャリア支援会社を設立。著書『「やめたいかも」と一度でも思ったら読む 教員の転職思考法』。スタッフ全員が元教員のプロフェッショナル集団として、延べ1000名以上のキャリア支援に携わる。

ここ数年、日本の教員の働き方について社会的な関心が一層高まっています。学習指導要領の変更、部活動指導、保護者対応の複雑化、そして増え続ける事務業務。こうした背景のなかで、教員の長時間労働は「個人の問題」ではなく「社会問題」として認識されるようになりました。2021年から現在にかけて、制度面では大きな変化が起きています。一方で、学校の現場ではどう変わったのか、教員たちの実感はどうなのか。このギャップを理解することが大切です。

教師のバトンが可視化した現場の声(2021年~)

モヤモヤ2.png — 変わらない現実

2021年3月26日、文部科学省は『#教師のバトン』というプロジェクトを開始しました。目的は単純です。Twitter上で、現職教師が教職の魅力を学生や社会人に伝えるキャンペーン。すべての教員が自分の仕事のやりがいを発信する、そういう企画でした。

しかし翌日の3月27日、このプロジェクトは予想外の方向へ進むことになります。SNS上で急速に拡散する中で、現役教員・元教員からの大反発が起きたのです。予定されていた『魅力の発信』ではなく、現場の『悲鳴』があふれ出してしまったのです。

その規模は驚くべきものでした。2021年3月26日から4月28日の間に、35,506件のツイートが投稿されました。そしてその84%がネガティブな感情を示していました。残り16%がポジティブでした。わずか2ヶ月間で、教員たちの労働環境に関する大量の声が一堂に集まったのです。

投稿の内容は、労働環境の改善要求、勤務時間の問題、部活動指導による過労、保護者対応・クレーム処理の負担、授業準備時間の不足など、多岐にわたりました。文科省の当初の想定を大きく上回る反発でした。

注目すべきは、このプロジェクトが事実上の活動停止に至ったあとも、#教師のバトン の投稿は止まらなかったということです。現在2024年から2026年にかけても、依然として教員の悲痛な声がTwitter上で投稿され続けています。5年経った今も、教員たちは同じテーマで声を上げ続けているのです。

モヤモヤ1

この数年で「変わったこと」

制度面では、確実に変化が起きています。2025年を中心に、複数の大きな改革が実行に移されました。

最も象徴的なのは、2025年6月11日に成立した給特法改正法です。給特法(教職員給与特別措置法)は1972年に制定された法律で、教員に時間外勤務手当(残業代)を支給しない制度でした。これを「定額働かせ放題」と表現する声も多いです。この法律が、実に54年ぶりに改正されたのです。

改正の最大のポイントは、教職調整額の段階的引き上げです。現行の月給の4%から、段階的に10%へ引き上げられることが決まりました。具体的には、2026年1月に5%、その後毎年1%ずつ引き上げて、2031年1月に10%に到達する予定です。1972年以来初めての引き上げであり、制度的には大きな前進と言えます。

「「ノー残業デー」ができても、仕事量は変わらないから、結局家に持ち帰って仕事しています。数字上は残業が減ったことになってますけど、実態は何も変わっていない」

——Re-Career受講生・30代男性・元中学校教諭

同時に、新しい職位『主務教諭』の創設も決定されました。一般教諭と副校長の中間に位置する職で、月額約6,000円の処遇改善が伴います。また、学級担任の新しい手当として『ホームルーム担当手当』が月額3,000円で導入されることになりました。

教員定数も増員されています。令和7年度(2025年度)には教職員定数を5,827人増員することが決まりました。小学校の35人学級推進、教科担任制の拡大、新人教師支援体制強化などが目的です。2026年度からは、中学校でも35人学級化の推進が予定されています。

部活動の地域移行も進んでいます。2023年度に339市区町村で採択された実証事業は、2024年度には510市区町村に拡大しました。これは教員の過重な部活動指導負担を軽減する施策です。休日の部活動移行は全国の54%の自治体で計画されており、2026年度までには68%に拡大する見込みです。

さらに、校務DX(デジタルトランスフォーメーション)や業務支援員の配置も進んでいます。教員業務支援員の配置により、小学校では時間外在校時間が59時間から41時間に、中学校では81時間から58時間に削減された事例も報告されています。

それでも「変わらないこと」

前向き1.png — 変化への希望

制度は確実に動いています。しかし、現場の教員たちの声には、『制度の改善と現場の実感のギャップ』が存在しています。

最も根本的な問題は、給特法の根本構造が維持されているということです。いくら教職調整額を引き上げても、『定額働かせ放題』という制度そのものは変わりません。つまり、残業代は支給されないのです。2025年6月12日、日本労働弁護団と自由法曹団は改正給特法に反対声明を発表し、『根本的改正』を求める立場から批判を述べています。

現実の労働時間はどうなっているのでしょうか。文科省の教員勤務実態調査(令和4年度実施)によると、小中学校教員の時間外在校等時間は依然として月平均47時間です。改革前後でこの数字は大きく変わっていません。

教員不足も深刻なままです。2025年5月1日時点の欠員数は3,662人に上ります。小学校1,478人、中学校1,184人、高等学校418人、特別支援学校514人。この不足は『制度が変わったから解決された』というわけではなく、増員施策があってもなお足りない状況が続いています。

そして、新しく導入された担任手当の額についても批判があります。月額3,000円というのは、1日あたり約100円です。学級担任が担う生徒指導、保護者対応、学級運営などの責務を考えると、この金額が象徴的な意味しかないと指摘する教員は多くいます。

部活動の地域移行も、平日の移行は遅れています。休日移行の計画率が54~68%に対し、平日移行の計画率は31~39%にとどまっています。地域でのスポーツ・文化活動の受け皿が十分でない地域もあり、都市部と地方部での実施格差も存在しているのです。

チームワーク

現場の先生たちの声

『数字の改善』と『現場の体感』のギャップはどこから生まれるのでしょうか。

改正給特法により、確かに教職調整額は段階的に引き上げられます。定数も増員されます。部活動の負担も軽減される地域が出てきます。しかし、多くの教員が口にするのは『改善が遅い』『足りない』という実感です。

「部活動の地域移行が始まって、少し楽になりました。でも「じゃあ空いた時間で別の業務を」と言われて……結局、総量は変わらないんですよね」

——Re-Career受講生・20代女性・元高校教諭

特に、教員不足の悪循環が続いている限り、個々の改革施策の効果は限定的です。定数が増えても配置されない地域があります。部活動の地域移行が進んでも、平日の指導が減らない学校があります。担任手当が月3,000円になっても、学級担任の実際の仕事量は変わりません。

2024年のTwitter上で投稿されている#教師のバトン のツイートの内容は、2021年の炎上時と変わっていません。長時間労働、給特法による残業代未払い、保護者対応やクレーム処理の負担、部活動指導による過労、精神疾患による休職の増加。これらの課題は今も解決されていないのです。

ここで大切なのは、制度改革を『待つ』べきか、『自分で動く』べきかという個人の判断です。教員は受け身で改革を待つのか、それとも自分のキャリアについて主体的に考えるのか。この選択が、これからの教員人生に大きな影響を与えることになります。

前向き1

教員一人ひとりにできること

制度改革が進む中でも、教員個人ができることがあります。re-career.netの理念『自己理解・キャリアを考えること自体が大切』はここに深く関わっています。

1つ目は、自分の働き方を可視化することです。毎週何時間の時間外勤務をしているのか、どの業務に最も時間が取られているのか、年間何日の有給休暇を使っているのか。数字で把握することから始まります。改正給特法で『月45時間以下』の目標が設定されましたが、その目標に自分がどの位置にいるのかを知ることが重要です。

2つ目は、制度を使いこなすことです。給特法は改正されます。部活動の地域移行は進みます。年休を時間単位で取得できる制度があります。これらの制度は『自動的に』教員の負担を減らしてはくれません。自分から利用を申請し、上司や学校に相談し、制度を活用する主体的な行動が必要です。

3つ目は、キャリアについて考える時間を確保することです。これが最も大切です。教員として今後どのようなキャリアを歩みたいのか。このままの環境で続けるのか、それとも転職や副業を検討するのか。あるいは管理職を目指すのか。こうした問いに向き合う時間を、意識的に作ることが必要です。

4つ目は、一人で抱え込まないことです。同僚、管理職、スクールカウンセラー、外部の支援機関。自分の悩みや課題を共有できる人間関係をつくることは、働き方改革と同じくらい重要な『改革』です。特にメンタルヘルスの問題は個人では解決しにくいものです。

制度改革を待ちながらも、自分のキャリアは自分で考える

2026年現在、教員の働き方改革は『過渡期』にあります。給特法改正は段階的に施行されます。部活動の地域移行は地域によって進度が異なります。教員定数の増員は予算措置の中で進みます。

制度改革は確実に進んでいますが、『全員の悩みが解決される』というわけではありません。なぜなら、教育という営みの特性上、教員の負担を完全になくすことは難しいからです。新しい課題も生まれるでしょう。

だからこそ、個々の教員に求められるのは『制度改革の結果を待つ』という受け身の姿勢ではなく、『自分のキャリアを自分で考える』という主体的な姿勢なのです。

これは、教員を辞めることを勧めているのではありません。教員として続ける場合でも、転職を選択する場合でも、キャリアチェンジを模索する場合でも、『自分の人生と仕事について真摯に考える』ことが大切だということです。

改革を『待つ』のではなく、自分自身のキャリアを『考える』。その思考プロセスの中で、自分にとって本当に必要な働き方、本当に価値のあるキャリアが見えてくるのではないでしょうか。

まとめ

教員の働き方改革は確実に前進しています。給特法の改正、部活動の地域移行、教員定数の増員など、制度面での変化は着実に起きています。しかし、現場の実感としてはまだ追いついていないのが現実です。

大切なのは、制度改革を待つだけでなく、自分自身のキャリアについて主体的に考えること。教員として続ける選択も、転職を選ぶ選択も、自分で考えて決めた道であれば、どちらも正解です。

一人で抱え込まず、教員の働き方に詳しい専門家に相談することで、新たな視点が見つかることもあります。Re-Careerでは、教員の働き方について一緒に考えるお手伝いをしています。

Re-Career代表 新川紗世
元教員が運営するキャリア支援

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